『父親のかけら』
人には言えぬ苦労の末、
私はついに有名女優へとのぼりつめた。
――それが届いたのは、
ブログで婚約発表した翌日だった。
蒸発していた父の訃報だった。
3年前、リストラされた父は
私たち家族にその事実を打ち明けられないまま、
姿を消した。
警察の話では、
季節労働者としてあちこちを転々とし、
暮らしていたらしい。
その日――ネットカフェにいた父は、
突然血相をかえ、どこかへ飛び出したという。
そして、大きな荷物を抱えて
戻ってくるところをトラックに跳ねられた。
運転手の過失ではなく、赤信号に気づかず、
道路を横断した父のせいだ。
死亡時、その父が抱えていた荷物が
遺品として家に届いた。
結婚式で着るスーツだった。
水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。