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黒い妄想から始まった

2002年にビアスタイル21社を立ち上げて20年が経過した今でも、ガージェリーブランドとして販売しているビールは樽2種類と瓶4種類だけだが、最初の2年ほどは樽のガージェリー・スタウトだけだった。10Lの樽詰ビール。当時のビールに対する一般的な認識からすると、かなり濃い黒ビールだ。このビール一品だけで勝負しようとしたのだ。無謀なことにも思えたが、そんな選択をした自分たちが誇らしく好きだった。

今でこそクラフトビールブームで、IPA、ペールエール等の様々なビアスタイルを知っている人が増えたが、当時は節税ビールとしての発泡酒が大いに世を賑わせていて、価格の安さが第一、ビールNo.1ブランドであるスーパードライの牙城を切り崩すために"キレ"を前面に出しながら、いかにビールに近いかということを訴えた商品が市場を席巻し、ほとんどの消費者の認識は、ビールか発泡酒か、っていう程度だった。大手以外のビールと言えば、当時は下火になっていた「地ビール」でほぼ一括り。そんな中、この真っ黒な液体だけでビジネスを立ち上げようと考えたのだ。

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ただでさえ無名のブランドなのに、さらに需要が限られる黒ビール。

どうして黒ビール一本で始めようとしたのか?

一つ目の答は「おいしかった」。単純だが、出来上がったものがとてつもなくおいしかったから、これに、他の選択肢をつくることが得策とは思えなくなった。事業計画の初期では、「スタウト&ビター」というキーワードを掲げて、スタウトと淡色エールをと考えていたが、最初に開発したスタウトがおいしすぎたのだ。

二つ目の答は、この黒ビールが間違いなく「新しい価値」を持つと思ったから。つまり、これまでのビールや黒ビールの文脈ではなく、全く別の文脈でお客様に提案できる。その強いイメージを持っていたのだ。

欧米人が賑やかなパブでパイントグラスを持って談笑しているのではなく、日本人サラリーマンが居酒屋でジョッキ生をグイグイ飲んでいるのでもなく、

30から40代くらいの女性が、バーカウンターやカフェテラスで、このビールを一人、エレガントに、ゆったり飲んでいる光景が、僕の頭の中でくっきりと像を結んでいたのだ。

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わかりやすく例えると、今は多少シーンが変わっているとは思うが、当時、日本で展開を始めたばかりだったスターバックスコーヒーを思い浮かべて欲しい。古き良き喫茶店のブレンドや、ハンバーガーショップのマグカップで飲むアメリカンコーヒーとは全く異なる飲み物として出現した、あのカフェラテ。単なる飲み物としてではなく、洒落た空間で、ちょっとカッコつけた気分で、という、空間と時間をも取り込んだ、新しい商品というよりは新しい概念だった。

それを、ビールでもできる、と思ったわけだ。

理屈ではなく、妄想。

それを実現できるだけの魅力ある味わいの黒ビールができた。

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同時に取り組んだのは、この黒ビールをいかに魅力的に見せ、伝え、広めるかということだ。ビジネスとしてスターバックスのような店舗展開をしようとは思わなかったので、ビールグラスが、その場の雰囲気を創り出すようなオーラを持っていなければいけないと思った。平たく言えば、それだけのインパクトがあるデザインにしたい、ということだ。このガージェリーのオリジナルグラス「リュトン」の開発ストーリーは別の記事にしたが、そういう使命を持って、このグラスは、ガージェリー・スタウトと共に生まれたのだ。

黒ビールをいかに魅力的に見せるか。

いかにブランドコンセプトを体現し、伝播する物語を創りだすか。

リュトンに注いだスタウトを飲める特別な空間、特別なお店を広げたい。

それが、2002年のガージェリーの始まりだった。

だからガージェリーの中でも樽のガージェリー・スタウトは別格の存在だ。

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(2021年4月の記事に2022年10月一部加筆・修正)

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