『BANDIT vol.3』予告
『BANDIT vol.3』ではハガキ職人について特集する。
なぜいまハガキ職人か?
折しも公開される”伝説のハガキ職人”をテーマにした映画『笑いのカイブツ』には以下のようなコピーがつけられている
「何者かになりたい」というフレーズは現代人の自己認識のありようを象徴する言葉の一つだ。お笑いブームが加熱する昨今、例えばM-1の舞台裏を映したドキュメンタリーを見れば、芸人たちが「売れる」ことに情熱を賭け、「何者かになる」ために「笑い」の世界へと身を投じていることが分かるだろう。とはいえ今はインターネットの時代。アンディ・ウォーホルが「未来では、誰もが15分間は世界的な有名人になれるだろう」と言ったことが現実化し、いまや動画サイトやSNSでバズることさえできれば、芸能人やアーティストでなくても有名になることができる。
ハガキ職人たちはよくお笑い芸人や放送作家になることを夢見る人々だとイメージされる。はたしてアマチュアとして活動し「何者でもない」人々でありながら何者かになろうとしているように見える彼らはどんな夢を見、どんな世界を生きているのだろうか。
奇しくも『BANDIT vol.1』ではRTAに熱中するゲームプレイヤーを、『BANDIT vol.2』では自己啓発に影響される人々を取り上げ、現代人のアイデンティティが不断の揺らぎにさらされながらもそれぞれの場から立ち上がっていくさまを捉えてきた。
「誰もが15分間は世界的な有名人になれる」現代にあって、ハガキ職人たちを取り巻く状況から私たちはどんな世界像を読み取れるのか。そうした興味をもってこの特集を企画した。
さて、この特集では同時にハガキ職人を通じて「笑い」について考えたいと企図している。というのも、「笑い」については批評的な補助線を引くことができると考えるからだ。
近年、SNS上で冷笑主義や冷笑系といった言葉が散見される。デモにコミットしたり、政治的な意見を上げる人を批判する人々を逆に揶揄する言葉である。この言葉を聞いて思い出すのが、社会学者の北田暁大が2000年代中盤に『嗤う日本の「ナショナリズム」』を著し、2ちゃんねるに潜むアイロニカルな視点を戦後メディア史の文脈で切り取って見せ、ナショナリズムとアイロニカルな「嗤い」の感覚がゼロ年代に結託していくさまを描き出したことだった。
まだ仮説に過ぎない臆見だが、冷笑主義と言われるインターネットに潜むシニカルな身振りとハガキ職人の身振りにはどこか重なり合うところがあるように思える。
この仮説を補助線にハガキ職人の身振りから笑いについて考えることでインターネット上に溢れる冷笑主義と言われるものや笑いのあり方を批評的に描き出せるのではないかと考えている。
今回もこれまでと同様に、数多くのインタビューや寄稿を元にバラエティ豊かに誌面を構成予定である。
『BANDIT vol.3』は2024年5月19日に開催される文学フリマ東京38に合わせて刊行できるよう制作を進めている。私たちがハガキ職人との間でどんな誌面を描き出せるのか。楽しみに待っていただきたい。
坂田散文
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