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【再掲】逆噴射小説大賞2023個人的感想覚書 #02

※この記事は2023年11月4日に公開した記事を再掲載したものとなっております。2024年のnote内規約の変更により、DLsiteへのハイパーリンクを貼った記事が凍結処置となったため記事内のリンクを削除したものを再掲載いたします。該当部分以外の修正等は行っておりません。



 今年も残すところあと2か月になりましたね。
 嘘だろ?

 逆噴射小説大賞の応募期間が終了しました。
 2発撃ち切ったパルプスリンガーの方も、そうでない方も、みなさんお疲れさまでした。
 有志の方(ジョン久作先生)がまとめてくれたデータによると、今年の作品は290ほどだそうです。

 一応全作品目を通したかなと思うんですけど、そう考えると290作品×800文字=232000文字って事!?
 気が付かない内に、長編小説2本分くらいは読んでしまっていたんですね……。

 今日も逆噴射小説大賞に応募された作品をピックアップしていこうと思います。




『白いあなたを探してわたし』

「SF」「ボーイ(という年齢でもないが)・ミーツ・ガール」「褐色少女」「逃亡劇」「アクション」という、私が好きなもので構成された満漢全席みたいな小説。

 読んでて思わず。「えっ、そんな私の好みの小説を読ませていただいてよろしいんですか?」ってなりましたもん。肉系のおかずしか入っていない弁当か? さらにシチュエーションとしては、ほかの現界したアバターたちからの逃亡劇になるわけですが、アバターが単独行動ではなく、この主人公たちのようにペアになって襲ってきた場合、『金色のガッシュ』のようなバディバトルものにもなりえるってわけですもんね。無敵か? 「音」がテーマになった作品で、どんなドラマやバトルが繰り広げられるのか、いまから楽しみでなりませんね。続きを読ませてください。
 それにしてもこの作品の根幹を担っているであろう技術の〈ボイノワ〉ってどういうものなんでしょうかね。説明を読むと、単純な音のプレイヤーってわけでもないっぽいし……。
 と、繰り返し読むと、どうやらこれ『電脳コイル』とかのAR作品が、〈視覚〉を媒体として拡張現実を発展させているのに対して、〈聴覚〉で拡張現実を実現する技術っぽい……?
 でもそんなことが可能なのか……? やっぱり視覚と聴覚では視覚の方が得る情報は大きいっていうし、そんな、音でARを実現するなんてことが……。

もうひとりの僕「でもお前、音声作品聞いて女の子の実在性を感じてるじゃん」
 
😮❗️❗️❗️❗️❗️
……完全に納得した。言葉ではなく心で理解できた。




『陰膳』

 うわああああ「嫌」すぎる。
 逆噴射小説大賞2023嫌すぎ大賞受賞。この……どう考えても異常な描写なのに、おカツばあさんがあくまで日常として処理してる感じとか、日常と異常がグラデーションになって混じり合っている感じがほんとに「嫌」な感じなんですよね。
 オープニングの立ち上がり、おカツ婆さんの朝起きてからのモーニングルーティンをかなり丁寧に描写しているのが、後半の異常感のR.E.A.L.を担保しているんでしょうね。そこらへんのバランスの巧みさが、良質なホラーということなんでしょうか。800字制限の逆噴射レギュレーションだと、日常を描写してそれが崩れるタイプのホラーはやりづらいっていう話は聞きますが、この作品のように日常と異常を上手にミキシングさせることで、じっとりした「嫌」さを読者に与えることができるんですね。うぬおー。
 そしてヒキも上手い(感想記事なのに「上手い」しか言ってないぞこいつ)。読者から見て異常な事態でも、おカツ婆さんからすれば日常。そんな中で、おカツ婆さんから見ても異常事態がおきる。異常の中の異常。波乱の気配がすることで、先が気になる。
 余談なんですけど、同じくジュージ先生が書かれた指を拾うとの関連も気になるところ(もちろん無関係の可能性もあるけど)。こういう、うっすらと繋がりを感じるホラー作品が好きでな……。こちらも、日常の中の異常が日常になっている空気感で、読んでいていーい感じの「嫌」さが味わえるので、読んでない人は読んでおいた方がいいですよ……。




『非合法無人傭兵』

 俺は今年の逆噴射小説大賞のトレンドは、ロボ物になると思っていた。なぜなら、10年振りのシリーズ新作である、ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONが発売されたからだ。タイミングも逆噴射小説大賞と近い。当然パルプスリンガーたちはARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONをプレイし、魂を揺さぶられ……身体が闘争を求めた時期に逆噴射小説大賞の作品を書き始める……。その結果、投稿作品の1割近くがロボ物になるに違いないと予想していたが、その予想はまったくもって見当違いだった。なぜだ?(お前も難しいからってロボ物を書いてないやん)(それが答えや)
『非合法無人傭兵』は、正面から格好いいロボ物です。全編を通して、短文を重ねるようにしてスピード感を出し、さらに感情描写をほぼ排除した渇いた文体。それで綴られるハードなロボ物が、面白くないわけないんだよな……。
 目まぐるしく場面も変わり、私自身まだ理解し切れていない部分もあるのだが、これ『エフティ―』は友軍で僚機なのに戦ってる……? ブロンソンは友好的に手を振っているのに、エフティ―から攻撃を仕掛けられたことを考えると裏切り……? ただ最後、味方基地のはずなのにブロンソンが機銃掃射を受けてたことと、ミサオの通信《準備完了。北倉庫の地下15階で。妨害警戒》を併せて考えると、「だまして悪いが」をしていたのは、実はブロンソンの方だった? それが味方側にバレたから、エフティ―や友軍から攻撃を喰らっている? そうなると、エフティ―の接触通信の『やり遂げたら奢ってくださいよ、先輩』の文脈がよくわからなくなるな……といった具合に、結構な考察要素があるのも個人的に好き。アクション目当てでも、考察目当てでも、何度でも読んで楽しめるおいしい作品だと思います。



『真夜中の檻』

 ダークなノワール。
 護送車から脱走した逃亡者にヒッチハイクされるという、王道な出だしではあるものの、独自の味付けがひっじょーにうまい。病院服という姿に、逃亡者の能力が披露され、「研究所」という単語から「おや、これはどうやら、単純な犯罪者というわけではない……非人道的な超常化学の被検体か……?」みたいに読者の「読み」が傾いたところで、こんどは一気に主人公側の情報が開示される。そこからの爆発的な緊張感と、これどうなんのというドライブ感がたまらないですね。アクセル踏んで、ぎゅんと加速するタイミングが読んでいて伝わってくるのが気持ちがいい(作中で主人公がアクセル踏んで車が加速するタイミングと、情報が開示されることで物語のドライブが加速するタイミングがリンクしてる。ダブルミーニングやね)。
 それまでは、逃亡者に振り回されている印象だった主人公が、こんどは逆に振り回す側の立場に回る。舐めていた人間が実はやべーやつだったという『ジョン・ウィック』や『イコライザー』的なスカッと感もありつつ、でもこのままこいつを放っておいたら大変なことになってしまうというスリルが両立していて緊張感がありますね。
「謎の研究所から逃げ出した被験者にジャックされる」と「主人公が女を誘拐して爆弾詰んでテロを企てる」ってたぶんそれぞれが、それで一本800字を書けるぐらいのアイデアなんですけど、それを両方取り入れているのがめちゃくちゃ贅沢ですよね。「逆噴射小説大賞は800字の短編を書くんじゃない、冒頭の800字を書くだけなんだ」ということを改めて見せつけられた感があります。アイデアの出し惜しみをしてはいけない。面白そうな要素をどんどん乗っけてていけ。
 あと文体も好き。ハードボイルド文体で、感情を抑えた、渇いた静かな一人称なんですけど、それが余計に主人公の狂気を際立たせてる。やべー奴を書くときに文体でヒャッハーをさせる必要はない。勉強になる。



『科学探偵 理路名刹(りろめいさつ)VS呪怨霊能者 利不二寿恩(りふじじゅおん)』

 おもろー!
 ストレートにおもろをぶつけられましたねこれは……。いや、ほんと、トテモシツレイなんですけど、こう、タイトルとか、いらすと屋のヘッダー画像からして、警戒しながら開いたんですけど(スゴイシツレイ)、そんな杞憂を吹き飛ばすほどの、正統派なオモロでガツンと殴られましたね。
 タイトル的に主題は科学探偵・理路名刹と呪怨霊能者・利不二寿恩の推理合戦になるんじゃないかなと思うんですけど、いきなりふたりがやいのやいのやるシーンから書くんじゃなくて、一旦被害者(被害者って言っていいのか?)であるヤクザの山中視点で経緯を描写しているが白眉。このパートを挟む事で作品全体のリアリティラインがぐっと定まる感じがしましたね。最初のパートの血生臭さで、読んでいるこちら側の緊張感も高まります。それにしても何の落ち度ないのに極道に目をつけられて麻薬密輸を強要させられた上、ミスったら四肢切断+生コン詰めにされるマジシャンの人が可哀想すぎない? 極道が真実ガチで最悪クソ過ぎる。もうこいつら鏖でいいでしょ。

 生コン詰めにしておいたはずなのに、消えた「人体」。なるほど被害者(あるいは容疑者)がマジシャンだったのを加味すると、つまり脱出マジックだった、というのが科学側の主張になるわけですね。もし仮に協力者とかじゃなくて、マジシャン本人が犯人だった場合、地獄の傀儡師も顔負けの復讐鬼になりますが……。流しっぱなしのラジオの演出なんかも、ホラー風味の味付けとしてばっちり決まってます。




『犬に非ず、人に非ず』

 🐕犬パルプ(余談だけど昨年度は🐈猫パルプがちょっとはやりましたね)。
 伝奇小説風の文体で進んで行き、全体的に雰囲気がよかったです。
 学校の授業で習うレベルの有名さで、なおかつインパクトのある生類憐みの令をメインテーマに据えているのが、目の付け所が……良い! 江戸時代には詳しくなくても『犬公方』という単語ぐらいなら、誰もが一度は耳にしますからね。妖怪が出てくる系の伝奇とも相性が良いんじゃないでしょうか。『朧村正』でもそんな感じのネタがあった気がします。
 あと「生類憐みの令にしたがっていたら~、犬の怪異が出てきて喰われました~ チクショー!」で終わりにしないで、そこからさらに一歩進んでその犬の怪異をさらに狩る存在まで出てきたのがグッド。これがあることで、一本この小説の行く末というか、どういう部分を楽しみにすればいいかという方向性が見えてきて、かなり先への期待を煽られるセットアップになったなー、という印象。単純な、江戸を舞台としたモンスターパニックではなく、ある種のヒーローものの文脈まで乗ってくるというか。犬狩りも、短いやりとりと描写の中でしっかりとキャラを立たせていて、強キャラ感もばっちり出ていると思います。
 そしてさらに最後の段落にも「おっ」と驚くような仕掛けがほどこされているのがニクいですね。

 や、やるのか……!? 水戸黄門を……!!?



『シエラの帰還点』

 特殊閉鎖環境のソリッド・シチュエーション。
 空を飛ぶ飛行機という舞台設定も含めて、結構映画的な雰囲気を感じる作品ですね。ハリウッド映画感(イズミ姉ちゃん出てるのに?)。
 こういうソリッドシチュエーションだと、やっぱり「閉じ込められている」ということを主人公が理解するまでの段階(あるいは、読者が理解するまでの段階)がかなり説明的になってしまいがちなのが弱点としてありますよね。「ここは、こういう特殊な状況で、脱出は不可能なんです」という説明をするだけで800字を使ってしまって、なかなかドラマ部分までドライブさせられないという感じの。これが4万字なり10万字の小説なら、じっくりと脱出不能の描写を重ねていくことは別に弱点でも全然なくて、むしろそこもソリッドシチュの味わいになるんですが。(800字までしか書けない逆噴射小説大賞レギュならではの弱点といえるかもしれない)。
 でもこの『シエラの帰還点』はいきなり暴力・ヴァイオレンスの描写から始まり、油断ならない敵役の男との対峙しているシークエンスからストーリーを切り出すことで、常に読者に緊張感を与え続けて退屈を感じさせないような作りになっているんですよ。やはり暴力はすべてを解決する。
 そして、それは暴力で読者をひりつかせるのと同時に、ソリッド・シチュエーションものでおなじみの「登場人物たちが恐慌状態に陥り、暴力が場を支配するようになる」というトロの部分になっているんですね。(そこがトロなの?)(トロじゃない?)
 一粒で二度おいしい。暴力の使い方が上手いですね。
 あとはヒロインが出てきてからのシークエンスも素晴らしいなー、と。必要最低限の会話で、読者に主人公とイズミ姉ちゃん周りの関係性を想起させつつ、「あの日と何も変わらない」という文章でこの閉鎖空間の異様性を感じさせながら、殺人の提案で次の展開に向けての緊張感や強力なヒキを持たせている、かなりテクニカルなダイアローグだと思いました。



『贖命のダイヤモンド』

 どことなく武侠小説のような空気感をまとう作品。
 主人公の許に依頼人が訪れるという、いわゆる逆噴射小説大賞でいうところの「依頼メソッド」の類型でありながら、まったくそうと感じさせないのがワザマエ。私もピックアップ記事を書くまでまったく気づきませんでした。逆説的に言えば、実力のある方が書くと依頼メソッドであろうとなんであろうと面白い作品は書けるという証左なんですわ。
 情景描写や地の文による説明は最低限で、フーとヤクザのやりとりに終始している。パルプ小説の基本であるアクション、つまり『会話』を重ねていくことで、800字を読み終えるころにはばちこりと二人のキャラがビンビンに立っている。
 秀逸なのは、「金」を断り「復讐」を提案されたフーが、それすらも蹴った部分である。ここであえて「復讐譚」という方向へ舵を取らなかったのがすごい。古今東西の作品を見ればわかる通り、復讐譚は分かりやすく、そして読者を惹きつけるパワが強い。『ニンジャスレイヤー』だってそうだ。だのにあえてそれを蹴る選択をしたのだ。その結果、逆に読者は目が離せない。「金」でも「復讐」でもこの少年は動かなかった。では、逆に彼を動かすものはなんであるのか? といった具合に、である(ここでいう「動かない」は「依頼を受けない」という意味ではなく、〈心〉の話。念のため)。
 ほかにも、さらっと外国語である日本語を話すクレバーさを見せたり、ヤクザ相手に一歩も引かない胆力の強さ、「アレもおまえの兄弟か?」というハードボイルド小説の主人公のような皮肉な軽口を叩いて見せる一面もあったりと、大小様々な描写を重ねることで、いちいち「この主人公はこういう生い立ちで、こういう性格で~」と説明せずとも、読者が本筋(ダイヤモンドの件)を追いかけるだけで主人公のキャラクターが伝わっているのである。
 フーだけではなく、ヤクザについても同じだ。一見、激しい恫喝や暴力じみた脅しは見せなく、友好的な態度ではあるものの、どこか胡散臭く信用ならないヤクザ、とういうことがわかるようになっている。技巧やね。
 強力なキャラ立て力もすごいが、本筋だって面白くなる気配に満ちている。舌で舐めることでダイヤモンドの天然合成を見破れる主人公の能力。それを利用して、どのような悪事に巻き込まれていくのか、ワクワクしかしない。口の中でダイヤモンドをすり替えたりだとか、あるいは口に含んだダイヤを飲み込んだりだとか、そういうギミックなんかも出てくるかもしれない。
 さらには、ヤクザも……というか、『舌技』という単語からどうやらそういう「舌にまつわる異能」を持った人間もいるらしい。
 いや……舌にまつわる異能ってなんだよ!!! と思わず突っ込みを入れてしまう外連味もたっぷりなのだ。



『呪孵し』

 呪術廻戦。
 呪術は結構パルプスリンガーたちの間で人気な題材で、実は毎年ひそかに呪術パルプを読むのを楽しみにしているんですが、今年はあまり数がありませんでしたね。残念。
 この作品の一番の見どころは、呪術のディティールの描写の仕方が凄まじいことでしょうか。もはや完全に、呪殺が生活・仕事の一部になっているプロフェッショナル感が非常によく表現されていると思います。
 大げさなエフェクトや超常現象が起こるわけではなく(現象としては飲み込んだ石がちょっとあったかくなるくらい)、石を飲むときに唾液をためるコツだったりとか、そういった細かい描写を淡々と積み重ねていくことで、逆に呪術のリアリティを高めているんですよね。すごくない?
 後半のパートも面白い。
 本来は呪術には宝石を使っていたが、それを普通の石に代替することでコストを踏み倒す代わりに、呪いの効きが悪くなる、なんてのもさもありなんという感じがするし、仮にも人ひとりを呪殺しているにもかかわらず、一切罪悪感を感じていないあっさりとした主人公の態度とかも、もはや呪殺が日常の、プロの殺し屋って感じがしてベネ。
 質屋の店長とのやりとりの中で、報酬の宝石が呪われていたことが判明する(宝石を口に含むことで呪いの味を判断している……舌技だ!)。そこで終わらずに、さらに主人公側の反撃の出だしまで書いているのも上手い。いったいここからどのような呪術戦が繰り広げられるのか、ほんとうに先が気になる小説だと思います。



『良い子の灯』

 逆噴射小説大賞は、800字の短編を書く賞ではなく、何千何万字と続いていく小説の、出だし800字を書く小説イベントである。ということは皆さん当然ご存じかと思います。ですが、矛盾するようですが、「何千何万字と続いていく小説」なんてものは存在しないんですよね。もちろん、実際に800字の続きを書いている方は何人もいらっしゃいますし、作者の方によっては実際に800字以上書いてから切り取って応募するスタイルの方もいるかもしれませんが、少なくともこのコンテストに応募している部分は800字だけで、実際にその続きを読めるわけじゃない。存在はしていないけれど、その存在していない「続き」を読みたいと読者に思わせる、そういう趣旨のコンテストなわけです。
『良い子の灯』を最初に読んだ時に抱いた感想は、「あ、これ続きがあるな」でした。いや、続きはないんですけど。でも私はこの後に続いていく小説の存在を、たしかに確信したんです(くもりなきまなこ)。
 川柳を題材にした静かなストーリー運びは、あまり逆噴射小説大賞っぽくなく、もっと言ってしまえばパルプ小説っぽくはないんですが、人を殺さなくても、暴力がなくても、アクションシーンがなくても、800字で続きが読みたくなる小説を書くことができるんだということを見せつけられた気持ちになりましたね。
 主人公の生い立ちや、淡々とした筆致でつづられた日常の描写。それらが、川柳をいっぱいにしたためたノートというアイテムを中心として、ぐっと色づくような感覚を読んでいて覚えました。自分のことを詠んだらしい川柳を目にしたことで想起された過去、灰島という人物、その描写の仕方も素晴らしい。

「灰島さんとは中学時代の同級生だ。巌じみた重々しい寡黙さと、襟足を刈った短髪が上手く噛み合った少年だったのを覚えている。若武者を彷彿とさせる凛呼とした体躯も、無愛想さを一種の魅力に昇華させていた」

 という決して長い量ではない説明で、もう読者こちらの脳にバチっとイメージを結ばせて来るの、控えめにいって超絶技巧の類では?
 また、逆噴射小説大賞のレギュだと、800字で作品ジャンルを提示するのが比較的定石な気がするのですが、『良い子の灯』はジャンルがまだここからどのように振ることができるというのもかなり特異な気がします。
 裁判記録の下りからするに、サスペンスやミステリな気もしますし、あるいはヒューマンドラマや純文学へ進んで行ってもいいですし、もっと言えば灰島くんと主人公の恋愛ものという可能性だって残されている。そういった先の読めなさも、続きを渇望する心理に一役買っているのかもしれません。
 ……と、つらつら感想を書きましたが、なんにせよ、もしまだ読んでいない人がいらっしゃいましたら、一度読んでみてください。おすすめです。




◆自作紹介

『幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-』

『死闘裁判 -Trial by Combat-』

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