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ましなヤクザは居るが、良いヤクザは居ない?

「喰うか、喰われるか・私の山口組体験」溝口敦著・講談社2021年5月発行

著者は1942年生まれ、多くの山口組等ヤクザ関連の書籍を有するノンフィクション作家、ジャーナリスト。

著者は「五代目山口組」の書籍を出す。この中で渡辺芳則の山口組長就任の内部事情を暴露。渡辺組長はこの内容に不満を持った。1990年8月、山口組系大原組組員の襲撃を受けて、背中を刺された。

2006年1月には、著者の息子が刺される事件が発生。これは著者の「山口組中核組織・山健組崩壊」の週刊誌記事が原因である。

ヤクザの襲撃を受けながらも、一貫してヤクザ関連のジャーナリストとして執筆。息子の事件では山健組に損害賠償訴訟を提起した。

題名「喰うか、喰われるか」「喰う」は山口組の記事で報酬をを得ること。「喰われるか」は著者自身や家族、出版社等への山口組襲撃を意味する。そのやり取りは緊迫感がある。

著者はヤクザが嫌いではない。ヤクザが存続できない社会が良い社会とも思わない。人間的に魅力のある、信頼できるヤクザも多く居たと言う。

魅力あるヤクザが居なくなったのは、バブル期の地上げ、債権回収、株式投資によって裏の社会が表の社会に出たことによる。1992年には暴対法施行で更に追いつめられた。

本書は、1981年田岡一雄組長死去後の山口組の抗争、混乱の通史である。死去したヤクザは氏名を明示、当時の事情を明らかにする。情報源保護の必要がないからだ。山口組の本質がよく解かる本である。

私が大阪勤務時代、顧客の隣ビルにヤクザの事務所があった。顧客訪問の帰りに後ろでパンパンとなった。車のパンクかと思った。横を若い男が走り去り、更に数人の男が追いかけて来た。初めて「カチ込み」現場を体験した。

週刊誌は、新聞、テレビと比して、一ランク下に見られる。しかし週刊誌ジャーナリストが現実社会に真剣に向かい合う。商業主義の影響を受けつつも、ジャーナリストの気概を感じるは私だけだろうか?

政治、民主主義を唱え、正義、国民の立場に立つべき正統派ジャーナリズムが権力を忖度、迎合、本来の姿を失っている。特に首相会見を見ると、ジャーナリストの気概があるのか?と疑問に思う。

正統派ジャーナリズムはすぐに「表現の自由」を声高に叫ぶ。著者は襲撃を受けても、表現の自由を理由としない。著者はヤクザと真剣勝負をやっているからだ。

町底の週刊誌ライター、記者が社会の本質を問い、暴力、権力に立ち向かう。その姿勢はジャーナリストとして評価されるべきだろう。

本書に朝倉恭司とガキの喧嘩の話がある。朝倉は著者の早稲田大の後輩。朝倉から暴力団との付き合い方が悪いから刺されたと批判された。喧嘩となった。著者の忖度のない真面目さが原因である。

六代目山口組若頭・高山清司は「真面目にヤクザをやれ」と真顔で言う。「喧嘩するのも真面目に喧嘩せよ」が彼の口癖だと言う。

ノンフィクション作家も事実に真面目でなければならない。これは報道人全体に言える。理屈、正義論ではない。必要なのはジャーナリストの真面目さである。

暴力団山口組を正面から真剣に取材したジャーナリストの本気度がわかる本である

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