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日本語表記は「ニールセン」か「ニルセン」か問題【C.Nielsen】《私的北欧音楽館》

 こんど、9月1日(日)のクラシック音楽館(NHK)では、待ちに待ったニールセンの交響曲 第2番「四つの気質」が放送されます!

 楽曲鑑賞の手引きになる記事もあります。よろしかったらそちらもご覧ください。

 パーヴォ・ヤルヴィがN響の首席指揮者に就任したときから、北欧出身の指揮者、ということで、デンマーク出身のニールセンが取り上げられることを期待してたのですが……記憶に間違いになかったら、第5番に続き、2回目の演奏会になります。

 

 なんですけど……!

 

 上の↑リンクをよーく見た人は気がついたと思います。
 作曲者名が、「ニールセン」でなく「ニルセン」って書いてあることを。

 くれぐれも、別人ではないですよ……その証拠に、Wikipediaのリンクの写真とくらべてみてください。ね、いっしょでしょ。

 

 どうも、デンマーク語の発音になるだけ忠実に表記しようとすると「ニールセン」よりも「ニルセン」のほうが近いらしいです。前回の放送でも「ニルセン」となってたので、NHKとしてはなるだけ現地の発音に近づける、という方針のようです。

 ですが、これまでに発売されているCDその他では「ニールセン」というドイツ語風の読み方が圧倒的で、YouTubeの動画も「ニールセン」としているものがほとんどです。
 それどころか「ニルセン」で検索すると……やってみると一目瞭然なのですが、えらく印象の悪いネタの動画ばかり上がってきます。
 私自身も、「Espansiva 〜私的北欧音楽館」としてニールセンの楽曲の再生リストをアップするとき、「N響を見て、初めてニールセンの曲を検索する人」対策として「ニルセン」を併記しておくことも考えたのですが、この印象の悪い動画群のせいで「やっぱ、やめとこう……」となってしまいました。

 

 だけどパーヴォがこれからもN響でニールセンの演奏に取り組んでいくなら、NHKでは「ニルセン」と表記し続けると思うので、今後はどちらの表記がより浸透していくか、注目しています。

 また、いちファンとして私も自身も、どちらの表記を支持するのかを考えていかないといけないと思っています。

 

・◇・◇・◇・

  

そもそもに「デンマーク語の発音むつかしすぎ問題」というのがある

 こんなふうに表記がゆれてしまうのも、そもそもに「デンマーク語の発音はむつかしい」という問題があります。
 母音の種類が多く、そのうえ、日本語の「アイウエオ」では捉えられない、微妙な発音を必要とするようです。

 

 私自身、この3、4年にわたってニールセン作曲の歌を聴きまくって、かなりの長時間、耳をデンマーク語にさらしていますが、いまだに、どう発音したらデンマーク語っぽくできるかがわかりません。

 じまんじゃないけど、英語の発音は中学に入ったらすぐにマスターできました……いまはだめになってしまいましたが。
 中国語とかドイツ語とかフランス語とかも、しゃべれないけど、それっぽいデタラメなトークならお手の物です。

 だけど、デンマーク語は、それっぽくするためには、どうも喉の奥をふくらませるように広げないといけないようで、喉を潰しただみ声文化の日本語とは真逆のようなのです。
 さらに、鼻にも上手に抜いたり、引っ掛けたりしないといけないみたいなのですが……うちの県は、合唱の講習で「ガ行が鼻濁音になってない!」と指摘されるのが「あるある」な地域なので……はっきりいって、苦手です。
 そんなわけで、いざ、歌を聴きながらシャドーイングすると、完全に日本語のカタカナ発音になってしまい、デンマーク語っぽいまろやかさがどうしてもうまく出せません。

 さらに、子音の発音も単純に「d ならダ行」というわけでもないみたいだし、「読まない d とか g」もあるみたいで、ジョン万次郎方式で、耳からだけで正確な発音を学習するのは、ぶっちゃけお手上げです。

 

 さて。
 デンマーク語の読み方のややこしさを物語る有名なネタで、「アンデルセンはアンデルセンと読まない」というのがあります。

 じゃ、なんて読むかっていうと……

 アナセン

 

 ……どっひゃー!
 なんやねんそれっ!

 もう、わけわからんでしょ。カオスでしょ。

 

 だけど、なんだかんだいってデンマーク語に耳を馴らした結果、「アンデルセンがアナセンになる」理屈がわかるようになってきました。
 しかも、このネタ、単におもしろいだけでなく、デンマーク語の特色を理解するためのエッセンスが凝縮されてるんですよ。

 

 で、そのエッセンスというのは……
 まあ、ようするに……

 めんどくさがりな言語

 なんですよ。たぶん。
 デンマーク語って。

 例えば、「1音でひとつの言葉」、えらく多くないか?
 jeg ……や…… 私は
 du ……どぅ…… あなたは
   このへんは、日本も古語では「わ」と「な」ですよね。
 nu ……ぬ…… 今
 og ……お…… 〜と(and)
 på ……ぽ…… 〜の上に
 i  ……い…… 〜の中に
 syg ……し…… 病気の

 これには、東北弁あるあるの、
 「どさ?」「ゆさ!」……どこへ? 風呂屋へ!
 「こ!」「け!」「めーっ!」……来い!食え! うめーっ!
 ……と同じようなものを感じます。

 そうはいっても、日本語本体だって、
 め、は、て、け、み …… 目、歯、手、毛、身
 で人体の主なパーツを表現できるし、
 植物も、
 め、ね、は、み …… 芽、根、葉、実
 で表現できるから、めんどくさがりようではなかなかデンマーク語にひけをとっていませんけどね。

 

 そして、このめんどくさがりが、発音においては、

 力みたくない

 という傾向であらわれるみたいです。
 そのせいか、デンマーク語の読み方は、ついつい、カクカクと圭角のあるカタカナでなく、よどみなくまるいひらがなで書いてしまいます。

 で、なるだけ力みたくないから、「Andersen」も「ン」なんて、アとデとセの3ヶ所もで力を入れたくない。
 いちばん力みの入る「d」はなにげにスルーして、
 「An(d)ersen」→「Anersen」→アナーセン
 これでもまだ、「ナー」は力まないといけないので、よりなだらかにして、

 あなせん

 ほんとのデンマーク語では、さらにめんどくさがって、「あなすん」に近くなってるはずです。
 声に出してみるとよくわかります。「アンデルセン」とくらべたら、口の運動が最小で、力みも要らず、ほんとに省エネです。

 

 ということで、ニールセン = Nielsen の発音も、この理論で考察するとつぎのようなります。

 まず、「ニールセン」だと「ニー」に、イーーーッと力入り過ぎ。
 「ン」でも、まだニとセに力み入り過ぎ。
 そこで、「ニ」はもうすこし「ね」っぽく、「セン」は「すん」っぽくして、

 ねるすん

 これで、かんぺき。

 のはず。

 ……だって、これ、実際の発音とかたしかめてないです。
 あくまで、「デンマーク語はめんどくさがりで、力みたくない」理論に基づいての推測です。

 でもやっぱり、どこまで当たっているか、確認したいですよね。

 

ほんとうに「ねるすん」でかんぺきなのか検証してみた

 そこで、こんな資料があったのを思い出しました。

 ここに、

 「デンマーク語固有名詞カナ表記小辞典」

 という、「デンマーク語の雰囲気を損なわずに日本語に移すにはどうすればいいか問題」に取り組んでくれた、ありがたい資料があります。
 これまで使いみちがわからなかったのですが、ついにその時が来たようです。ダウンロードしてみました。

 

 ちょいとまずは、「アンデルセン」を確認してみましょう……すると、読み方は「アナスン」になってました。
 デンマーク語では「せん」は力んでめんどくさいので「すん」化する、という推測は、バッチリあたっていました。

 

 で、肝心の「Nielsen」は

 Nielsen [nelsn] ルスン[姓]
 
 ※発音記号の前の n にはアクセントの記号が、後ろの n の下には点がついています。
 Wikipediaの「ニールセン」の項目には、発音記号も挙げられているので参考にしてみてください。

 と出てました。
 ここはひとつ、叫ばしてください。

 え、「にるすん」……かよッ!

 

 さらに、窮すれば通ずで、Wikipediaにデンマーク語の発音記号と英語の発音の対照表なんてのがあるのを見つけました。

 これによると、発音記号「e」は、

 somewhat like face
 (和訳……なんか、「フェイス」の a っぽい音)

 なのだそうです。
 「somewhat」のひとことに、言語を超えて、デンマーク語の発音に手を焼いているのがかいまみえます。
 それはさておき、大阪外語大の小辞典では、「e」は「い」とされていましたが、単純に「い」ではなく、「え」っぽい感じもすることがここからはうかがえます。ここでも「ニールセン」の「に」は力みたくないので「ね」っぽくなる、という推測が当たりました。

 また、後ろにある「n の下に点がついた記号」は「sudden」の「en」と同じ発音とされています。

 じゃあ、これらを総合すると Nielsen の読み方はこうですよ。きっと。

 ねぃるすんっ

 …………。

 

・◇・◇・◇・

 

 どうやら。
 この日本語表記の問題は、真剣にやればやるほど、ドツボにハマっていくようです。

 ここまでくるとさすがに、ドイツ語風に読んで「ニールセン」と表記することに落ち着いた理由も気持ちもよくわかります。アンデルセンも、アンデルセンのままでもういいや、って感じてしまいます。
 どうせ正確に表記できないなら、Nielsen のつづりのままに素直に読むことにした方が、混乱が少ないだろう……そう判断されたのでしょう。
 さらに、NHKが大阪外語大のより正確な「ニルスン」を採用せずに「ニルセン」と表記しているのは、従来用いられてきた「ニールセン」との混乱をさけるためだ、ということも見えてきます。

 

 アルファベットを用いる国なら、アルファベットのつづりをその国風に読む、ということでいいかもしれませんが、そうではない国では、どうしても移し換えが必要です。
 もし、今後も「固有名詞はより現地の発音にそった表記にする」という方向で世の中が動いていくなら、「ニールセン」は「ニルセン」に統一され、やがては「ニルスン」に改められる、と見通されます。

 当面は、私もタイトルや記事の冒頭など、目立つところでは「ニールセン(ニルセン)」と表記した方がベターかもしれません。

 

 

次回はこちら↓

 

記事は毎回、こちらのマガジンにおさめています。

 

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五百蔵ぷぷぷッこ / 140字のもの書き / Espansiva の中の人
いま、病気で家にいるので、長い記事がかけてます。 だけど、収入がありません。お金をもらえると、すこし元気になります。 健康になって仕事を始めたら、収入には困りませんが、ものを書く余裕がなくなるかと思うと、ふくざつな心境です。

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