「きいろいゾウ」
きいろいゾウ を読了
2008年発行 西加奈子 著作品
夫の武辜歩(むこあゆむ)
妻の妻利愛子(つまりあいこ)
お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う、都会から九州の片田舎へやってきて日々を過ごす夫婦の物語
最初っからとにかくユーモアに溢れている
ムコとツマの暮らしはとても穏やか
ご近所のアレチさんなど濃い登場人物たちもその暮らしに花を添えており、
田舎暮らし特有のゆっくりとした時間が流れている
ツマ目線で書かれる日常はとにかく毎日を楽しんでいて、
ツマという人物の独特な言い回しそのままで描かれていてとてもユニークで惹き込まれる
そのツマの目線から語られた後に来るのが、売れない小説家・ムコが毎日つけている日記の文章
同じ日を、同じ時を過ごしているムコの目線から見た日常
日記として書いていることもあるのだろうがまとまっていて簡潔
ツマが語る部分とムコが語る部分での文章の違いが2人の性格をよく表していると思う
ツマは無邪気で子どものように天真爛漫
ムコがそれを大きく包み込んで見守っている、優しい物語だなあというのが第一印象
しかし物語が進むにつれ、少しずつ不穏な空気が流れ始める
色々な生き物の声が聞こえるという少し不思議な能力を持つツマ
背中にタトゥーがあり、どこか過去の暗い影が指すムコ
ぽつりぽつりと違和感は増えて、すれ違っていく2人の姿は、穏やかな2人の暮らしを知っているこちらからすると胸が締め付けられていくように切ない
自分は途中途中でふうっと息をつかないと読み続けられないくらいだった
けれど、2人は不思議な出来事をそれぞれ経験して、
本当に大切なもの、自分に必要なものは一体何なのかということを見つけていく
最後にはああ、この2人が出会ったのは運命だったのだなと思える感動的な物語
全体的に柔らかい雰囲気が流れるのだが、
ムコとツマ、ふたりを知れば知るほど後々の展開が切なく苦しい
著者の西加奈子さんの作品を読んだのは初めてなのだが、表現力がすごい
特にツマが語る部分にその表現力は余すことなく発揮されていてなにをどう見ればこんな伝え方が出来るのだろうと思った
2012年に映画化もされているこの作品、いつか観ようと心に留めておく
登場人物のひとり、登校拒否をして祖父母のところへ預けられている小学生の大地君のことを少しだけ
小学生と思えないほどに大人びていてどこか都会的で知的な雰囲気漂う大地君
自分はその大地君が少しずつ心を開いていく様と
たまに言う、「わかる?わかんないよね。」の言葉が優しく響くようで好きだった