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創業のストーリーをモチーフにする(4)
2018年春から手がけたエチゴビールのリ・ブランディングはゆっくり着実に進めた。いきなり商品に手を入れるのではなく、まずはホームページやSNSアカウント上のブランドデザインを徐々に入れ替え、ブランドメッセージにつながる創業の物語を掲載した。2019年末までの1年半は「Let' be romantic, act on stage!ロマンを語ろう、舞台に立とう!」のメッセージを浸透させる時間だった。
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その間に商品デザインの開発作業を慎重に進める。既存商品のデザインの良いところは、程よいレトロ感。「全国第一号地ビール」という冠とマッチしている。これを失わないようにしながら洗練させる。ヤギマークのエレガントかつ自信を感じさせる微笑みをさらに魅力的に見せ、やや散漫になっていたブランドイメージを収斂させたい。その上で、ブランドメッセージを体現した要素を盛り込み、売場で商品を目にしたお客様に「伝える」。
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エチゴビールは、数百あるクラフトビール・地ビールの造り手としては最大手で、主力商品は缶ビール。主な売場はコンビニエンスストアやスーパーマーケットだ。そこには、色とりどりの缶ビールが並んでいる。大手ビールメーカーの商品はもちろん、最近のクラフトビールの容器デザインはオシャレでカラフルなものが多い。その中で目を止め手に取ってもらう、ということが最初の大きなハードルだ。もちろん、SNSなどで情報発信することでエチゴビールを目当てに売場に足を運んでもらえるようになればこれに越したことはない。ただ、大手メーカーのようにどこのお店にも置いてもらうだけの製造能力はなく営業力も広告予算も限られている以上、現場で出会ったお客様に訴えることが極めて重要だ。
だから、一目惚れしてもらえるデザインにしたい。
まずは、ヤギマークを魅力的に見せ、ブランドとしての一体感を生む。
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当初はこれだけでも十分良いような気もしたのだが、前述の売場での訴求力が少し足りない。社内で議論を重ねた結果、既存商品のスタウト缶にサックス奏者、レッドエールには鶴のイラストを配しているように、缶の裏面にビールのイメージを伝えるビジュアルを入れようと考えた。そしてそれはブランドメッセージを強力に伝えるものにしたい。いろいろ案が出て、デザイナー、イラストレーターの方に何度も描き直しをお願いし、最後に行き着いたのが、裏面のこのデザインだった。
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中味のビールをイメージさせる、舞台に立って活躍する人々。
これらの缶が今年2020年の初めから店頭に並び始め、お客様の反応は極めて嬉しいものだった。ツイッターやインスタグラムでもエチゴビールの投稿が桁違いに増えた。
そこにコロナ。
世の中の舞台に立つ人々の多くは、活躍の場を失うことになった。そんな中で、このデザイン、ブランドメッセージは「あきらめないで、舞台に立つ志を持ち続けよう」という、より強い意味を持つこととなった。今は厳しくても、夢とロマンを持ち続けて舞台を目指そう。舞台というのは、単に役者やミュージシャンにとっての劇場やコンサートホールのことを言っているのではない。誰もが生きている人生というステージのことだ。
ロマンを語ろう、舞台に立とう!
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コロナ禍でスタートすることになったエチゴビールの新デザインは、一人ひとりの心に寄り添って、前を向く志を後押しする。そうありたいと切に願っている。
さて、このシリーズとは別に、動物を使った、より訴求力のあるデザインの商品も展開し好評をいただいている。これについてもいろいろ書きたいところだが、舞台裏を見せるのは、とりあえずここまで。また、いろいろ積もってきたら、まとめて書きたいと思う。
<追記> 動物シリーズについての記事はこちら
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「創業のストーリーをモチーフにする」終わり