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もうひとつの映画『羅生門』          早坂文雄 『管弦楽のための変容』     


                                                                                                   (名称敬称略)


 概要

 『管弦楽のための変容』は、日本のクラシック作曲家・早坂文雄によって制作された楽曲である。昭和28年(1953)に完成したが、諸事情から初演は中止となり昭和55年(1980)に初演された。 

 作曲者の簡単な紹介

 早坂文雄(大正3年(1914)~昭和30年(1955))

 クラシック音楽家。代表作『二つの讃歌の前奏曲』『古代の舞曲』『左方の舞と右方の舞』『序曲二調』『ピアノ協奏曲』『うぐいす』『弦楽四重奏曲』『管弦楽のための変容』『交響組曲ユーカラ』など作品は多数。『東洋的な美』として『汎東洋主義』(パンエイシャイズム)を提唱。数多くの映画音楽も携わり黒澤明、溝口健二などの作品が有名。

曲の特徴

 まず旋律が提示される。そして楽器、曲調を変えながらも基本となる旋律は変わらない。そして最後に最初の旋律へと回帰する。しかし……。

映画『羅生門』との関係

 これは筆者の体験談なのだが、映画『羅生門』(黒澤明監督。音楽は早坂文雄)デジタル版が放映されたとき、千秋実演じる僧侶が証言した後の回想シーンの旋律。この旋律が『管弦楽のための変容』の主旋律に転用されていると感じた。この曲で早坂文雄が音楽で映画『羅生門』を表現していると筆者は思えた。(同じ作曲者なので著作権問題はクリアできてる。また早坂文雄の同い年の作曲家にして、心友の伊福部昭は映画『源氏物語』で、後に『タプカーラ交響曲第2楽章』の旋律を登場させている)

備考:映画『羅生門』ベネチア国際映画祭グランプリ受賞
   映画『源氏物語』カンヌ国際映画祭撮影賞受賞

もうひとつの映画『羅生門』

 映画『羅生門』を観た後、『管弦楽のための変容』を聴くと黒澤明の『羅生門』とは違う、もうひとつの『羅生門』が表現されていると感じる。『管弦楽のための変容』の終わり方は終盤になって最初の旋律に戻る。ただ、微妙に最初のものと違う。東洋的な考えと題名の「変容」から、「完全」「完成」なものとして終わらない。

「もう一度最初に戻りました。    本   当      に  ?」

 映画『羅生門』の最後は希望をもたせた終わり方だ。一方『管弦楽のための変容』は一種の「ほのぐらさ」を醸し出して曲が終わる。ありえたかもしれないもう一つの映画『羅生門』を音楽で体験してみてはいかがだろうか。


<参考文献>
『黒澤明と早坂文雄 風のように侍は』 西村雄一郎 河出書房新社2005
『映画音楽の巨星たち 1』 小林淳 ワイズ出版 2001
『昭和の作曲家たち』 秋山邦晴 みすず書房 2003より 「日本てきなるものの虚構」
『大映特撮映画大全』 特撮ニュータイプ 編集 角川書店 2010
KAWADE夢ムック『伊福部昭』 片山杜秀/責任編集 河出書房新社 2014
『伊福部昭綴る-伊福部昭』 小林淳 ワイズ出版 2014