「教養としての財政問題」島澤諭著
「教養としての財政問題」島澤諭著・㈱ウエッジ2023年5月発行
著者は1970年生まれ、経済企画庁で経済分析、経済政策企画立案を担当、2001年退官。関東学院大学経済学部教授、「年金・最終警告」(講談社現代新書)等の著書がある。
本書は、「バラマキをしたがる政治」と国民の「クレクレ民主主義」の結果、日本は巨大財政赤字を抱え、財政破綻、経済破綻が避けられない。財政赤字のツケは若者、将来世代に先送りされている。財務省主張と同様、早期な財政健全化を主張する。
反緊縮のMMT理論支持者からは財政破綻、経済破綻の危機感を煽る「トンデモ経済論」と批判される。確かに財政破綻、経済破綻は直ぐに来ないだろうが、日本経済の低迷が長期続いた事実は間違いない。
日本の年金制度、社会保障制度は「ネズミ講システム」と言う。人口増、経済成長右肩上がりを前提にした従来システムは持続できない。解決策として、市場原理の受益者負担原則の社会保障、年金は全額税負担による基本年金方式(75歳以上一律月15万円支給)を提案する。
著者の批判は「逃げ切った団塊世代」に向かう。団塊世代は高度成長を築いた戦前、戦中派の果実を腹いっぱい食べた。バブル期以降、リーダーとなった団塊世代の日本経済停滞への責任は重いと。
故に団塊世代は、現役引退後、自ら受け取る社会保障給付減額と若者世代の負担減の先頭に立つべきと言う。現実はクレクレ民主主義、シルバー民主主義に守られて、のうのうと生きていると批判する。
著者は基本的に、新自由主義的な市場原理、市場メカニズム導入で財政をチェックし、規制緩和を主張する。日本型雇用慣習(年功賃金、長期雇用)を改革して、成長産業への労働移動を容易にし、経済成長を図る考え方である。
確かに全員が救われる社会保障制度はないかもしれない。しかし世代間対立を助長しては米国のトランプ政権のような社会分断が進む。ただでさえ世界全体が分断化しつつあり、戦争の時代に移りつつある。
革命は求めるものではなく、突然やってくる。戦争も危機も同じである。若者、現役世代、高齢者も今が良ければ・・と危機意識がない。変えられるの政治家のみ。その政治家も先延ばし、責任逃れをする。全国民が問題意識をもって着実に一歩一歩、改善に向かって進むしか方法はないだろう。