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米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートの日本作品に魅了される
「Instruments of a Beating Heart」という短編映画を観た。
これは現在公開中の長編ドキュメンタリー映画「小学校〜それは小さな社会〜」から生まれた作品だ。日本時間3月3日に授賞式が行われる米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。
誰でも以下で無料で観られる。ほんの23分の映画だ。
小学1年生が、次の1年生を迎えるときにみんなで曲を演奏する。奏者になるためには、オーディションに合格しなければならない。そのオーディションから実際の演奏までの日々をカメラが追う。
ただそれだけなのだが、それ以上のものが映像の中にある。小学1年生にとって、一つの曲をみんなで演奏すること、そのパートの一部を担当すること、は一人で演奏することの何倍も難易度が高い。その「生まれて初めて」だろう体験はとても貴重なものなんだと映像を通じて感じる。
その過程で1年生の児童たちの交わす会話が興味深い。少ない語彙を紡いで、いまの気持ちを表現する。たくさんの語彙を得ているはずの大人より、なぜかとても多彩に聞こえる。わたしはこんなふうに言葉を紡げているだろうかと思ってしまう。
先生との会話もある。ここで感じるのは、わたしが小学生だった時代とは、先生の関わり方が変わっていること。昔なら放っておかれたであろう場面で、先生が児童に丁寧に言葉をかけている。集団的な教育に注力するのが日本の教育というのは変わっていないけれど、昔より児童一人ひとりにも気を配るようになってきているようだ。
監督の山崎エマさんは、父親が英国人。日本で生まれ日本の小学校に通い、インターナショナルスクールを経て米国の大学に進んだという。この映画を撮った理由や撮ってみて思うことをインタビューでこう言っている。
米国では、仕事の場でよく「責任感がある」「時間にきっちりしている」「チームへの貢献が素晴らしい」などと評価された。
「特別なことはしていないのに、褒められる。そういう時は『日本人としては普通のことだよ』と聞き流していた。一方で、10年ぐらい前に『自分は何者なのか』と自ら問い直してみた時期があった。突き詰めていくと、自分の特性や価値観の源流は、やはり小学校時代に培ったものにあると気付きました」
映画『小学校~それは小さな社会~』を制作した山崎エマ監督より
今までは日本って教育の自信がなくて、欧米から取り入れようみたいな空気があったと思いますが、今回私が(撮影を通して)思ったのは、日本からも海外が学べることがある。
実際、海外での反応はとてもいいそうだ。みんなで掃除をしたり、給食の配膳をしたり、という場面もとても興味深く観られているという。
日本で教育を受けたわたしにとっては、それなりに知っている教育内容よりも子どもたちの様子を間近に見られることが面白い。自分が忘れていたり失ってしまったもの、彼らがこれから得ていくだろうものを思い、予想外にとても胸に迫るものがある。