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庶民の日常秩序に組み込まれた天皇制「平成の天皇論」

「平成の天皇論」伊藤智永著・講談社現代新書2019年4月発行

著者は1962年生まれ、毎日新聞編集委員、論説委員「靖国と千鳥ヶ淵・A級戦犯合祀の黒幕にされた男」講談社α文庫の著書がある。

本書は、平成天皇の生前退位問題、その過程、政権との対立の裏側から天皇制の本質までを問う。天皇政治利用と象徴天皇とは何か?である。

眞子さま結婚問題は、天皇制と女系天皇の在り方、天皇に対する国民の意識構造、政治性を明らかにした。天皇制は、政権、憲法改正に関係なく、日本人の国家観、家族体制に関わる問題である。

平成天皇は象徴天皇としての責務が果たせないと、2016年8月退位会見した。

退位表明までに安倍政権と多くの葛藤、対立があった。戦没式典挨拶で首相の「加害を反省」削除、天皇の「深い反省」挿入を見るだけでも理解できる。

安倍政権の日本会議メンバー衛藤晟一補佐官が窓口となって、声明の天皇の言葉に筆を入れた。政権は男系天皇、女性宮家創設反対、終身在位が基本方針。政権の時間稼ぎも限界だった。

2018年、靖国宮司小堀邦夫「天皇は靖国神社をつぶそうとしている」内部発言が明らかになって辞任した。宮司は謝罪を拒否。「悪いのは天皇」の空気感を示している。

原因は「昭和天皇録」でも明らかになったA級戦犯合祀反対の富田メモ。その後、分祀も新施設設置も立ち消えになった。

著者は、平成天皇が「象徴天皇を維持するのか?」「真の保守とは何か?」を問うているという。

維新後の「近代天皇制の問題点」が明らかになったのは間違いない。

平成はオウム事件13名死刑で終了させた。天皇に平成終了の祭事役を負わせた。A級戦犯7名死刑が天皇戦争責任の身代わりとなったのと同じ。

天皇制は、非政治的であろうとも、極めて政治的である。明治維新から戦前まで天皇は、すべて政治に利用された。現在も無意識下で利用されている。

1911年1月24日、まともな裁判もなく、無実で処刑された大逆事件幸徳秋水。大逆事件で明治は終了する。彼の辞世の句「爆弾飛ぶよと見てし初夢は千代田の松の雪折れの音」は天皇への皮肉だろうか?

2.26事件、理論的支柱と言われ、処刑された北一輝の治世の句「若殿にカブト取られて負け戦」彼の著書「日本改造法案大綱」に感動した岸信介。その流れにある自民党政権。

藤田省三は著書「天皇制国家の支配原理」で言う。

「権力支配は、日常生活秩序の上部にあるのでなく、地域閥、組合、町内会など小秩序の内部にある。道徳と政治が一体化し、政治が科学でなく、心情で号令し、そして人々が国家支配機構に組み込まれていく」と。

象徴天皇制はむき出しの権力でなく、心情的に国家、国民を支配する。眞子さま結婚問題で明らかになったのは、「理想の家族像」の天皇家以外を拒絶する国民の心情である。

英国君主制は市民革命の産物としてあり、フランス革命ではルイ16世一家がギロチン処刑された。

日本は天皇を個人、契約関係として考える視点はない。天皇を支配、被支配関係として見る。その意味で国民側も天皇を利用している点で、政治と同じである。

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