朽尾明核

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  • 逆噴射小説大賞個人的感想覚書まとめ

    逆噴射小説大賞のピックアップ感想記事をまとめたものです。珠玉のパルプ小説の数々を紹介してあります。 ©Photo by Ugur Akdemir on Unsplash

  • パルプ小説集

    私の書いたパルプ小説作品をまとめて置くマガジンです。 ©Photo by Sofia Sforza on Unsplash

最近の記事

緋色の白刃/スカーレット・ホワイトブレード

 通学中の電車で痴漢を目撃した。侍だった。  白髪雑じりの中年男が、若いOLの身体を無遠慮にまさぐっている。  その行為を咎める者はいない。理由は、男が腰に佩いている刀だ。平民が侍の行為に口を挟めば、無礼討ちにされても文句は言えない。女性もそれが分かっているから、助けを呼ぶ事もできないのだ。 「やめなよ、おじさん」  凛とした声が車両の中に響く。  俺の隣にいた紅緒が、いつの間にか男の後ろに立っていた。止める間もなかった。 「なんだ、お前は──」  お楽しみを邪魔され

    • クラゲを海へ捨てに往く

       満月の夜。  俺は、足場の悪い山道を、六〇キロの袋を担いで歩いていた。事前に掘っておいた穴に到着する。穴の横に袋を降ろすと、鈍い音が響いた。  袋のファスナーを開ける。  ヘッドライトが死体を照らし出した。  若い男。  茶髪に、軽薄そうな顔つき。その右半分は、口径の大きな銃で撃たれたらしく、無くなってしまっていた。  この男が殺された理由――それは、俺の仕事には関係がない。俺はただ埋めるだけだ。  手袋をした手で、死体を担ぎ上げようとした。  その時。  男の残された

      • 【再掲】逆噴射小説大賞2023個人的感想覚書 #02

         今年も残すところあと2か月になりましたね。  嘘だろ?  逆噴射小説大賞の応募期間が終了しました。  2発撃ち切ったパルプスリンガーの方も、そうでない方も、みなさんお疲れさまでした。  有志の方(ジョン久作先生)がまとめてくれたデータによると、今年の作品は290ほどだそうです。  一応全作品目を通したかなと思うんですけど、そう考えると290作品×800文字=232000文字って事!?  気が付かない内に、長編小説2本分くらいは読んでしまっていたんですね……。  今日も

        • 『第七回こむら川小説大賞』に参加しました!

           オンライン上の小説イベント、『第七回こむら川小説大賞』に参加させていただきました。 一時創作書下ろし作品が沢山投稿されまして、「みんなで小説を書こう!感想を言い合おう!」という趣旨のお祭りとのことで、Twitterで流れてきて、楽しそうだなーと思って参加させていただいた次第であります。 詳細はこちら。  参加すると、主催の方と評議員の方計3名により、『全作品』講評をいただけるというのが概要にありまして、……いや、すごくないですか?  わたしのようなweb小説書きは基本「読

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        • 逆噴射小説大賞個人的感想覚書まとめ
          11本
        • パルプ小説集
          7本

        記事

          第七回こむら川小説大賞ピックアップ17選感想覚書

           オンライン上の小説イベント、『第七回こむら川小説大賞』に参加させていただきました。  一時創作書下ろし作品が沢山投稿されまして、「みんなで小説を書こう!感想を言い合おう!」という趣旨のお祭りとのことで、Twitterで流れてきて、楽しそうだなーと思って参加させていただいた次第であります。  詳細はこちら。  ピックアップも推奨とのことでしたので、せっかくなので私が読んだ中で「むっ!これは!」と来たものについて、感想をちょっと書いて行こうかなと思います。  いかんせんイベ

          第七回こむら川小説大賞ピックアップ17選感想覚書

          ゲームブックプレイ日記 ~『火吹山の魔法使い』~

           最近、こう……「TRPGっぽいゲームがやりたいな」という欲を抱えて生きてまして。  TRPGがやりたい……ではなく、TRPGっぽいゲームですね。(『恐怖の世界』とか『バルダーズゲート3』とか。もっというと『CardWirth』とか)  別にTRPGがやりたくないわけではないんですけど、ほら、生粋のコミュ障の私にとって、なかなかにハードルが高いものがありまして……。  と、そんな日々を過ごしていたら、Twitterでなんかゲームブックの話題がぽろりと転がってきまして。(なん

          ゲームブックプレイ日記 ~『火吹山の魔法使い』~

          【厳選30作品!!】少年ジャンプ+名作読切漫画を紹介します!!

           みなさん『ルックバック』観ましたか?  私はまだ見ていません。  いや……見には行くんですよ。ただ、こう……映画を映画館に見に行くのって、私的に、かなり、こう、気合を入れないといけなくてですね。  はい。  というわけで本日は『ルックバック』映画公開記念ということで、ジャンプ+、に掲載されている読切漫画――そこから厳選した30作品をご紹介しようと思います。  「厳選30作品」ってそれ厳選する気ないだろ。  せめて半分にしろ。  という声も聞こえますが、実はジャンプラの読

          【厳選30作品!!】少年ジャンプ+名作読切漫画を紹介します!!

          愚地独歩はなぜ当麻蹴速を殺さなかったのか/『バキ道』のテーマ性についての個人的解釈

           板垣恵介先生が連載する格闘漫画『刃牙シリーズ』の第五弾、『バキ道』。その連載が終了してから早1年が経過している。  連載終了から1年が経っても、私は『バキ道』についてよくわからないでいた。個人的に刃牙シリーズは『テーマ性』に非常に真摯な漫画だと思っており、前章である『刃牙道』までは、なんとなくではあるが「こういうテーマが描きたかったんじゃないかな……」という風に解釈ができていたのだが、こと『バキ道』においてはまったくと言っていいほど主題が掴めていない状態であった。  連

          愚地独歩はなぜ当麻蹴速を殺さなかったのか/『バキ道』のテーマ性についての個人的解釈

          小説を書きました『白い貌の呪い師』

          KAC2024が開催されました。 KACというのは『カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ』の略であり、あの暗黒メガコーポカクヨムが主催する、血で血を洗う武闘大会のことです。 参加者たちは運営より出されたお題に対して、最低字数800字以上の(800字というのは奇しくも逆噴射小説大賞のレギュレーションと同じだ。オドろいたねェボウヤ)小説を投稿し続けなければならない、暗黒の小説・バトル・イベントとなっています。 それぞれのお題に対して小説を書ける制限時間も3~4日間程度

          小説を書きました『白い貌の呪い師』

          逆噴射小説大賞2023個人的感想覚書

           今年もやってきた。  何がだ?  年に一度のお祭り、『逆噴射小説大賞』の季節が、だ。  きっとこの記事を読んでいる奴らなら当然知っているとは思うが、念のため、補足をしておくと、逆噴射小説大賞とは、「小説の冒頭800字のみを投稿するコンテスト」のことだ。800字で完結する短編、という意味ではない。そのあとさらに続く3000字のショートショート、2万字の短編、4万字の中編、10万字の長編、あるいは、200万字を超える一大巨編シリーズ──それらの、書き出し800字だけを切り取り、

          逆噴射小説大賞2023個人的感想覚書

          死闘裁判 -Trial by Combat-

           法廷の中央で、検察官の須藤と対峙する。  距離二メートル。  裁判官の、被告人の、傍聴席の、検察席の、全ての視線が、俺と須藤の二人に集まっていた。  半年前、足立区で起きた、中学校教諭一家殺害事件。  被告人の沢木に対し、検察は死刑を求刑し、弁護人である俺は、沢木のアリバイや、不当な取り調べ、証拠の不明瞭な点を論拠に無罪を主張した。  死刑と、無罪。  互いの主張は真っ向から対立した。  従って、己の正しさは、拳を以て証明する事となる。 「構えて――」裁判長の声が響く。

          死闘裁判 -Trial by Combat-

          幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

           「やめた方がいいよ」  隣を歩く少女は、そう言って顔を覗き込んできた。長い金髪が揺れる。  クリスマスの夜。大通りは、カップル達で溢れている。  行き交う人の中で、少女の姿は浮いていた。バニースーツを着ているのだ。どう考えても屋外で着る服ではないだろう。  だが、通行人達が彼女に目を向ける事はなかった。  何故なら、彼女は俺が脳内で作り出した幻覚だからだ。 「向いてないよ、蓮には、殺し屋とか」  幻聴。この言葉も、俺にしか聞こえない。  少し前から視える様になった、スト

          幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

          「賢いヒロイン」中編コンテストに参加しました

           みなさん、おひさしぶりです。もう3月なんですね。嘘でしょ? 「最近時間の流れが早いわね」デッキはある程度年齢が高い人間たちの間では鉄板ネタですよね。まず確実に共感が得られるし、共感は雑談をするうえで非常に大事。事実として、時間経つの早く感じるしな!  それはさておき、カクヨム様にて面白そうなコンテストが実施されていました。 🌵「賢いヒロイン」中編コンテスト🌵  その名も、『「賢いヒロイン」中編コンテスト』。賢いヒロインをテーマとした中編コンテストですね。わかりやすい。

          「賢いヒロイン」中編コンテストに参加しました

          逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ

           祭りが……終わった! 今年も……終わる!  ということで、みなさま、逆噴射小説大賞、お疲れさまでした。  私も参加をしましてー、せっかくですので、ライナーノーツもやりたいのでやろうかなと。  私は今回で2回目の参加となります。去年が初参加で、今年が2回目ですね。今年の事を語るには、去年のことを踏まえる必要があるので、長くなるかもしれませんが少々お付き合いください。 🌵逆噴射小説大賞2021🌵 あれは1年前のこと……。初参加だった去年の逆噴射小説大賞2021。私は、上限

          逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ

          逆噴射小説大賞2022感想覚書 #02

           寒い日が続いておりますが、皆様体調はいかがでしょうか。  休日は布団にくるまりながら、逆噴射小説大賞に投稿された作品を読み漁る一日を過ごしております。 【#01】 【#02】 泥と鯨のワルツ Dragon's Rest(ドラゴンズレスト) 水底の教室 女神の疾走 とにかく読み味が爽快で読んでいてスカッとする作品。タイトルにある通り、疾走感を持って小気味よく進んでいくエピソードは、スピード感があり、多分この先も読んでて絶対に退屈しないんだろうなという期待をもたらして

          逆噴射小説大賞2022感想覚書 #02

          ユグドライズ -YGGDLYZE-

          「この場所は、どうだ」  二人が樹楷都市を出発してから、三日目の朝。  先を歩く〈防人〉のカムザが、そう言って歩みを止めた。 「そうね……」  後ろにいた〈巫女〉のエンジュが、周囲を見渡す。  森。周囲には、樹々が檻のように生えている。そのため、全体的に薄暗い。しかし、一角には、陽の光が地面を照らす場所があった。 「悪くないわ」エンジュが頷く。「光合成に充分な光量は確保できてるし、水場も近い。ここにしましょう」    エンジュは、灰白の巫女装束を脱ぎ始める。するりと、乙女

          ユグドライズ -YGGDLYZE-