
Beatrust Conference 2024『人材価値の最大化〜全員戦力化とEmpowerment〜』カンファレンスレポートVol.2
2024年12月に開催したBeatrustカンファレンス2024『人材価値の最大化〜全員戦力化とEmpowerment〜』では、第2部として多彩なゲストによるパネルディスカッションを実施しました。
ファシリテーターを務めたのはHRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田 祐氏です。パネリストとして、第1部で基調講演を務めていただいた学習院大学 経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授の守島基博氏、特別講演をしていただいたEY Asia-Pacific 兼 EY Japan ピープル・コンサルティングリーダー 鵜澤慎一郎氏に加え、資生堂エグゼクティブオフィサー チーフピープルオフィサーの和田真司氏、中外製薬 上席執行役員 人事・ESG推進統括の矢野嘉行氏、そしてBeatrust CEOの原邦雄が登壇しました。
本レポートでは、「全員戦力化とEmpowerment」をテーマに白熱した議論が展開されたパネルディスカッションをもとに、現代における組織改革の重要なポイントを探ります。
選抜研修の限界と「全員戦力化」への転換
はじめにファシリテーターの楠田氏は、第1部で守島氏が「全員戦力化へ向けて」と題して語った基調講演の内容を受け、2000年代に一般的だった選抜研修について考察しました。

「当時の選抜研修は、企業がトップの1割、2割の人材に集中投資していました。その結果、研修を受けた社員と受けなかった社員との間に大きな格差が生じました。もしかしたら今希望退職に応募している人材は、当時選抜研修を受けなかった側の人材なのかもしれません」(楠田氏)
また楠田氏は、人間は「心のある資源」だということをこの25年間は忘れていたのではないか、と指摘。さらに楠田氏は、現在の企業環境においては、個々の能力を引き出すだけでなく、チーム全体の協調性を高める施策が重要だ指摘し、メンバー全員を戦力と捉え、その潜在能力を引き出す「全員戦力化」が組織の持続可能な成長につながるとの見解を示しました。
また「スキルベース組織の未来」と題した鵜澤氏の特別講演に関連して、楠田氏はグローバルと比較すると、日本人は新たな環境や経験から柔軟に学んで変化に対応していくラーニングアジリティ能力が低いという課題を提起しました。鵜澤氏が講演内で紹介したスキルベースのマネジメントを実行していくには、まずこの課題に取り組む必要があるのではないか、と指摘しました。
「日本人は社会人になると1週間で平均わずか7分しか勉強しないというデータがあります。これからは柔軟に学ぶ社員をどれだけ多くつくれるかが重要になります」(楠田氏)
増していく人事の重要性
その上で、楠田氏が最初に投げかけたテーマは、CHRO(最高人事責任者)などの人事担当者とCFO(最高財務責任者)やCEO (最高経営責任者)のコミュニケーションについてです。「どのくらいトップとコミュニケーションをとっていますか」という楠田氏の問いかけに対し、実際の企業の現場で人的資本経営に携わる中外製薬の矢野氏、資生堂の和田氏の2人とも非常に高い頻度でCEOなどの経営陣とコミュニケーションを取っていると返答しました。
守島氏は「CHROにコミュニケーションが求められるのは時代の必要性」だと考察します。企業は「お金」と「人」がなければ描いた戦略を実現できません。事業を進めるときは最初に「人」を手当てするというのが企業経営の基本になってきた結果、CHROの重要性が増しているのではないか、と指摘しました。その上でエンパワーメントを実現し、企業が戦略を実行していく上ではCHROとCEOの間だけでなく、企業の中のコミュニケーションが欠かせないといいます。
「コロナ禍もあり、企業の中の対話が非常に少なくなっていると感じています。エンパワーメントがうまくいくためには、情報がちゃんと伝わってることが重要です」
これに対し、楠田氏も「横のつながり」が少ないことが日本企業の課題の一つだと同意しました。日本の課題として「イノベーションが起きていないこと」が挙げられますが、経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏のイノベーション理論が示すように、企業内で他部署の社員とつながるような「横のつながり」が少ないことがその理由の一つなのではないか、と楠田氏は指摘します。
日本では、入社後の自己紹介で共通の趣味や好みが見つかることで「横のつながり」ができるケースも多いが、Beatrustではどのような工夫をしているのか、とBeatrust CEOの原に問いかけました。実は楠田氏と原にも「ビートルズが好き」という共通項があることでつながりが深まったそうです。
それに対し原は、実はBeatrust自体も、共同創業者の久米雅人との「ビートルズ好き」という共通点がきっかけでスタートしたプロジェクトだったと告白。趣味や好みと行った共通項は、地位や世代も飛び越えて人をつなげる重要な要素の一つだと考えており、その想いがBeatrustをつくった原点になっていると説明しました。
続いて楠田氏は、EYの鵜澤氏にHRツールの活用実態について問いかけました。せっかくツールを導入しても使いこなせていない企業は多いのではないかという問いに対し、鵜澤氏は「ツールはもちろんのこと、データをうまく使いこなせていないのが課題なのではないか」と見解を示しました。データの中には学歴や職務経験のような静的な(=あまり変わらない)データもあれば、そのときどきの従業員の満足度を計測するパルスサーベイのような動的なデータもあります。従来、人事部は主に静的なデータを管理してきましたが、事業側のリーダーが求めているのはより動的なデータの方ではないか、と鵜澤氏はいいます。いかに先進的なツールを導入しても、そこに動的なデータが入力されなければ十分に活用することはできない、と課題を指摘しました。
資生堂の和田氏は、人事の基本的な役割は、「企業が人材を管理すること」から「社員一人ひとりの活躍を手助けすることための方法論」へとシフトしてきているといいます。それが組織内で理解されれば、社員一人ひとりが積極的にデータを入力し、活用していく流れになるのではないかと考えを述べました。

人事のミッションは「カルチャーの変革者」
守島氏は、「人事が管理する対象としては『人』や『制度』」以上に『カルチャー』が重要になってきている」といいます。「人を管理する」という発想は19世紀・20世紀の発想であり、人が自律的に動くような組織における人事のミッションは「カルチャーの変革者」であるべきだ、と指摘します。そんな新しい人事の役割を推進する上で、Beatrustが提供するツールは有効だと語りました。
鵜澤氏も「人事にカルチャーづくりが求められているというのは、非常に重要なポイントだ」と守島氏に同意します。その理由として、企業の戦略が手軽に模倣できる時代になっていることを挙げました。昔は一部の経営コンサルティング会社による戦略立案には大きな価値がありましたが、現在戦略をつくるための考え方やフレームワークなどは書籍などで手軽に入手できるようになっており、戦略は手軽にコピーできるようになっています。
一方で簡単にコピーできないのが、人やカルチャーです。行動特性や考え方が組織に浸透するには時間がかかるため、独自のカルチャーを育てること自体が競合との差別化になる、と鵜澤氏は強調しました。
「人事は最も重要な経営資源を担う、やりがいのある仕事です。だからこそ、時代に合わせて人事もバージョンアップしていかなければなりません」(鵜澤氏)
ファシリテーターの楠田氏は、価値観が多様化し、テレワークをはじめとして働き方も多様化していくと、「ソーシャルキャピタル(組織内の人の結びつき)も低下しやすくなる」と指摘します。だからこそ、Beatrustのようなツールを使って組織のカルチャーを育てることも有効ではないか、見解を述べました。
1時間にわたるディスカッションを通じて、登壇者たちはこれからの人的資本経営についてさまざまな意見を交わしました。人的資本が何よりも重要な時代だからこそ、経営者や人事にはに一人ひとりの活躍をサポートしていくことが求められます。
最後に楠田氏は「全員戦力化は、企業の未来を切り拓く戦略そのものです。一人ひとりの力を最大限に引き出すための取り組みを、ぜひ皆さんの企業でも実践していただきたいと思います」と述べ、パネルディスカッションを締めくくりました。

未来を創るために、今できることを
Beatrust Conference 2024を通じて明らかになったことは、「全員戦力化」と「エンパワーメント」が持つ可能性です。選抜型の育成から脱却し、すべての社員が持つ力を引き出すこと。それは、個人だけでなく組織全体を成長させ、持続可能な未来を創る鍵となるでしょう。さらに、カルチャーを育て、横のつながりを強化することは、イノベーションを生み出す基盤となります。
私たちは今、この変革の潮流の中に立っています。一人ひとりが未来を切り拓く存在として輝けるよう、Beatrustは引き続き、皆さまへ画期的なソリューションを開発、提供し続けます。
新たな人的資本経営への挑戦が、より多くの企業の未来を明るく照らすことを願って――。
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