【感想】映画『関心領域』
第96回アカデミー賞授賞式が終わって二ヶ月が経ちました。『オッペンハイマー』に次ぐ、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した傑作である『関心領域』を先日見に行きました。
『関心領域』という作品は、どの映画にもない特質な想像力を問われる映画だなという印象を受けました。
関心とは真逆である無関心という心理状態がこれほどまでに恐怖感を抱いたことは初めてであり、強制収容所の隣で幸せに暮らす所長のルドルフ・ヘスの日常と壁一枚に隔たれた収容場では何が実際に行われているのかは、僅かに聞こえてくる叫び声や銃声から判断するしかないし、想像すればするほど恐怖心が掻き立てられる新感覚な映像体験でもありました。
ルドルフ・ヘスや見る側(傍観者)である私たちは今間違いなく、安全領域にいます。
安全領域の向こう側の世界、それこそが関心領域であり、関心という言葉で決して踏み込んではいけない現実があり、それは直接的な虐殺や暴力であるが、本作では決して描いていない。
壁を隔てた向こう側に意識を向ければ、叫び声や銃声によって私たちの想像が掻き立てられるものがあります。
壁の向こう側で起きている事実に無関心であれば、本作を見ても何も響いてはこないと思いますし、幸せな家族の日常を観察すればするほど、痛ましい事実を想像して受け入れることしか出来なくなる。
所長の妻や子供たちは壁の向こう側のことは全く関心のない様子であり、そうした言動を目の当たりにして考えれば考えるほど恐ろしく感じました。
『関心領域』の作品の特徴としましては、カメラワークが常に固定化されていて、カメラが捉えているのはルドルフ・ヘスの家族の日常であり、注意深く彼らの行動や会話を聴くと幸せな暮らしを約束されている安全圏の絶対領域にいており、ユダヤ人を支配下とした彼らがユダヤ人に向ける眼差しはとても冷徹なものだと感じられました。
光はなく、救いもない、壁の向こう側で起きた惨劇を私たちは本作から考え直し、あのような事件が二度起きてしまわないように学び努めなければいけないと思いました。