もっと早く出会いたかった
「もっと早くこの画家(作品)に出会いたかったな」
先日、SOMPO美術館での『北欧の神秘』展の内覧会の会場を歩きながら、私は何度そう慨嘆したことだろう。
もっと早く、その存在を知っていたなら、本文執筆を手がけ、昨年発売された『西洋絵画 風景をめぐる12か月』にも入れただろうに、と。
確かに、ムンクをはじめ、ソールベリやガッレン=カッレラなど、北欧の画家の作品は何枚か入れていた。
ガッレン=カッレラは、本の案件が来た年の夏に、展覧会で初めて出会った画家。
ソールベリは、ネタを探して美術全集をめくる中で作品を見つけた。
彼らと出会えたことは、収穫の一つだったし、それが今回『北欧の神秘』展へと足を運ぶことにもつながった。
北欧神話は読んだことがあったが、最後には戦いによって神々も敵の巨人や怪物も死に、世界が滅ぶ、という結末に、ギリシャ神話にはない厳しさ、暗さを感じていた。
何でこうなるんだ、と。
しかし、その背景には、北欧の美しくも厳しい自然があった。
雪にとざされる長い冬。
短い夏に見られる、神秘的な白夜。
背の高い針葉樹林は、黒い塊のように見え、湖は鏡のように周囲を、近づく人々を映し出す。
そのような自然に住まう、人ならぬ存在を描いた一人が、ノルウェーの画家テオドール・キッテルセンだ。
今回の展覧会に来ていた作品は、ノルウェー民話をもとに彼が創作した物語をもとにした全12点からなる連作«アッシュラドの物語»から3点。
しかし、それ以上に私を惹き付けたのが、会場で見られるVTR の中で紹介されていた作品群だった。
ここに描かれているのは、いずれも北欧の伝承に登場する怪物や精霊である。
『ハリー・ポッター』などのファンタジーでお馴染みのトロル。
水の精霊ノッケンは、睡蓮の花が咲く湖(!)の中から顔の上半分だけを覗かせて、こちらの様子を伺っている。
睡蓮のある風景といえば、モネだが、この〈ネッケン〉の舞台になっているのは、畔に黒い針葉樹が立ち並ぶ湖だ。
モネの〈睡蓮〉と、このキッテルセンの〈ネッケン〉を、同じ本に入れて、比べてみたかった。
このキッテルセンという人の作品には、フランスのルドンのそれにも近いものを感じる。好きになりそうだ。
いつか、彼の作品をまとめて見る機会が得られることを。
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