山手線を一周して、すべての駅で自分を奮い立たせるポエムを詠む
1月の休日、趣味のロードバイクで山手線を一周することになった。
それだけだと味気ないので、東京中の’’急’’な坂、10本も登ることにした。ロードバイクに乗らない人には理解不可能だろうが、ロードバイク好きは、本来登らなくてもいい急な坂を登りたがる。
歩きのときは決して登らないのに、ロードバイクに乗ると登りたくなるのだ。冷静に考えるとよく分からない趣味だなと思う。
楽しい1日になりそうだが、このままだと、ごく普通なロードバイク好きの27歳になってしまう。「ライター」と名乗っている以上、「山手線」、「一周」という材料で、文章の世界に何か料理をお届け出来やしないかと考えた。
俺は昔から自分を律する言葉をメモしていた。
テストの前、部活の試合前、大きな商談の前日・・・・。
生きている中で大一番があるときは、紙に自分を奮い立たせる言葉を書くのだ。
この習慣と、「山手線」、「一周」を掛け合わせてみる。
今日は、山手線のすべての駅で、その駅名をもじりながら、自分を奮い立たせるポエムを詠むことにした。明日は別に大事なことがある訳ではないけれど、山手線から勇気をもらおう。
■9時45分:渋谷駅
【渋谷駅】
判断を’’渋’’るな。''や''れ!!
「考えてから行動するか」、「行動したあと考えるか」。
俺は断然、「考えてから行動する」方だった。しかし、ある日気づいた。考えている時間は「やらない理由」を探しているだけではないか。数知れない、やらなかった物事の先には、人生を面白くする出来事があったかもしれない。
■10時03分:恵比寿駅
【恵比寿駅】
論より証拠=’’エビデンス’’
「エビデンス」という言葉は社会人になってから覚えた言葉だ。
いけすかないデザインパーマの上司がよく使っていて、最初聞いたときにイラついたことを覚えている。ちなみに一番イラついたビジネス英語は「この仕事はカロリーが高い」だ。
■10時22分:目黒駅
【目黒駅】
怖くてもカードを’’めくれ’’。’’目’’が’’黒’’い内にやり抜け。
子供のときは目がキラキラしていたと思う。
大人に成長していく過程で、たくさんの物事を見てきた。その物事ひとつひとつが、目に、色付いた水滴を垂らしてきて、大人は目の輝きを失う。たくさんの景色を見た人の目は、輝きこそないけれど、それはそれは美しい色をしている。と思う。
■10時49分:五反田駅
【五反田駅】
’’ゴタゴタ’’言うな。昨日までのお前は死ん’’だんだ’’。
会社が近いということもあり、よく五反田の土間土間で飲んでいた。ある日の飲み会で一番上の上司から、かなり遅れるという連絡があり、結局お開きの15分前に到着した。お会計の段となり、俺の一個上の先輩が、その上司を頭数に入れ、綺麗に人数割で一人あたりの支払い額を算出した。
上司が飲んだ一杯4,000円の生中はどんな味がしたのだろう。
■11時14分:大崎駅
【大崎駅】
’’大’’げさに’’咲き’’誇れ
大崎駅近くのコンビニで遅い朝ごはんを買った。スティック状のカニかまの中に、からしマヨネーズが入っているものだ。
味はおいしいが、名前が気になった。「辛子マヨしたらば」。
「したらば?」
■11時32分:品川駅
【品川駅】
やりたいコトを’’しながら’’夢を追う? 夢だけを追って’’みロ’’(品)
「やりたいことが無い若者が増えた」と聞く。俺はやりたいことがあるだけ幸せ者なのかもしれない。
■11時43分:高輪ゲートウェイ駅
【高輪ゲートウェイ駅】
言い’’たかな’’いけど、’’わ’’からないなら、’’get away’’
高輪ゲートウェイ駅ができて喜んだ人間はいるのか?元々、品川と田町の間に住んでいたごく一部の人間だけではないか。
駅前に何もなかったぞ。
■12時09分:田町駅
【田町駅】
遥かかな’’たに’’行っても、育っ’’た街’’を忘るるな。
地元に帰ると懐かしい匂いがするようになった。
人が生まれた街の匂いを懐かしく思うのは、赤ちゃんとして生まれたときに、肺いっぱいに空気を吸うので、そのいっぱい吸った空気だから懐かしく感じるとどこかで読んだ。
東京で生まれ東京で暮らしている人が、俺の地元に来たら、どんな匂いを感じるだろう。
■12時42分:浜松町駅
【浜松町駅】
果報’’は’’寝て’’待つ’’? ちがう。 ’’超’’頑張れ!
浜松町といえば「東京タワー」。20歳そこらで酒を覚えたての頃、東京タワーの真下で開催された「ハイボールフェス」なるものに行った。調子に乗っていた俺は、女子の前で酒が強いところを見せたかったこともあり、あらゆる種類のハイボールを胃に流し込んだ。
2時間後、東京タワーにある4本の足の内の1本に、俺は盛大に吐いていた。
東京タワーに登ったことのある人はいても、吐いたことのある人間はそうそういないだろう。
■15時04分:新橋駅
【新橋駅】
ガ’’シン・バシ’’ン。人の心をつかむ音
サラリーマン3年目のとき、かなり太っている上司の元で仕事をしていたことがある。上司はかなりのグルメで、ランチとなると、話題の店に行くために2時間帰ってこないこともあった。よく上司に、お客周りのついでに新橋のとある中華屋でご馳走してもらった。
だから俺は太った人は嫌いじゃない。
■15時14分:有楽町駅
【有楽町駅】
人生は自’’由’’に’’落’’書き出来る’’帳’’簿
サラリーマン時代の5年間は、かなり「世間」を気にして生きていたと思う。誰かが言った「こうあるべき」をミス無く遂行することに美学を感じていた。
ところで、俺の気にしていた「世間」ってなんだったんだっけ。
■15時40分:神田駅
【神田駅】
まだ未’’完だ’’が、やり抜く自信がある。
「未完の大器」とか、「無冠の帝王」という言葉がある。
この言葉を使われた人が、結局報われたところを見たことがない。
■15時55分:秋葉原駅
【秋葉原駅】
夢’’はバラ’’すな。’’あき’’らめるな。
「バラす」という言葉を知っているだろうか。あることを「キャンセルする」とか、「無くす」というような意味だ。
この言葉を使ったあと、「あれ、今、俺すごい大人っぽい!」と思う。
■16時06分:御徒町駅
【御徒町駅】
’’おか’’しい、’’血迷’’っている。人から言われたら、成功の前兆。
御徒町凧(おかちまちかいと)という詩人がいる。とても素敵な名前だと思う。なんというか声に出したときの語呂が良いし、漢字の並びもかっこいい。凧を、「かいと」と読ませるところもおしゃれだ。
あと、吉田戦車もかっこいい。
■17時50分:上野駅
【上野駅】
’’上’’に’’No’’と言われても、やり抜け。
上野駅でかなり遅めの昼食を食べた。もはや夕食だ。味噌ラーメンの花田というお店で食べたのだが、これがかなりうまい。
残り半分も頑張れそうだ。
■17時59分:鶯谷駅
【鶯谷駅】
’’ウ’’ダウダ・’’グ’’ズグズするな。成功の’’イス’’は限られている。
’’他人’’を置き去りにしろ。
鶯谷の駅前は、山手線の駅の割には手狭な気がした。
駅から少し離れた曲がり角に、タクシーが待機している列があった。その列の前方には駅前ロータリーの様子が分かるモニターが設置されていて、ロータリーでタクシーが人を乗せれば、ロケット鉛筆方式で曲がり角からタクシーが補充される仕組みらしい。
鶯谷からタクシーに乗る人の行き先が気になった。
■18時12分:日暮里駅
【日暮里駅】
’’日’’が’’暮’’れるまで、日が暮れても。
日暮里は大学生のときに、毎日通過していた駅だ。よく途中下車をし、南口改札を出てすぐにある喫煙所でタバコを吸っていた。そこは地上2階程度の高さにあるため、俺は勝手に「空中庭園」と呼んで気に入っていた。
久々に空中庭園の前を通ると、昨今のウイルスの影響で、空中庭園が封鎖されていた。もう空中から煙は上がらなくなった。
■18時21分:西日暮里駅
【西日暮里駅】
’’二死’’満塁。’’秘宝’’を求めるなら、一発打てるよな?
西日暮里から日暮里に向かう途中に開かずの踏切がある。京成線と常磐線が交差しているのでなかなか開かないのだが、お気に入りのクラフトビール屋へ行くにはここを通るしかない。
左の方に目をやる。
「エーゲ海」というラブホテルの白い壁が赤く点滅している。
■18時36分:田端駅
【田端駅】
バ’’タバタ’’しても、時間がたつだけだぜ? 腹決めろ。
迷う時間が多い人生だったと思う。ああなったらどうしよう。こうなったら嫌だな。
迷っていた時間は、結果にプラスをもたらしていたのかな。
■18時49分:駒込駅
【駒込駅】
’’ごめ’’ん。’’細’’かいこと良いからやってくれる?
駒込には「六義園」という庭園がある。
会社の後輩で駒込出身の女子がいた。俺は、何の気なしに「駒込っていったら’’ろくぎえん’’(六義園)だよね」と言った。
「あれ、’’りくぎえん’’って読むんですよ」と後輩は言った。
そこから少しだけ後輩と気まずくなった。
■18時58分:巣鴨駅
【巣鴨駅】
ダメ’’かも’’・・・って思ってからが、’’素’’のお前。そこから何をやる?
何にも影響されない’’素’’の状態があったとして、俺がやりたいことってなんだろう。
毎日仕事終わりに、狂ったようにスケボーをやっている先輩がいた。何か大会に出る訳でもなく、ただ単純に自分のスキルを高められればそれで良いらしい。
「仕事に100%打ち込んで満足してるだけじゃダメなんだよ。あしたから仕事が無くなったとして何がしたいか。早くお前もそういうもん見つけた方がいいよ。」
適当な先輩と思っていたが、その言葉だけ引っかかった。
■19時07分:大塚駅
【大塚駅】
’’大’’きなモノを、’’掴’’みとれ。
大塚駅前には都電荒川線が通っている。ちんちん電車とも言う。この都電荒川線の駅名に男心をくすぐるものがいくつかあるので紹介する。
面影橋、鬼子母神前、庚申塚、飛鳥山、熊野前。
分かりませんか。
■19時40分:池袋駅
【池袋駅】
幸’’福’’はすぐ逃げる。だから今’’行け’’。
池袋には、サラリーマン1・2年目のときに住んでいた。2000年代前後はチーマー、カラーギャングが多くたむろして、かなり物騒な町だったらしい。今でも、西口・北口エリアは危険な香りがする。
駅の東西を行き来する大きな陸橋の横には、豊島清掃工場の大きな煙突がある。俺はこれを「白い巨塔」と呼んでいた。
■19時53分:目白駅
【目白駅】
本気で頑張り過ぎ。もう、’’メシ’’食って寝’’ろ’’。
目白にあったパタゴニアのストアは、かつてアウトレットを取り扱うストアだった。何か良いものがないかと行くのだが、買った試しがない。
■20時57分:高田馬場駅
【高田馬場駅】
’’たかだ’’か80年。’’馬鹿’’の方がおもしろい。
駅前には早稲田の学生がたくさんいた。
通り過ぎようとすると、「東京富士大学」の看板が目に止まった。
駅前にいた学生は「おそらく」早稲田の学生だろう。
■21時13分:新大久保駅
【新大久保駅】
’’僕’’は’’信’’じる ’’大’’きな夢を。
新大久保と言えばコリアンタウンだが、昔、韓国人の友達がいた。
「金」という苗字だった。「きむ」か「きん」かどちらの読みかを聞いた。
どっちでもいいと言われた。
■21時26分:新宿駅
【新宿駅】
’’信じ’’る道を、ただただ、’’ゆく’’。
同僚が「歌舞伎町」のことを「歌舞伎(カブキ)」と言っていた。「町」を省略することによって、「東京を知っている感」を演出しているのだろうなと思った。
一方俺は、池袋のことを「袋(ブクロ)」と言っていた。
■21時39分:代々木駅
【代々木駅】
yo!yo!?気分あげてけ?
始めてスナックに行ったのが代々木だった。誰の目にも冴えない見た目をしている先輩と二人で行ったその店は、中国系の女性が在籍しているスナックだった。
先輩が曲を歌い終わると、採点が始まった。71点だった。ママが「今日のお客さんは採点いらないヨ」と、俺らのテーブルについている若い女の子に言った。
今日は、深酒になりそうだなと思った。
■21時57分:原宿駅
【原宿駅】
’’腹’’に落ちるまで、’’粛’’々とやれ
久しぶりに原宿に行くと、駅前のビルにIKEAがオープンしていた。東京都民はIKEAに行くために都外に出るのに。
いよいよ都民は東京から出る必要がなくなった。
■東京駅
【東京駅】
病んだまち 楽しかったまち 夢がやぶれたまち
また来るまち
よし。また、あしたも頑張れそう。
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