マガジンのカバー画像

noteは小説より奇なり

50
時々、思いついたら書いている小説集です。 連続短編小説「短い時間の長い瞬間」「Stairway to Heaven」「不幸中にしか幸せはないのか...」など
運営しているクリエイター

記事一覧

【小説】 隣人までの距離

【オリジナル掌編小説】 隣人までの距離 今日から6月か、と軽いため息を漏らしながら、いつ…

イトカズ
4か月前
93

【掌編小説】忘れた世界からの余寒見舞い

水道の水のぬるさに、春の後ろ姿が見えそうなくらいまで季節が進んだことを感じる。 春爛漫と…

イトカズ
5か月前
75

[ショート・ショート] ある日のマシーン日記

「何とか言えよ」 地方のサラリーマンだろうか、少し薄くなった後頭部に何かを塗りつけて、か…

イトカズ
2年前
71

短編小説 「八月の呻吟」3

3−3 最終話 高東綾乃は1週間前の昼下がり、娘の美佳を市民プールに連れて行く途中で、橋…

イトカズ
2年前
67

短編小説 「八月の呻吟」2

3−2  妙子は上がり框にスーパーのビニール袋を置き、サンダルのストラップのホックを外し…

イトカズ
2年前
62

短編小説 「八月の呻吟」 1

3-1   八月十二日 薄い黄色のワンピースを着て左手に白いレースの日傘をさし、右手にスーパ…

イトカズ
2年前
62

掃除婦のための手引き書

ルシア・ベルリンの文章を読むのは初めてだった。 ビリビリと痺れた。 それは忘れかけてた神経痛が雨と同時に再発した時のような「あぁ、」という痺れだった。 匂い立つような文章で、目の前でその光景が繰り広げられているかのようなリアルさと共に、主人公が感じる痛みや苦しみがまるで自分のことのように目から入った文字が脳で吸収され体全体に行き渡る感じがする。 さもすれば、自分も物語の中の登場人物のひとりかもしれないと錯覚してしまう。 これほどまでに読み手を翻弄させるのは、著者の生い立ちによ

短い時間の長い瞬間 (最終話)

短い時間の長い瞬間 27[短い時間の長い瞬間(最終話)] ツツジの枝の隙間から相変わらず青…

イトカズ
2年前
38

否応なしに動き出す3人の時間

短い時間の長い瞬間 26[否応なしに動き出す3人の時間] 美涼は、居酒屋の店長のところから…

イトカズ
2年前
41

ひとときのありふれた日常、愛おしく輝き

短い時間の長い瞬間 25[ひとときのありふれた日常、愛おしく輝き] 朝食の準備は剣志と綾乃…

イトカズ
2年前
40

覚悟の眼に映るハナミズキ

短い時間の長い瞬間 24[覚悟の眼に映るハナミズキ] 菜津は、病室の窓から少し離れたところ…

イトカズ
2年前
36

日常の片隅にある、迷いの世界で

短い時間の長い瞬間 23[日常の片隅にある、迷いの世界で] 朝食には手をつけないまま、菜津…

イトカズ
2年前
36

さまよう手、春の終わりに。

短い時間の長い瞬間 22話[さまよう手、春の終わりに。] 美涼はバッグの中に手を突っ込み、…

イトカズ
2年前
38

進む時間と停滞する時間の交差点

短い時間の長い瞬間 21話[進む時間と停滞する時間の交差点] 剣志は美佳と綾乃との生活をし始めて10日ほど経った。 新居に引っ越したと同時に、綾乃と籍を入れた。美佳の親権問題は、問題なく書類も通り、確定日を待つばかりとなった。 美佳は当然のことながら、綾乃のことを「新しいママ」とは思っていない。 でも微妙なニュアンスで、「そうかもしれない...」と思っているのかもしれないが、大人の目からはその確定はできなかった。 「綾乃お姉さん」と呼んで、年の離れた友達のように接している。