生産性向上が先か?賃上げが先か?
「生産性向上が先か?賃上げが先か?」ニッセイ基礎研レポート・斉藤太郎2023.2.28
興味深いレポートを見つけた。現在の物価上昇に対して、政府はインフレ率を上回る賃上げを求めている。
日本の賃金は1990年比で、5.5%の上昇と30年間ほとんど増加していない。日本以外の国は2~3倍増加とその差は明らかである。
賃上げのために何が必要か?生産性向上か、それともまず賃上げをすべきかを問う。
本レポートでは、日本の労働生産性の伸びは他国比低くない。また労働分配率も先進国並みと主張する。
では日本の賃金低迷の問題はどこにあるのか?
それは生産性向上の原因が実質GDPの伸びが元々低いにも関わらず、それ以上に労働投入量(労働時間)減少が大きいことにある。
日本の年間一人当たり労働時間は1990年には2,000時間、2021年には1,607時間となった。つまり労働生産性が向上したのは労働時間の削減にある。
従って、時間当たり実質賃金は増加しても、一人当たり実質賃金は増加しない。これには女性を中心とした非正規の増加も影響している。
一方で日本の低成長の原因は人口減少と言われる。本レポートは人口減少が低成長の主因ではなく、一人当たりのGDPの伸びの低下が主因と主張する。ゆえにOECD38ケ国で日本の一人当たりGDPは、ドルベースで20位、購買力平価で26位と下位にある。
日本のGDP低迷は企業の付加価値が増加しないこと、即ち企業の粗利益が増加しないことにある。日本企業は円安の麻薬によって企業収益を確保し、粗利益増加策を全く取って来なかった。
さらに低成長の主因は個人消費と設備投資の低迷にある。2010年以降、実質GDPへの寄与度は個人消費0%、設備投資0.2%と全く寄与していない。
個人消費の低迷の原因は可処分所得の低迷にある。その原因は低金利による利子所得の減少と社会保険料の増加にある。
社会保険料の増加は1994年から27年間で47.2%増加した。社会保険料増加は雇用者報酬増加に寄与し、GDPにも計上される。
GDPは増加しても雇用者の実質手取りは27年間で6.5%減少している。いわば見せかけの雇用者報酬増加とGDP増加である。
物価上昇に見合う賃上げは期待できるのか?
本レポートは今年の春闘賃上げは昨年の2.2%から2.9%へ増加と予想する。これは1.5%程度の定昇を除くと、ベースアップは1%強に過ぎない。最低でも定昇込みで4%は必要である。
野口悠紀雄氏は70年代のインフレはインフレ率以上の付加価値増加があった。現在とは全く違うという。
従って、物価上昇以上の賃上げは期待できず、実質賃金の低下は避けられない。従って本レポートの消費拡大で縮小均衡の脱却、拡大路線を期待することは困難だろう。
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