ハン・ガン著「別れを告げない」
とても重い作品で、読んでいる途中に私の心へズシンと鉛が打ちつけられるような感覚を感じるほどでした。
韓国文学において、多く取り上げられている事件は、光州事件、セウォル号転覆事件、そして新型コロナウイルスの流行が挙げられると思います。
本作の著者ハン・ガンさんも2017年に「少年が来る」という作品で光州事件を取り上げ、イタリアのマラパルテ文学賞を受賞されています。
この作品は、韓国内でも長く沈黙されてきた「済州島4・3事件」を扱っていています。この事件そのものが1987年の民主化後真相究明が進められ、2003年になり初めて当時の大統領が公式に謝罪、公に認められた事件です。
本作では自身の家族と夫が事件の犠牲となった母を持つ、済州島出身のドキュメンタリー映画作家のインソンが、母が済州島4・3事件を生き延びた事実を友人で、ハン・ガンさんと思われる作家の友人キョンハに語ります。
その内容がとても残酷で、これが現実なのか、資料を見て作品を書いていたなら、その惨さが頭から離れないなと読んでいる私さえ感じました。
日本でも戦時中「アカ狩り」と称した「共産主義者」を抹殺の名目で民間人が300万人以上虐殺された事件です。長らく「大韓民国の建国を妨害しようとした共産暴動」とされ、無実の民間人が国家公権力で虐殺された事実は、ずっと隠蔽されたままだったようです。なぜ明るみに出なかったのか、その内容は本作を読んでいただきたいですが、まさにヒットラーによるユダヤ人迫害のように意味がわからない虐殺です。
キョンハが、インソンに「この事件のドキュメンタリー映画を作成しないのか?」と問うとインソンは、「とても作れない」と拒否しています。家族となればそうでしょう。
訳者あとがきに説明がありますが、タイトルの「別れを告げない」は著者の「哀悼を終わらせない」というハン・ガンさんの著者として強い意味があるのだそうです。最初に書いたように、韓国文学は過去をきちんと捉えて、今を生き、未来を作っていくという強い意志を発信する作品が多いです。本作も同様です。
ノーベル文学賞受賞作家となった著者ですが、韓国における知名度に偏りがあるのが気がかりです。けれど私は今後も楽しみにしています。
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