デザイナー・ダイアリー:「フィット・トゥ・プリント」(Designer Diary: Fit to Print)
本記事は、Peter McPherson氏が2023年9月29日に投稿した「Designer Diary: Fit to Print」の翻訳である。
Peter McPherson氏はニューヨーク北部在住のゲームデザイナー兼フリーランスライター。代表作として、「タイニータウン」や「Wormholes」がある。
「フィット・トゥ・プリント」は、Peter氏が、ヒット作を連発するFlatout Gamesと初めて組んだ作品である。Flatout Gamesといえば、「キャリコ」や「カスカディア」等の中量級のパズルゲーム制作を得意とするイメージがある。「フィット・トゥ・プリント」も1人から6人までプレイ可能なパズル系タイル配置ゲームであるが、彼らにとっては、リアルタイム要素をもつ意欲的な作品なのかもしれない。
本記事は「フィット・トゥ・プリント」のデザイナー・ダイアリーとなる。Kickstarterで支援した方々には届き始めた頃に翻訳は済んでいたが、日本語版が発表されたこともあり、一旦は公開を取りやめた記事となっている。日本語版の発売は4月から5月となっており、そこそこ近くなったので公開することとした。
元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像は、BGGから引用している(クレジット: Shawn Stankewich)。
最初のひらめきから具体的な構想に至るまで
「フィット・トゥ・プリント」のアイディアは、2019年初頭に私の妻であるIndianaと会話をした後に、すぐにまとまった。当時、彼女は地方新聞社の記者であり、その後、編集者に昇進した。このことがあって、新聞社を経営するというテーマのゲームがうまくいくかもしれないと考えるようになった。頭の中でそのアイディアを色々と練って、メモとスケッチを作成した後、最初のプロトタイプに取り掛かったんだ。
テーマが最初にあった。けど、すぐ後にメカニズムが追いついてきた。ニュース編集室の混沌っぷりを捉えるために、リアルタイムのタイル配置を選ぶのが自然な流れだった。タイルは新聞の記事、写真、広告となる。ボードは新聞の第一面だ。
影響とゲームプレイのコンセプト
早めにこのことを言っておきたい。私は、Vlaada Chvátilの「ギャラクシー・トラッカー」を敬愛していて、Indianaに次いでこのデザインに対して着想を得るのに貢献した2番目の要素だ。Chvátilは、このゲームのデザインの中に取り入れること必要不可欠だと考えた正しいことを多くやってのけている。つまり、テーブルの中央でタイルを(片手で!)めくるとか、他のプレイヤーのために表向きにしておくとかといっただけでなく、各ラウンドでサイズが大きくなる3つのボードがあるということだ(このことは、私のデザインプロセスの後のほうになって出てくるけどね。)。
新聞というのは、必ずしも書かれた記事が配列されていくものではない。一般的な話をすれば、書くべき内容がまずあって、その後に配列されて印刷所に送られていく。
そうすると、「ギャラクシー・トラッカー」とは異なり、プレイヤーは、タイルを獲得しながら、ボード上にタイルを確定的に(explicitly)配置することができないことになる。その代わりに、ボール紙の立体的な構造物である自分のデスクに保持しておくために選んだタイルを配置しなければならない。プレイヤーが適切なタイルの量と組合せが揃ったと思った際に、"レイアウト"と言って自分の新聞にタイルを配置するフェーズに切り替える。全ては、ラウンドの制限時間内に行われる。
各プレイヤーは、自分の判断でレイアウトフェーズに突入するので、プレイヤーは、タイルの収集と自分の新聞上へのタイルの配置にどれほど時間を費やすかを決断することになる。けど、一旦、(※レイアウト)フェーズに切り替えてしまうと、元の(※タイル収集)フェーズに戻ることはできない。
最初のプロトタイプとゲームプレイのデベロップ
私は、プレイヤーに1ラウンド3分から5分まで間に考えるべきことがかなり多すぎるといった程度のものを提供したかった。隣接して配置することができない(cannot touch)タイルの種類、隣接したタイルから得点を得られる写真、自分の新聞の成功を左右する広告収入、良いニュースと悪いニュースのバランスといった具合だ。
プレイヤーは、こういった要素の1つは忘れてしまう可能性が高いけど、それで大丈夫。多くのポリオミノゲームとは異なり、「フィット・トゥ・プリント」は、不完全さをテーマとしたゲームだ。すなわち、できる限り良い新聞の第一面を制作することをテーマとしているけど、"完璧な"第一面なんてほぼ絶対にあり得ない。プレイヤーは余白が生まれてしまったり、タイルが多すぎたり少なすぎたりする。どんな状況であれ、プレイヤーの新聞は印刷所に到着する、いずれにせよね。
私の最初のプロトタイプは、意外なことに最終の製品版と似ているように見える。もし、既にプレイしたことがある人ならば、新聞の寸法のみならず、多くのタイルの大きさ(※が同じであること)がわかるだろう。
3種類のタイルは最初から存在していたが、広告の役割は最終的な効果に落ち着くまでに数回変更した。プレイヤーの広告収入の合計は、最終得点には全く影響しないが、3ラウンドを終えてその合計が最も少なければ、そのプレイヤーは勝者とはなり得なくなる。当初からこの要素はテストプレイヤーの間で好評で、私のデザインの中核的な要素となった。
次に、プレイヤーに固有能力を与えて、プレイヤーが終了した順にドラフトする、中心的となるユニークのタイルを手がけた。デベロップ前の最後の大きな変更は、3ラウンドにわたってボードのサイズが大きくなるところだった。ゲームが進むにつれて得点する可能性が高まり、タイルを見積もっていくパズルがより一層やりがいのあるものとなるという愉快な副次的な効果をもたらした。
このプロセスの全過程において、Indianaとテストプレイをして、何が適切だと感じるか、どの要素がニュース編集室の感覚を正確に呼び起こすかに関する情報(input)を得られるという利点があった。
Flatout Gamesとの作業
私が最初にFlatout Gamesのチーム全員であるShawn、Molly、Robbに会ったのは2019年のGen Conだった。「タイニータウン」と「ポイントサラダ」の両方ともその会場で初お目見えだったが、Alderac Entertainment Group(AEG)が主催のコンベンション前のイベントで、私たちはおしゃべりをして、私のプロトタイプをみせることになった。彼らは私のプロトタイプを楽しんでくれて、そのコンベンション中に少なくとももう1回プレイすることになるほどだった。
もちろん、私は彼らが出版チームであることを知っていたけれども、まずは友人として知り合うことができてとても嬉しかったよ。コンベンションからしばらくすると、彼らは、「フィット・トゥ・プリント」のデベロップとクラウドファンディングに興味を示してくれたんだ。
Flatout Games CoLab(※Flatout Games内にあるデベロップ等を行う制作チーム(部署)のことのようだ。創設メンバーに加えて、Kevin Russ、David Iezzi、Dylan Mangini、Beth Sobelが作業を行っており、過去には「キャリコ」のKickstarterに至っている。)におけるデベロップの間、中核となるゲームプレイに何点か追加がされた。例えば、プレイヤー固有能力と"ニュース速報"モジュールだ。また、平らなデスク"ボード"を立体のデスクに取り替えて、器用さの要素を別に付け加えることにした。ゲームがあまりにも酷にならないように、配置制限に違反したタイルはプレイヤーのボードから外すのではなく裏返しにして、より多くの余白が埋まるようにした。
さらに、いくつかのモードも追加した。ファミリーモード、手番制モード、パズルモード、そしてソロモードの改良版だ。デベロップの最後には、私が考えたバカバカしいチーム制の"ニュース編集室モード"を含めることにした。これは、(1つの箱で)最大12人のプレイヤーがチームで作業することとなり、1つの部屋で新聞記事タイルを収集する記者と、集めたタイルを配置する編集者に分かれるというものだ。これは、私の当初のゲームプレイのコンセプトであって、これを取り入れることができて嬉しいよ。
賑やかな森林に囲まれた町というテーマに確定したら、多種多様な見出しや新聞社自体の名前を考え出すのがすごい楽しかった。よく見てくれたら、記事や写真の中にいくつもの物語があることがわかる。
広告収入による即排除ルール(※上述した広告収入が最も少ないプレイヤーは勝者となれないルール)については多くの議論があった。万人にウケるものではないということはわかっていたが、プレイするのに約20分のゲームであれば、こういった厳しいルールを含めても許されるだろうさ。
広告は新聞のニュース内容に何らの貢献をしないが、広告がないと、脚光を浴びることはない。私たちは、プレイヤーに数値化するのが難しい2つのことのバランスをとってほしかった。その2つのこととは、得点を獲得できるタイルの入手数と、"排除されないための"タイルの入手数である。結局のところ、広告収入のせいで敗退してしまうのは、最も高得点を得たプレイヤーにのみ関係するが、最も高得点となったプレイヤーは、広告でないものに最も多くのスペースを割く可能性が高いので、想像し得る以上に頻繁に起こってしまう。
Ian O'Tooleとの作業
Flatout GamesがDylan Manginiと一緒にイラストレーター兼グラフィックデザイナーの1人としてIan O'Tooleをグループに連れてきた時は、私は大喜びしてしまった。彼の作品が適切で豪華なものになるだろうとわかってはいたが、彼がこのゲームの世界観と伝承(lore)にどれほど多くの貢献をするかは知らなかった。
初期のプロトタイプは、ぼんやりと1920年代から1930年代のアメリカをテーマにしていた。そして、広告と写真の全て(それに見出しの多く)が、その時代に由来したものだった。私は実際の歴史的な出来事を取り入れたくて、よく考えて慎重に扱うべき題材を取り扱うか、その時代が単純で楽しいものだと装うかする必要があった。
Flatout GamesはIanと一緒に協力して、このゲームがもっと空想的(fanciful)になるようなスタイルを見つけようとしていた。このゲームの気軽さ(lightheartedness)と合致するようなテーマについてブレインストーミングを行ったら、Mollyが「たのしい川べ」風の世界観(The-Wind-in-the-Willows-style universe)にするというアイディアに至って、奇抜な20分間のパズルゲームに適したもっと楽しい見出しや写真を考え出すことができた。私たちはIanに希望するイラストの詳細な説明をしたけれど、彼はよく自分自身のコンセプトを思いつき、私たちの提案を微修正してより一層魅力的なものに仕上げてくれた。私のお気に入りの例は、次のイラストだ。私たちは、彼にダムが決壊する描写を依頼したが、その代わりに私たちはこの悲しんでいるビーバーのエンジニアを受け取ったんだ。
彼は、チームが考えた広告タイルの売り文句を発展させた。それに、彼は、頻繁に自分が考えついた冗談や語呂合わせを追加したんだ。それに、彼は、このゲームのグラフィックデザインも担当してくれたおかげで、その結果として、一貫性があって(cohesive)、シスルビル(Thistleville, ※アザミの村)の世界観に根ざしたと感じられるタイルや新聞ボードのまとまりとなった。
チームの成果
デベロップ担当者、アーティスト、グラフィックデザイナーと一緒になって何か月もゲームのために作業をしていると、自分自身では到底考え出せない別の物を作っているように感じるようになることが多い。私だけでは考え出せなかったものといえるので、「フィット・トゥ・プリント」では特にそう感じたよ。Indianaはいつもテストプレイに乗り気でいてくれて、何年間も助言や励ましをしてくれていた。Shawn、Molly、それにRobbは、非常に多くのアイディア(とゲームモード全体)を提供してくれたし、このゲームの構想は最初から共有されていた。Ian O'Tooleは、このプロジェクトに参加してくれて、このゲームの世界観とキャラクターを形作るのを手伝ってくれた。Dylan Manginiはルールブックをデザインしてくれて、ゲームの中核を簡潔に伝えてくれ、様々なゲームモードやアチーブメントを際立たせてくれた。そして、Kickstarterでは8059名の支援者と共に、このゲームを小売店に卸してくれたJohn ZinserとAEGがいる。
非常に多くの人たちがこのゲームを形にしてくれた。そして、みんなにこのゲームを共有するができてとてもわくわくするよ。
以上