【掌編サスペンス】『6秒堪える』
その言葉は、私の胸の奥深くに鋭利な刃物の様に突き刺さった...
......................................................................
この時、合鍵を使って、恋人の聡志の部屋に入った私は、いきなり見知らぬ人物と遭遇した。
そこにいたのは、ショートカットの小柄な可愛い感じの女..
歳は私の、一回りくらい下だろうか?
ダイニングテーブルに座って、カップで何かを飲んでいるその女は、状況が把握出来ない様子で私を見つめながら言った。
「あの、誰ですか?」
瞬時に怒りがこみ上げてきた!
お前こそ誰なんだよ!と叫びそうになったのをグッと堪えた。
そして最近本で知った怒りへの対処法で、6秒間、そのまま堪えた。
怒りの感情は、最初の6秒をピークにして緩やかに静まっていくらしい。
だが、私の怒りは静まらなかった!
その女は少し首を傾げて、私の事を見つめている。
私は堪え切れず、バスルームに駆け込んだ!
そして、鍵をかけた。
叫びそうになるのを、唇をかんで堪える。
しばらくして、外から恐る恐るという感じのノックと共に女の声がした。
「あ、あの..大丈夫ですか..」
もう少し待とう...
今、出て行ったら、あの女を罵倒してしまう
大人らしく、落ちついて話し合おう
まさかとは思うが、妹だったりして..
そんなテレビドラマみたいな事はあるわけ無いだろう..
そんな事を考えながら耐えていると、外から、その女の話し声が聞こえてきた。
「あっ、聡志さん?..アサミです..あの、なんか知らない人が入ってきたんですけど...うん、部屋に....いや、なんか、いきなりバスルームに入っちゃって.....いや、鍵かけてたよ.....うん、ホントに...鍵が開く音したから、聡志さんが急に帰って来たのかと思ったら、知らない女の人がいて....聡志さんと同じ位の歳かな...えっ、判らないの?......えっ、なんだろう...どうしよう....聡志さん、後、どれくらいで帰ってこられます?...ああ、そうだよね...じゃあ、えっと、どうしよう...えっ...大丈夫かな...」
そして、女は声を落として言った。
「...もしかして、危ない人が入って来ちゃった...とか...」
危ない人...だと
お前、言葉遣いに気をつけろよ!
6秒堪える
だが、怒りは増すばかりだった..
私は鍵を開け、ゆっくりドアを開いた。
【終】