頼りすぎてはいけない人。魂が優しすぎる人。 (『無人島のふたり』山本文緒さん)
こんにちは。
ポッドキャスト「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」のスクリプト。今回は、2021年に58歳で逝去した作家・山本文緒さんの最後のエッセイ『無人島のふたり〜120日生きなくちゃ日記』をご紹介した2022年12月14日放送回です。
途中でご紹介している角田光代さんの追悼文は、何度読んでもわあわあと涙が出てきてしまう。自分の中の”閲覧注意回”です。
悲しい結末を知っているから、怖くて開けない
こんばんは。今年の水曜日は今日を入れて残すところあと3回となりました。今、2022年のベストブックを最終選考中です。これはベストブックに選ぶとか、誰かへおすすめとして紹介するのはちょっとためらわれるのですが、今年を代表する1冊としてどうしても紹介したい本があります。
今日の勝手に貸出カードは、山本文緒さんの『無人島のふたり〜120日以上生きなくちゃ日記』です。
こちらは、2021年の10月に58歳で膵臓癌で亡くなられた山本文緒さんの闘病期間中の日記をまとめた本です。2021年の4月にステージ4の膵臓癌だと突然告げられて、5月から書き始めたとあります。
悲しい結末がわかっている映画を見るみたいな。そんな重たい気持ちで、買ったはいいけれど、開くのが怖くて、ずっと放置したんです。”闘病記”といわれるジャンルの本を買ったのは初めてで。
表紙もまたね、なんかミモザとかナンテンかな、その間に小鳥が飛んでるイラストで、「ああ、花札みたい」って思ったりして、すごく可愛らしい表紙なんです。その軽やかさ、明るさもまた怖くて、開けられない、手にとっては棚に戻すみたいな、感じでした。
でもある日、意を決して読み始めたら、面白くて、ぐんぐん読んでしまった。面白くてっていうと語弊があるんだけど。ただただ暗く、しんどい話じゃないんですよ。
はっとさせられた文章と、それからこの本にまつわる、山本文緒さんと信仰の深かった作家さんたちのお話をしたいと思います。ああ、最後まで泣かずにしゃべれるか不安です。またお湯を沸かして。お茶とティッシュを近くに用意しておきましょう。
甘えられなかった角田光代さん、甘えたかった豊島ミホさん
この本が出て間もなく、文学界のいろんな方が書評を書かれてたり、追悼とともにSNSにアップされていました。私はそれをくまなくチェックしてました。『無人島〜』をなかなか読めずにいたときに。自分は中身を読まずに、他の人がどう読んだかを先に確認してから、安心安全か確認してから読もうみたいな気持ちでした。
「小説新潮」に掲載された角田光代さんの追悼文が「Book Bang(ブックバン)」というサイトにアップされていたんですね。
「『私の夢はかなわない。それがかなしい』30年来の作家仲間・山本文緒に綴った、角田光代の想い」(BookBang)
これがすごかった。ものすごい破壊力で。通勤途中だったんですけど、途中で有楽町線を降りるくらい涙が止まらなかった。
角田光代さんと山本文緒さんの出会いは、ある文学賞の授賞式で、山本さんが前年の受賞者で、デビュー作で緊張して右も左もわからなかった角田さんに山本さんが話しかけてくれた、っていう経緯らしいんですね。
そのときについて、角田さんはこう書かれています。
こういうことを言葉にできる角田さんってやっぱすごいなって思った。「頼りすぎてはいけない、甘えすぎてはいけないって直感的に感じる人」ってわかるってなったんですよ。
それからこの話はこう続きます。
私はここで意味がわかんないくらいいろんな感情が込み上げてないちゃったんですけど。今もよくわからないな。
私にもいるんです。「この人は魂が優しすぎるからあまり近づきすぎちゃいけない」って思ってる人が。その人と喋ると、普段は覆い隠している自分の甘えみたいなのが決壊しちゃうんじゃないかという恐怖があって、あまり2人で飲み行ったりしないようにしようと思っちゃう。
そういう関係性を自分で冷静に見つめて言葉にできる角田光代さんがやっぱすげえってなりました。
「小説新潮」の山本先生への追悼文は、角田光代さんの他に、窪美澄さん、吉川トリコさん、芦沢央さんらが続きます。いやあ、なんか雑な言い方をしてしまうけれど、文筆家、プロの書く追悼文ってすごいなと。たとえるなら、テイラースウィフトの結婚式に行ったら、友人代表がみんなグラミー賞歌手で歌がうめえ〜〜〜みたいな、そんな感じでしょうか。そんな経験したことないけど。直木賞クラスってやっぱ文がうめえってなった。でもけっして、いいこと言ってやろうみたいな上手さをひけらかすようなとこはなくて。だからこそ、気持ちが持ってかれちゃうんですよね。
ちょっと話がそれました。
この『無人島のふたり』について、豊島ミホさんもご自身のポッドキャスト「聖なる欲望ラジオ」で紹介されていて。豊島さんのポッドキャストは、高校時代の友達と電話で長電話してるみたいなそんな気持ちになるのでぜひ聞いてみてください。声も話し方もかわいいです。
#04 山本文緒『無人島のふたり』紹介にかこつけて、山本先生との思い出を語る回(※泣き出します)
豊島さんもこの本への抵抗を感じつつも、悲しみを一人だけで受け止めないほうがいいって話をされてて、ほんとそうだなって思ったんですよ。
「本を読むって言うのは、書いた人と繋がれるっていうのもあるけど、同じ本を読んだ人と感想を分け合えるってことだから」っておっしゃっていて。
同じ本を読んだ人と繋がってる感っていうのはすごくわかりますね。このポッドキャストもそうかもしれない。同じ本を読んだ人と感想を直接シェアするわけじゃないけど、聞いてくださってる人と繋がってる、分け合えてる感じはすごくする。
このポッドキャストの中で、豊島さんは途中で泣き出しちゃって。お水とかとりに行ったりして。ちょっとそこもかわいいなあって。
仕事関係の人には甘えちゃいけないって思ってた豊島さんが、唯一「この人は甘えてもいい」と思ったのが山本文緒さんだそうで。
「この人には甘えちゃいけない」って思った角田光代さんと、「この人には唯一甘えてもいい」って思えた豊島さん。相手はおんなじ人(山本文緒さん)だっていうのところに、たまらなくグッときてしまいました。
さて、本の中身について全然触れられてないですね。これはどこを読んでもネタバレになっちゃう感じがあるし、あんまり解釈を話してはいけない気もするので、神フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
未来がなかったら、本も漫画もつまらなくなるのかな
山本先生、闘病中も実にいろんな新しい本を読んでるし、ドラマとか映画とかもすごくたくさんご覧になってるんですね。「大豆田とわ子と三人の元夫」も真剣にみてるし、藤井風がかっこいい、とか、ジェラートピケのパジャマを半額で買ったりしてて。
自分もこうありたいと思いました。このドラマ面白いけど、ここがイマイチだなとか、この人めっちゃ歌うまくてかっこいいなあとか言ってたいし、ジェラートピケのパジャマは安くなってるものを買いたい。後輩からは甘えられたいし、同世代からは甘えすぎちゃいけないと敬意をもたられる人でもいたい。
さて、そろそろお時間になってしまいました。「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」では、みなさまからのお便りをもとに本や漫画、神フレーズをご紹介しています。お便りは、インスタグラム@batayomuからぜひお送りください。
それではまた水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさーい。おやすみー。
<今回ご紹介した回はこちら>
<今回ご紹介した本はこちら>