#009 超アナログな農家で元システムエンジニアは活躍できるか
私の就農前は牛達の情報を手書き管理していました。子牛市場から導入した子牛の情報を記載し、その牛が出荷されたタイミングで追記をするというシンプルな管理方法。
就農時に現状を把握するために過去の決算や保有している牛について一通り目を通した際に、強く感じたのは全体把握の難しさ。内心良く管理できたものだと感心します。まぁ牛の健康状態に気をつかっていた母の気配りが大きな問題を起こさなかった要因かもしれません...
今だ試行錯誤の最中ではありますが、今の状況を整理して今後の改善の一歩にしてみようかと。
〇まずは全体を把握しやすく、情報を蓄積することから
1.これまでのデータをエクセルにまとめよう
父の手書きの手帳を前に、「とりあえずこの状態はやばい」と思い、過去の手帳をあるだけひっぱりだしてエクセルに入力していきました。これを機に作成したのが「肥育牛累積導入簿」。
どんなデータがあると良いか、手に入る情報は何かというところから試行錯誤していき、現時点では計400頭の牛のデータが比較・分析できる状態になっています。
子牛の導入時に手に入るデータを入力し、参照時点の飼育日数から資産評価額を反映させたり、出荷時の枝肉情報と比較ができるように1行にまとめています。肥育期間が会計年度をまたぐので、その年の売上と仕入だけでは個別の分析がおぼろげになりがち。うちのような小規模経営体は売り上げに占める1頭あたりの割合が大きくなるので、その1頭がうちに来てどのような成長を遂げて、どのような結果になったかの把握はより重要になってきます。
子牛名簿から取得した以下データを記録して、
「購入日,月次,市場,個体識別番号,性別,子名号,生年月日,日令,損徴,摘要,父名号,母名号,母登録,祖父名号,祖祖父名号,4代祖,BV,BVBMS育種価,育種価(母:期), 産次,体重,千円,購入価格(税別),手数料市場経費,購入価格(税込),購買者,生産者,出荷時期」
出荷時に以下項目を追記します。
「売却日,月次2,飼育日数,月齢,重量,BMS,BCS,等級,価格(千円),上下,ロース芯,購入者,売却価格(税別),内臓,割引,肝,心,肺,小腸,大腸,直腸,子宮,腎,横,枝,舌,疾病名,原皮,売上金額合計(税別),売上金額合計(税込),控除金額,差引仕切金額,牛舎,差額,暫定評価額(暫定),体重増加」
これに加えて別途「飼育日誌」として1日毎に1頭あたりの餌の摂取量、健康状態、投薬等の対処についても記録をしています。個別識別番号をキーにすることによって、子牛の導入時から餌の給与量、健康状態の推移を確認することができ、これによって出荷時のデータと飼育時点の情報からその牛を総合的に分析することが可能になると考えています。
分析例
・子牛時点の体重は〇kgで出荷時の枝肉重量は〇kgなので1日あたり増体重は〇kg/日(出荷時の体重は枝肉重量から逆算)
・飼育期間の〇年〇月〇日に風邪を引いたことがあり、餌の給与量を〇日間減らした→この時期は予防を行ったり、敷物の状態に特に気を付けなければならない
・この牛舎の区画はこの時期に体調を崩しやすい→外気に触れやすい可能性があるため、牛舎を改修する
しかしながらうちの牧場は出荷頭数が少ないので、必然的にデータが集まりません。そこで飼育中のデータは得られないものの、子牛市場と食肉市場でそれぞれ子牛の情報と出荷時の情報は個別に入手できるため、それらを集計して参考データを増やす取り組みも並行して行っています。
上記と同様な分析はできないものの、血統や発育状態から他農家と飼育比較分析ができるようになりました。うちで育てたことのない血統の参考にするなど分析・推測の材料として蓄積データを活用しています。
2.データを収集、蓄積
子牛名簿は紙に情報がまとめられ、子牛市場開催の前に各農家に郵送されます。当初は親に倣って手書きで名簿を埋めていました。後日調べると各子牛市場HPでファイルがダウンロード可能であることを発見(もちろんフォーマットはバラバラ。一部項目は未記載)。PDFもあるので変換のひと手間が必要ですが、手書きに比べたら非常に楽で途中経過の状況把握も容易になりました。
〇畜産農家のIT導入状況
1.今やスタンダードに
世代交代が進まず、高齢化が進む畜産業界ですが、一部で非常にIT導入が進んでいる部分があります。それは繁殖事業の発情発見・分娩管理。
これまでは目視によって発情を確認し、その周期から人工授精時期を推測していましたが、機器を導入することによって体温の上昇から人工授精の適期を通知することが可能に。分娩のタイミングも同様な分析から通知できるようになっており、分娩タイミングをある程度絞り込んで準備ができるようになったため、負担を軽減することに繋がりました。
また肥育に関しても大規模化した施設に対して、目の届かないことを補完するためにカメラ画像を分析し、起立不能による肥育事故を予防したりなどこのように費用対効果の分かりやすい部分では積極的な導入が見られます。
1区画毎の頭数が多ければ、従来の目視での観察では見落としが発生しやすくなり、時間もかかります。料金プランからしてもこれらシステムは規模が大きくなるほど効果を発揮してくると言えるでしょう。
2.逆風下の経営
規模を拡大し、システムを導入することで効率化を図ることで利益率を改善することを目指す農家が続出しました。しかしながら現在畜産経営は大いに逆風が吹いています。資材・飼料が高騰したことによって、計画の策定時点から状況が変わり、想定が大いに狂ってしまったのです。
繁殖農家は子牛の販売価格が下落していることから、自家保留するケースが出てきています。現在の市場価格で売ったとしても赤字なので、母牛として育てるほうが長期目線で経営的なメリットがあるという判断をしているのです。このような選択をするとその分の売り上げがなくなり、経費が増加するので経営的にはかなり厳しいやりくりとなってしまいます。昨今血統の世代交代もより早くなっており、母牛の更新頻度も高まっているため、システムを活用することによってより確実性を向上させることが求められているのです。
〇山岡牧場の今後の方針
現状導入が進んでいるのは繁殖農家や大規模化した経営体がほとんど。山岡牧場の小頭数の個別管理では活かせる機会はあまりありません。表計算ソフトを活用して独自の個別管理も行っており、着手可能なところにトライできていると思います。目指しているのは”美味しく、このお肉を手に取り食べる人にとってより感動を与えられる牛”。いろいろな着眼点でシステムが作られており、且つサブスクリプションなど試しやすいプランが出てきているので、活用できそうなシステムが開発されたら積極的に試してみたいと考えています。目標の実現のためにも継続して情報の蓄積は続けていき、追加で収集できる情報も都度模索していきます。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
今後も田舎の小さな肥育農家のリアルを伝えていきたいと思います。スキ・コメント・フォローなどを頂けますと励みになります。