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薊詩乃/Azami Shino
2023年5月30日 22:50
月のない夜を選んで逃げてきたわけではない。少年が家を飛び出したとき、月齢になんか気を配ってやしなかった。彼は、御守りやら風水やらを全く信じるたちではなかったし、縁起を担ぐこともしなかった。新月の夜に決行したのは、まったくの偶然であった。ただそうせざるを得なかったから、ほんの少し勇気を出して、靴を履いて、サムターンのツマミを回しただけなのだ。人生や運命というものは、偶然性で形作られた砂