見出し画像

頼りにしていた先輩がSNSを消した。

面倒を見てくれた、とまでは言わないけれど、お世話になった先輩がInstagramのアカウントを消していた。

よくしてくれていた一つ年上のサークルの大学の先輩だ。
その先輩は色々これまでの人生の中で抱えてきたものがある人だった。
そういう心の少し薄暗いところをたまに垣間見せる人だったけど、それもその人の魅力で、皮肉の効いたことを言う人だった。

私はその先輩が恋愛的な意味で好きだったわけではない。
だけど、接していて落ち着く人だった。
彼も私も暗い音楽が好きだった。
好きな音楽や漫画が似ていて、そういう話もよくした。

そんな学生生活を経て、一つ年上の先輩だから、彼は私より一年早く大学卒業をした。
どうやら私が目指しているような業界の会社に就職したらしい。
そして、私も大学卒業をして、社会人になる時がきた。
私もその先輩と同じような会社に入社した。
奇遇にも業務上で、その先輩とも関わりのあるような環境だった。

仕事に対するマインドが少し似ていたり、任される業務も似ていたり、社会人としての私たちもまた似た境遇だった。
私はその先輩の彼女とも仲が良くて、彼女を通して彼の近況をなんとなく聞く。
「仕事が大変らしい。」
そうだよね。私も大変だけど、私より一年上だからもっと大変なんだろう。
そんなことを思って、彼の彼女とお茶をしたのがこの夏か。先輩とは直接やり取りはしていなかった。
彼のあげるInstagramのストーリーを見て、どうしているかなと考える程度だった。

そして12月。
彼が好きだったバンドのフロントマン、チバユウスケが亡くなった。

私の友人には音楽好きが多いので、訃報のニュースが出た日は、みんなミッシェルガンエレファントを聴いて、ストーリーに載せていた。
その先輩は、過去のライブ映像を見ていたようだった。
彼はコピーバンドもしていたし、きっとこのニュースに心を痛めているだろうと思っていた。


それからすぐ、私の職場に仲良くなってみたいと思う一つ上の社員の方が異動になってきた。
その社員の人は、もしかしたら大学の先輩と仕事で関わったことがありそうな経歴で、それで先輩に「〇〇さんって接点ありますか?」とInstagramで尋ねようとした。

尋ねようとアプリを開くと、彼のアカウントは「Instagramユーザー」と名前が変わっており、おや?と思って慌ててアカウントのプロフィールを覗きにいく。
フォロー フォロワー 投稿 表示なし
アカウントを削除してしまったのだろうか。

彼の投稿で最後に見たのが、彼の憧れの人でもあるチバユウスケの演奏の投稿だった。
悲しいわけでも、寂しいわけでもなく、不安とも呼べない、得体の知れないずっしりとした重さのある感情だけが今私の中に残っている。


▲お読みいただきありがとうございます▲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?