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やわらかな棘
【読書】 やわらかな棘 / 朝比奈あすか 幻冬社文庫
冒頭はこんな書き出しで始まる。
頭のなかで文章を考えている。
好きだった人に復讐するための文章。
怒りを持続させるのはとても苦しいことだけど、
この気持ちをしずめようとは思わない。
おい、おい、最初っから穏やかではないぞと思いながら読み始める。
4作品の短編が収録されている。
・まちあわせ ・ヒヨコと番長 ・美しい雨 ・春待ち
短編といっても4つの作品には繋がりのある連作小説となっている。
それぞれ主人公は違うのだが、それぞれの主人公たちは他の作品の中にも登場して、そしてちょっとした不穏を作り上げている。
4作品とも、女性が主人公である。
女性特有と表現をすると現代では語弊があるかもしれないが、多くの女性が人生の中で遭遇する『面倒くさい感情』が描かれている。
どの作品も納得する内容だった。
わかりやすく言えば「あるある」なのだ。
でも、著者・朝比奈あすかさんが巧みに描いた女性の感情は、びっくりするほど細かく深いとことまで入り込んでいる。それゆえ「あるね、こういうのあるある」と思いながら読んでいくのだが、私自身も気が付かなかった女性の深層心理というものを改めて知ることになった。
棘である。
タイトルにもある棘が存在する。
人は皆その手の中にやわらかい棘を隠し持っている。どんなに優しい人でも穏やかな人でも持っている。ひょっとしたら神様でさえ持っているのかもしれないのだ。
それは生身の体で生きていくための鎧の一部なのかもしれないと思う。
いつもは自分が持っている棘に気が付かないが、ふとしたことでそれを思い出す。そしてその棘をいつどういう形で使おうかと、効果的な使い方はないものかと、考え出す時がある。
いつしかそれはやわらかな棘から鋭利な棘に変わるかもしれない。それは誰にも自分自身にもわからないことではあるけれど。
読後感としてはこの棘が自分にもあることがわかる。今は他者を傷つけないようにカバーをかけて大事に持っているが、カバーを外せば棘は確実に誰かを傷つけることができる棘だ。
相手が傷つけるに値する卑怯なヤツならまだしも、何の罪もない人を傷つけることさえあるのだろう。
でも自覚しておこう。誰もが持っている『やわらかい棘』という存在を。
「そんなもの持ってないわよ」と言うあなたも、
ほらみて、持っているでしょ。
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