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「ゴーストワーク」とは何か?

「ゴーストワーク・グローバルな新下層階級をシリコンバレーが生み出すのをどう食い止めるか」メアリーLグレイ著・晶文社2023年4月発行

著者メアリーLグレイはマイクロソフトリサーチ上級研究員の文化人類学者。共著者シッダールスリは同じく上級主任研究員のコンピューター社会学者である。

書名の「ゴーストワーク」とは、部分的にでもAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)とインターネットを利用して調達・管理・出荷・開発ができるような仕事と定義される。

ウエブ・AI・スマホアプリのシステムを作動させるために必要な労働である。その仕事は必要だが、人目に付かない又は意図的に隠された、見えずらい世界での労働という意味でゴーストワークと呼ばれる。

具体的にはネット上の道徳的に削除すべき画像、差別的な言葉に対して人間がラベルを付して削除する仕事など、検索エンジンの分類アルゴリズムが作動するために必要なトレーニングデータの作成などを指す。

例えばAIが猫を判断するためには、猫の画像をチェックし、猫の画像にラベルを付ける仕事。教師付き機械学習のデータを作ることは人間しかできない。

それは単純な作業工程であり、技術、資格、専門知識も不要である。今まではアフリカのケニヤの低賃金労働者が担ってきた。現在、AIの進歩で米国でもこのような労働者が多く必要となった。

「ゴーストワーク」とは、日本語で一言で言えば「独立請負業務」と言える。労働者として法的保護もなく、自己責任の仕事である。

AIの進歩は多くの仕事を奪う反面、新しい労働市場も形成する。AIが対応できない予測不能の仕事である。人間から労働を取り除こうとすると、新しい仕事が生まれる。完全な自動化は難しい。

仕事が完了する最期の一歩(ラストマイル)には必ず人間が必要となる。AIが完璧になるのはまだまだ先である。最後まで解決しない部分が残る。即ち「こぼれ仕事」である。

こぼれ仕事は正社員を使わず、臨時的なギグワーカーを使う。この仕事は需要が生まれ必要となれば直ちに対応しなければならない労働である。その意味で「オンデマインドワーカー」と呼ばれる。

アマゾンの「メカニカルターク」もその一つである。アマゾン商品の多品種化で商品説明文と商品画像とのチェック、商品レビュー文の誤字脱字修正作業などを行う。

このような仕事はAPIを利用して、ネットで機械的に仕事を割り振られる。労働者個人の識別も不要、雇用者・被雇用者の関係も存在しない。労働法上の規制もない。「雇用契約」が「利用規約」に変質する。いわば「使い捨て労働」である。

著者によると、米国の成人の0.3~1%、125万人~250万人このオンデマインドワークの臨時的労働者(ゴーストワーク)である。2055年までに全世界の雇用の6割がゴーストワークに変質すると言う。

ゴーストワークは労働者を疎外し、卑しめ、孤立化させ、不安定化させる。一方で臨時的仕事で時間的余裕が生まれるメリットもある。しかし基本は低賃金かつ不安定で圧倒的な弱者である。

このような労働は消滅させることはできず、発生を止めることもできない。できるのはその対策だけである。一つは労働者が団結、共同化すること。ギルド的コミュニティの形成、プラットホーム共同組合主義であると著者は言う。

ただ言えることはAIの未来に人間が消えることはない。しかし人の労働は厳しく、孤立化することは間違いないだろう。そのためには最低生活保障給、セイフティネット構築が不可欠であろう。

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