「ChatGPTは人間の創作を助けるか?」海外で話題の記事考察と教育×AIの未来。
みなさん、ChatGPT使ってますか?
ここではChatGPTの概要については説明しません。「ChatGPTって何?」という方は既に色々な方の解説記事や動画が出ていると思いますので、ぜひそちらを参考にしてください。
このnoteでは2023年2月9日にThe New Yorkerに掲載された
「ChatGPT Is a Blurry JPEG of the Web」
(原文英語。邦訳すると「ChatGPTはWeb上のボヤけたJPEGである」)
米国の著名なSF作家であるTed Chiang氏が、ChatGPT(大規模限度モデル)の本質について、専門用語を極力排しつつも非常に鋭い洞察をし、海外で話題になっています。
本noteでは原文を機械翻訳の助けを借りつつ重要だと思った部分を抜粋し、最後に考察を加えます。「ChatGPT(大規模言語モデル)」の仕組みや本質について理解を深め、また人間は今後AIとどう向き合っていけば良いか? 考えさせられる内容になっています。
この記事は以下のような方にオススメです。
・ChatGPTを触ったことがあり、その「便利さ」に西野カナばりに震えている方。
・ChatGPTを教育や学習、仕事のために使いたいけど、なんか平気で嘘ついてくるし、どうしたらいいの……なんて思っている方。
・ChatGPTどうなってるのか仕組みに興味はあるんだけど、プログラマーでもないし全然分からんという方。
・AIと人間、教育や学習の未来について考えてみたい方。
「ChatGPT Is a Blurry JPEG of the Web」はこんなストーリーで始まります。
ゼロックス社のコピー機の異変
Chiang氏はこの異変が起きた背景にある「可逆」「不可逆」の概念について説明を加えます。この説明は今回のストーリーを理解する上でとても重要なので、改めて日本語訳を引用・抜粋して紹介します。
「可逆」と「非可逆」
Chiang氏は、このゼロックスコピー機が前提としていた「非可逆」の仕組みとChatGPTを含む現行の大規模言語モデルの類似点を見出します。
ChatGPTは、Web上のすべてのテキストを不鮮明なjpegにしたようなものだ
ChatGPTを使った方なら実感があると思いますが、とても役立つ回答をしてくれる一方で、まるで息を吐くように、全く事実に基づかないがそれらしい「嘘」を並べ立てることもあります。Chiang氏はその「幻覚」のような現象が何なのかを解説します。
大規模言語モデルは、人間がオリジナルな文章を創作するのに役立つのか?
ここでChiang氏は、私たち人間と言語モデルの関係へと視点を移します。
私たちの代わりにそれらしい文章を一瞬で作ってくれるChatGPTですが、果たしてこのような大規模言語モデルは私たちがオリジナリティを駆使して創作する助けになるのでしょうか?
Chiang氏はここではっきりと自説を述べます。ChatGPTの力を借りて一から文章を作ることは、人間の創作にとって良い方法ではない、と。
(考察)ChatGPTを初めとする大規模言語モデルAIとどう付き合っていけば良いのか?
Chiang氏の洞察は鋭く、人間としてできることへの示唆に富む内容でした。ここからは個人的な考察、大切だと思ったことを書いていきます。
AI・テクノロジーの「概念」を理解しようとする
僕自身はITやエンジニアのプロではないです。むしろ教育NPO等を通して「人間らしい」学びが生まれる現場に関わってきました。 たしかにAIの進化は近年凄まじいです。でも現時点のAIではひっくり返ってもできないことが人間には沢山あります。
最新のAIを初めとするテクノロジーが生み出すアウトプットは一見、人間が思考して生み出すアウトプットと似ていたり、成果を出す速度では人間を圧倒的に凌駕します。思考の整理やブレインストーミングを助けてくれたり、どう考えてもめちゃめちゃ便利です。僕はこの技術の進化には素直な賞賛を送りたいです。
ただ、そもそもAIの学習・アウトプットの仕組みは人間の「学び」のシステムとは全然違っています。
僕は近年学習科学に出会い学び始め、その道ではまだまだひよっこですが、それでもAI大規模言語モデルの「学習モデル」は最新の学習科学研究から見ると(勘違いかもしれませんが)未だに一世代、二世代前の学習パラダイムがベースになっているように思えます。
Chiang氏が指摘するように圧倒的な情報量・データベースによって補っているだけであって、少なくとも現状はオリジナリティも、クリエティブさもないように見えます。(そもそも何をもってオリジナリティか、クリエイティブなのかというのは面白い問いで、考えた方が良いですが)
人間の「複雑さ」を理解しようとする
そもそも人間の認知・学びの活動は自分たちが見えているよりも実はずっとずっと複雑です。「対話」や「フィードバック」においても、自分たちが意識や知覚できる以上に非常に繊細なやり取りが行われています。
また、「共同体としての学び」で捉えたときにもChatGPTのできることはまだまだ非常に限定的です。もちろんChatGPTのデータベースは膨大ですが、人間の共同体との接続はまだ非常に弱い。たとえば僕は今修士論文を書いていますが、ChatGPTが使えるからといって指導教授とのミーティングを決してやめる気にはなりません。教授のこれまで積み重ねたAIデータベースにも無い鋭い洞察やアイディア、教授のネットワークを通した研究ポテンシャルの広がりなど、AIがまだひっくり返ってもできないような豊かな「学び」の機会があります。まぁここはAIの仕組みというよりも、仕組みを踏まえた学習環境をデザインする必要がありそうですね。
AI×教育における「第三の波」
2021年に発表された論文「Artificial intelligence in education: The three paradigms(教育におけるAI: 3つのパラダイム)」では、これまでに教育におけるAIは大きな流れで3つの進化をしてきたと述べています。
それは「AIによる指示」「AIによる補助」「AIによるエンパワメント(empowerment)」という流れだと言います。
まず初めの「AIによる指示」時代では、AIは知識モデルを表現し、認知学習を指示するために使用されました。
次に「AIによる支援」時代では、AIは学習者の共同作業者として働きながら学習を補助するために使用されました。
そして最新の「AIによるエンパワメント」時代では、AIは学習者がより深く学ぶことを助け、学習者はAIの力を借りながら主体的に学んでいきます。
エンパワメントとは、組織開発の世界では個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出し、湧き出させることを指します。
ChatGPTや大規模言語モデルのAIは、学び手の潜在能力を引き出せるのでしょうか……きっとそれは僕たちが「どう理解して使うか」に左右されるかもしれませんね。
さいごに:過大評価も、過小評価もしない
資本主義が続く限り、テクノロジーの進化には常に大きな予算が付き、多額の資金が注ぎ込まれ、その「発展」は続いていくでしょう。
一方でこの世界のほとんどはエンジニアではない、テクノロジーに精通していない人たちです。ChatGPTを始めとする人間が作り出したAIモデルが、私たち人間の可能性を引き出し、豊かに学んでいけるようにするかどうかは、大多数の非エンジニアである私たちがどのようにこのテクノロジーを理解し、利用するかにかかっています。
進化し続けるテクノロジーの力に呑み込まれたり、無視しようとしたり過小評価するのでもなく、未来に繋がる豊かな学びを一緒に作ってくれるパートナー的な存在として考えていくことが大切になると感じています。
ただそのためには非エンジニアであったとしても、先生を含む教育者や学習者は、AIに対するできるだけ「正しい」理解が必要です。決してコードが書けなくても良いと思います。むしろ重要なのは、テクノロジーへの概念的な理解、そしてそれ以上に人間への深い理解ではないでしょうか。
とはいえ、今後AIの力学を無視して教育や学習を考えるのはほぼ不可能になる気がしています。教育・学びに関わる人には不可避的にリテラシーが求められます。でもほとんどの人は「そんなこと言われても……」って感じだと思いますし、現場の最前線に立っている人はそんなことを考える余裕はないと思います。
そんな中では研究と教育現場や事業の橋渡し、チームワークが大切になると思っています。僕はその対話を担える学びのPM、デザイナーになりたいです。そういう意味でも助けになる情報は発信したいですし、自分の研究を進めろよという心の声を無視しつつこのnoteを書いています。笑
個人的にはできないことよりできるようになったことに目を向けたいし、悲観的になるより楽観的に生きたいなと思います。「人のできること」こそ過小評価してはいけないと感じます。
とはいえまだまだ僕も自分自身が少しずつ学んでいる身です。
これまで生活することにいっぱいいっぱいで、特に留学中は生き延びることに必死を言い訳にnoteはあまり更新してきませんでしたが、やっぱり発信って大切ですね。今年はもう少し学んでいることや社会人の留学生活についても発信していこうかなぁ。
あ、「読んで貰えているんだな」と分かるのでよろしければスキやフォロー等して頂けると喜びます。今後も色々と書く気になります。拙い考察も読んでくださりありがとうございました。今後も一緒に学びをアップデートしていけると嬉しいです!
引用元記事:The New Youkers, (著)Ted Chiang, "ChatGPT Is a Blurry JPEG of the Web" (2022年2月13日)
参考論文:
Ouyang, F., & Jiao, P. (2021). Artificial intelligence in education: The three paradigms. Computers and Education: Artificial Intelligence, 2, 100020.