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吾妻燕
2020年7月12日 23:37
青空を背景にして、ぱたぱたと降り注ぐ雨粒の滝を、真っ赤な金魚が横切って行く。金魚は虹色の橋の下を潜り抜け、橙色を帯びた西の空へ向かってふわふわと泳ぐ。 その可愛らしい光景を認識しているのは、どうやら僕だけらしい。この事実を知ったのはつい一時間と三分前だ。「見てよ母さま、あそこに金魚がいるよう」と指差しても、「またアンタはそんな嘘をついて」と取り合ってくれない。傍に居た近所に住む田中の爺さまにも
2020年7月11日 23:43
陽光が一筋も差し込みそうに無い、どこまでも広がる黒い雲。しとしとと真っ直ぐに落ちる雨粒。眼下に広がる交差点には傘の花が咲き乱れ、ある人は足早に、ある人達はゆったりと流れていく。 手元のスマートフォンに視線を落とす。LINEの新着メッセージを知らせる通知が一件、表示されていた。 画面に指先を滑らせて、メッセージを表示させる。そこには両手を合わせて涙を流す珍妙なパンダのスタンプと共に、一言。