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最後の言葉

夢に向かっていた若い頃の自分
聞こえはいいが単なるフリーターだ

「いつになったらちゃんとするんだ」
電話での親父の小言が耳に痛かった

その後それなりに頑張ったおかげで
夢のかけらなようなものを掴めた

「生活は大丈夫なのか」
堅実的な父親には理解し難い生活だろう

夢が夢でなくなり生活になった頃
結婚もして一人目の子供ができた

「もうお前も一人前で何も言うことがないな」
飲めない酒を手に親父は嬉しそうに言っていた

そんな思い出を巡りながら
少しだけ覚悟を決めて病室の扉を開けた

「お父さん久しぶりだね。体調どうだい?」

医者からは長くないと言われていて
調子が良くないのは分かりきっていたけど
話しかけてみる

母親から聞いていたから
その痩せ細った手足や回らなくなった呂律にも
動揺しないでいられた

聞き取りにくい声を必死に聞く

「お前 金 大丈夫か?」
昔から何度も聞かれた言葉だ

「大丈夫だよ。稼いでいる方だよ」
心配してるのはこっちだ

面会時間も終わり、またくるねと約束をしたが
その翌週に親父は他界した

「お前 金 大丈夫か?」

最後の言葉としてはもっと他にあるだろ
なんて気もするけど
多分もう子供へ対する心配ではなく
昔からの癖で顔を見たら
自然に出てきてしまう言葉だったのだろう

「お前 金 大丈夫か?」

面と向かってまたそう言わすことができたのが
小さな小さな最後の親孝行だったのかもしれない

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