春には春の、曖昧な心意気を
2021.3.9(火曜日) rhythm
朝ごはん抜きで力が出ない。
朝から3ヶ月ごとの内科定期検査を受ける。私の体を診てもらうというより、担当医の様子を見に行くのが私の目的だ。私の担当医であるT医師は、元気な時と不調の時があって、自分が医師ということを忘れて極端に顔に出るタイプだから心配になる。『イトカズさん、最近の調子はどうですか?』と聞く顔がめちゃくちゃ元気だったり、この世の終わりのような顔をしていることもある。そんな時はこちらが『先生、大丈夫?』と聞きたくなる。このT医師は医学会ではけっこうな有名人らしく、他の病院に行ってもT医師の講話がビデオで流れてたり健康雑誌に登場してたりする。病院内での仕事以外の仕事が多いのではないかとお節介な母親のような気持ちで思っている。
今日は、ほがらかだった。髪もさっぱりと切っていた。
ひと安心だ。
病院の後は、病院の前にあるカフェで朝と昼を兼ねたごはんを食べるのも目的のひとつだ。昼前のカフェには誰もいなかった。お気に入りの席に堂々と座る。オニオングラタンスープ付きのモーニングセットを注文する。ゆっくり食べる。オニオングラタンスープのチーズの量をもう少し多めにしてくれるといいのになと思う。コーヒーをお代わりする。本を読む。原稿を書く。メールをする。いつもと同じメニューでいつもと同じルーチンワーク。きっちり2時間。しめし合わせたように私の周りには誰もいない。
しめしめ...と長居する。
スタッフの女性ふたりが暇そうにカウンター内でおしゃべりをしている。内容までは把握できないが、とても楽しそうだ。ボッサノヴァのBGMと彼女たちの声が混じり合うと、フランス語を聞いてるような気持ちになる。ここは私と彼女らだけの特別な空間のような気持ちになり、さらに長居する。
「いらっしゃいませ」フランス語から日本語に突然変わった。どうやらお客が来たようで、特別な空間が終わりを告げる。残ったコーヒーを飲み干し、帰り支度をしてカフェを出る。「ありがとうございました〜またどうぞお越しくださいませ」完全に日本語だ。
帰りに寄ったスーパーで志村けんさんのイラストの入った日本酒を買う。志村けんさん、時間を戻せるなら戻ってきて欲しい人のひとりだ。今夜はけんさんの顔を見ながら心穏やかに飲もうと思う。
風が暖かい。背中にぶち当たる風がほわほわとしている。
猫が待ってる。早く帰らなきゃ。