【感想】映画『Cloud』
今年一番の期待作、そして黒沢清監督作品の中でも一、二を争うぐらいの怪作『Cloud』を見ました。
『蛇の道』『Chime』からそして『Cloud』に至って、私の中では『Cloud』こそが黒沢監督の作家性というものが色濃く描かれているのではないかと考えさせられました。
物語の概要としましては、転売ヤーとして働く吉井は世間の一部の者にとっては憎まれ、知らないうちに恨みを買われる対象となっていき、それはいつしか殺意へと向けられる。
彼の言動や存在に恨みを持つ者たちは、何人もいて彼らは吉井に復讐することを実行する。
小さな狂気は大きな狂気へと増幅し、彼に向けられ、日常は歪み出していく。
吉井の転売ヤーとしての商売人の人柄は、他の物事に対して非常に無機質な価値観を持つ眼差しは異質とも思えるが恋人の秋子、村岡、佐野、滝本の言動からも異常さが窺えるのではないかと感じました。
日常の歪みから集団狂気へと変わって、そしてガンアクションへと変貌していくシチュエーションは、まさに黒沢節が効いていると感じさせられましたし、テーマ性の変遷というのは非常に面白い試みだと思いました。
キャスト人の方々の演技は素晴らしかったし黒沢監督の『蛇の道』にみる復讐心の募らせ方や『Chime』にみる不条理の狂気と恐怖感、そして『回路』にみる終末感など、設定、技法、『Cloud』独自の悪意と匿名性による現代社会の見えない闇と無限大に増幅する狂気の描き方は見事なものだと痛感させられました。
不条理と寓話の一体感、それに付随する狂気と恐怖の演出は他の映画では体感出来ないものがあると考えさられました。
第97回米国アカデミー賞の国際映画長編賞の日本代表作品として選ばれた『Cloud』の受賞はぜひ日本人として応援したいし期待したいと思いました。