新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出す…

新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出すのかを確認するために

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  • 小説『琴線ノート』

    一人の若手作曲家とSNSで歌のカバー動画をアップしていた女の子が出会い、 音楽と人間性に触れて心動かし、共に歩んでいく物語を お互いの側面から語る小説『琴線ノート』のまとめです

最近の記事

創造

この目で見ている物のことを世界というけど 本当に存在しているかは分からない 目に映る人も景色も全部 夢のように自分で作り出しているものかもしれない 怪我もすれば病気もする もし作り出したものなら もっといい事ばかり起きればいいのに それでもリスタートできるボタンはどこにもないし 結局は自分の足で進んでいくしかない ここが現実逃避をしたその先かもしれないなら もう現実でも想像でも構わない この世界を創造できるたった一人の存在 それが自分なのだから 思うように作ってい

    • 分かつ

      帰りの新幹線で思う “後何回会えるかな“は 数の事じゃない いつまでも元気でいてほしい もっと見せたい顔がある 聞いてもらいたい話がある そんな愛情を噛み締める事なんだ 離れて暮らすことは ある意味道を分かつことだけど 物理的な距離よりも 思い合う心の方が きっと近くに感じられる

      • 期待

        期待なんかしなければ 裏切られて悲しい思いをする事もない 期待なんかしなければ 思うように行かなくて落胆する事もない 期待なんかしなければ 踏み躙られて傷つく事もない 期待なんかしなければ 失わないで入れたものもあったかもしれない でも僕らは人間だから 悲しみ 落胆し 傷つき 失う 不感症でいる事なんて望んでいない 期待しないことを期待するのは 誰かに期待を押し付けている弱い自分だ 期待とは応えるもので 求めるものではない

        • よーいどん

          よーいどん よちよちとでもゴールを目指せばよかった よーいどん 走れるようになってからは1等賞を狙えばよかった よーいどん 少しするとスタートの合図は走るだけじゃなくなった よーいどん もう少しするとゴールはテープじゃなくで時間になった よーいどん 大人になる手前で誰かがゴールを教えてくれなくなった よーいどん 時間内の成績が人生を分けるようになった よーいどん 大人になると合図は自分で出さなければいけなくなった よーいどんの先にあったゴールは いつの日か自分で

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        • 小説『琴線ノート』
          28本

        記事

          足し算

          お母さんがちょっと心配しそうな時間の 夜のファミレス もうドリンクバーも飲みたくなくて 空のグラスが乾いていた 君と二人 語り合うのは好きな人の話事ばっかり でも君の好きな人は 私の好きな人でもあった 親友の君の事が大好きで大切だから この恋は私の奥深くに隠すと決めている それに彼が君の事を見ていることも 本当は知っている でも 大好きな君と 本当は大好きな彼 二つを足しても 大大好きにはならない 私は喜びと悲しみが重なって ちょうどゼロになる いや やっぱりちょ

          小説『琴線ノート』第28話「色」

          ピコンとスマホに「着きました〜」と通知が届く ドアを開くと相変わらず赤々としたインナーカラーの ヒナ太がぺこりと頭を下げる もう仮歌の録音も三回目になると迎えに行かなくても 自分で部屋まで来てくれるようになった 「いつもカラーが安定してるけど美容室まめにいくの?」 「もうこうじゃないと落ち着かなくて。。」 もうすっかり雑談くらいは出来るようになっていた 女性と二人きりが苦手なのはきっと 大勢から急に二人きりになるのが苦手なようで ヒナ太とは最初から二人きりなのでだいぶ

          小説『琴線ノート』第28話「色」

          小説『琴線ノート』第27話「白紙」

          鉛筆を持ち白紙のノートの開いたまま もう何十分も地蔵と化した私は自分の作詞の 才能の無さを痛感していた 全く言葉が出てこない 何かないかと見慣れた部屋を見渡してみても 生後間もない赤ちゃんのようにこれっぽちも 言葉が浮かんでこなかった 作詞をしないと、父が言うように作曲できたところで どこにも披露できない 新曲ですと言って鼻歌でふんふん歌われても 誰も聞いてもくれないだろう、私だったら聞きたくない たくさんカバーしてきた曲達の歌詞を 参考にしようと改めて見てみると 使

          小説『琴線ノート』第27話「白紙」

          小説『琴線ノート』第26話「遠のいて」

          「恥ずかしながらお聞きするんですけど、 編曲ってそもそも何をするんですか?」 作編曲家の娘としてはそれを生業にしている父に 少し聞きづらい質問だった 「それな、編曲って何やってるの?ってやつ 世のほとんどの人が知らなから無理もないか」 (はい、実の娘でもそんな感じです…) 「まず作曲が何かをおさらいすると、 作曲はメロディを作ることだ。コード進行もいらない。 著作権もメロディにしかなくて コード進行に著作権なんかついたら 世の中の曲がほとんど消えちゃうしな」 メロデ

          小説『琴線ノート』第26話「遠のいて」

          小説『琴線ノート』第25話「乞う」

          父に自分の仮歌を聞いてもらった以降 SNSにカバー動画をアップする頻度が減っていた 更新しないと忘れられてしまうという焦りも 今となってはすっかり消えてしまっていたけど その分私は歌う事と作曲をすることに今夢中だった あの日父からもらった歌のアドバイスは 技術的なものはほとんどなくて 気持ちだったり歌詞の解釈の必要性とかの 精神面が多く、それが自分で考える余地をくれて それだけで歌がワンランク上がったような気になれた ついでに楽器屋さんで作曲の教則本を探した話をしたら 作

          小説『琴線ノート』第25話「乞う」

          小説『琴線ノート』第24話「談義」

          ヒナ太が仮歌を入れてくれた曲を聴き終わると 恩田さんは少し考えるようなそぶりを見せてから 「仮歌としてはいいんじゃないか?」と答えた “仮歌としては”というのが“それなりに”という 意味に聞こえてしまうが恩田さんには どう聞こえていたのかがもっと知りたくなった 「仮歌やるの初めてだったみたいなんです 個人的にはいいなって思うんですけど 恩田さんからするとどんな印象でした?」 そう聞くと恩田さんは 「そうだなー。”仮歌として”でいうのなら 初めてにしては伸び伸び歌ってる

          小説『琴線ノート』第24話「談義」

          小説『琴線ノート』第23話「半個室」

          下北のいつもの居酒屋に着くと恩田さんは先に 奥の半個室でビールを片手にパソコンを開き イヤホンで何かを聴きながら何か作業をしていた 「お疲れ様です。待ちました?」 恩田さんは待ってないよとジェスチャーをしつつ イヤホンを外してパソコンをしまい始める 初めて会ったのはバンド時代にレコード会社の 主催するオーディション企画に参加した時に 第二次審査くらいで早々と落選したけど ちょっと面白いかもとイベントの後に個人的に 声をかけてくれたのが恩田さんだ 後からわかったけど恩田

          小説『琴線ノート』第23話「半個室」

          小説『琴線ノート』第22話「煮詰まる」

          髪はボサボサで無精髭の姿のまま コンビニでホットコーヒーを買って帰ると パソコン前の定位置に腰を下ろし 一口飲んでから横に置いたミニテーブルに置く 音楽家はコーヒージャンカーが多く自分も それにもれずいつもコーヒーだ 自分で淹れた方がコスパがいいのだけど 自室に篭りがちの作曲家には何かと理由をつけて 部屋を出るようにしないと体も固まるし それなりに気分転換ができるので 年間通すとそれなりになるコーヒー代も必要経費だ と言っても気分転換が必要となるのは 大抵曲作りに根詰まっ

          小説『琴線ノート』第22話「煮詰まる」

          小説『琴線ノート』第21話「ピッチ」

          「甘いのと辛いのどっちにする?」という父の言葉に 普段の私なら甘口を要求して できるだけ無傷でいたいタイプだけど 歌が良くなりたいと思って燃えている私は 当然のように辛口のアドバイスを要求した “仮“の歌だろうけど私なりにしっかり歌ったものだ 自分ではこのデモ曲の歌は結構いいと思っている だからこそ私の考えの及ばないところの意見を 父なら言ってくれる気がしていた 「おーいいね。 それならまずこの歌を自分の実力と思わないことだ」 具体的なテクニックとかの話とかが来ると思っ

          小説『琴線ノート』第21話「ピッチ」

          小説『琴線ノート』第20話「辛いので」

          「ちょっと聞いてほしい音源があるんだけど」 そういうと父はなんだなんだと興味ありげな表情で こちらの様子を伺っている 「小川さんの曲に私の仮歌を入れたデモなんだけど」 「小川さん?誰だっけ?」と父 「小川奏多さん!七色スマイルの!」少しイラつく私 「ああ、“多く奏でる“で奏多な」 まったく、この人は一緒に仕事した人の名前を 覚えない上にこの間話したばかりなのに… やれやれと鼻から息を漏らすと 「それなら俺の仕事部屋で聞いてみよう」 どこか機嫌の良さそうな父が言う で

          小説『琴線ノート』第20話「辛いので」

          小説『琴線ノート』第19話「はじめの一歩」

          バイトの帰りに寄った楽器屋さんの書籍コーナー いつもは通り過ぎる棚の前に私はいた “作曲、作詞、DTMコーナー” 昨日作曲について色んな話を聴かせてもらったけど もっと具体的な”はじめの一歩”のやり方はないかと 一番簡単そうな作曲の教則本を探すけど スケール、コードトーン、転調メソッド… どれも呪文のような言葉ばかりで 理解できる気がしなくて父や小川さんなどの 作曲家はこんな難しいことを理解してるのかと 軽い尊敬をして結局何も買わずに店を出た 何年も前に父に作曲って

          小説『琴線ノート』第19話「はじめの一歩」

          小説『琴線ノート』第18話「共有」

          目が覚めると昼の12時を回っていて 久しぶりにすっきりとした目覚めだった 昨夜0時が締め切りのデモ曲をギリギリで提出し 長時間椅子に座っていたせいでバキバキになった体を 引きずりながら深夜2時まで営業している スーパー銭湯に駆け込み最近ハマりつつあるサウナで 気持ちも体もリセットする これが最近のルーティーンだ 先方の楽曲コンペの締切はなぜか午前0時が多い なのでデモ曲を提出した後に誰かと食事に行ったりは 時間的に厳しいから一人でもリフレッシュできる スーパー銭湯が心強い

          小説『琴線ノート』第18話「共有」