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現実という話のつづき
「百年と一日/柴崎友香」を読み終えた。
この本を読んで思ったことがある。おもしろい本とはどういうものなのか?恋愛、サスペンス、時代、ミステリー、人生ドラマ...いろいろな分野があり、それぞれにドキドキしたりハラハラしたり切なくなったり悲しかったり抱腹絶倒だったりと数々の事件や出来事が起こる。それらが豊富であればあるほどおもしろいと思っていた時期もあった。でも最近は「そうでもないかもしれないな」と思うようになった。以前、江國香織さんの「去年(こぞ)の雪」を読んだ時もそう思ったのだけれど、この作品を読んで確信した。
この作品はまるでどこかの町で、あるいはどこかの国で、今現在、あるいはちょっと昔、当たり前のように生活している人たちの日々の出来事を描いている。ひょっとしたらそこに自分が登場しても何の違和感のない形で存在することができるほどの日常だ。ただちょっとした言葉のやり取りにヒヤッとする瞬間がある。それは「何かが起こるのかもしれない」と思ったり「これは私のことかもしれない」と思ったりしてヒヤッとするのだ。でも何も起こらないし、物語は淡々と過ぎていく。もちろん多種多様な出来事が起こる物語のおもしろさもあるのだけど、今の私はこういう作品を好む時期なのかもしれない。
33の短い物語が繰り広げられる。近所の人の立ち話や、友達から聞いた遠い昔の想い出話を読んでるような...ふわっとした雰囲気の中で、人生ってこうやって過ぎていくのだなぁと感じる。
その物語の中には、私もあなたも、いる。人生って、映画やテレビドラマのようなことばかりではなくて、ごくありふれた事柄で成り立っている。それが現実でありそれがこの物語だ。
33の短編のそれぞれにタイトルがついているが、それがその物語のあらすじを書いたように長い。タイトルを読むだけでもなかなかのもの。
目次
一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話
角のたばこ屋は藤に覆われていて毎年見事な花が咲いたが、よく見るとそれは二本の藤が絡まり合っていて、一つはある日家の前に置かれていたということを、今は誰も知らない
逃げて入り江にたどり着いた男は少年と老人に助けられ、戦争が終わってからもその集落に住み続けたが、ほとんど少年としか話さなかった
戦争が始まった報せをラジオで知った女のところに、親戚の女と子どもが避難してきていっしょに暮らし、戦争が終わって街へ帰っていき、内戦が始まった
など、全33編。
新しい試みの新しいタイプの作品だと思った。
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