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"DIVIN" Vol.14

『DIVIN』(ダイヴィン)は、国内外の様々な記事や読んだ本、面白いinstagramアカウントなど、生活している中で得た「誰かに教えたい情報」をお伝えするニュースレターです。


冷たいフランドチキンを求めて


パレスチナ自治区に住むモハメドは、仕事で長い一日を過ごした後、パレスチナ・ガザの自宅で夕飯を注文した。

彼が選んだのは、ケンタッキーフライドチキン(KFC)のフライドチキン。

32歳のモハメドは彼の電話を取り出し、KFCからチキンサンドイッチとライスをInstagram経由で注文した。

彼がその夕食を得たのはなんと2日後。モハメドは40分歩いてあるお店に行き、フランドチキンたちをピックアップした。

当たり前に食べ物は冷たく、食事が入っているコンテナは開封され、注文したはずのコーラもなくなっていた。

2日間という時間と、商品と配達料金に25USドルを費やしたのにも関わらず、彼の顔は嬉しそうだ。

配達はガザ地区から50マイル離れた西岸地区の、パレスチナの首都ラマッラーから行われた。

ラマッラーには自分も2011年の秋に訪れたことがある。人々がとても親切で、身振り手振りでコミュニケーションを取ってくれ、楽しく過ごしたことを覚えている。パレスチナは好きな国の1つだ。

以前はフライドチキンなどの”物資”は、エジプトとガザの国境の下のトンネルを通り抜けて密輸されていたが、今は殆どその全てが破壊され使うことはできない。

イスラエル政府は、パレスチナ人が食べ物や飲み物をイスラエルに持ち込むことを制限しているが、「持ち帰る」ことは許可している。

この抜け穴を狙い、ある起業家が始めたサービスがこのKFCのデリバリーだ。

ガザ地区出身のパレスチナ人労働者の就労が増えたこともあいまって、サービス開始から2ヶ月で500人の顧客を獲得した。

※現在は新型コロナウイルスの発生により、サービスを停止している。

同社は”チーターエクスプレス”と呼ばれているが、注文からデリバリーまでのサービス時間は世界で最も遅い可能性がある。

その理由は土地的、そして政治的理由。イスラエル、パレスチナ自治政府、そして最後にハマスの監督下にある検問所を通過する必要がある。

彼らのデリバリーチームはUber eatsの配達員のような人々ではない。主に建設業で働くパレスチナ人労働者だ。

注文した商品ががガザ地区に到着したら、注文者は顧客はお店で受け取るか、さらに追加で約$ 20を支払い、自宅へのデリバリーを選択できる。

時間も費用も掛かるこのサービスだが、モハメドにとって価値はあると言う。

100キロ近くを移動し、いくつもの検問所を通過したこの食事は特別な気分になると言う。

彼らは地球上で最も孤立した場所の1つでもあるこの場所で、アメリカのファーストフードを楽しむことを求めている。

先述したように、ガザ地区へKFCをデリバリーすることは長いプロセスが必要だ。

労働時間の終わりに、配達員であるパレスチナ人労働者はKFCを購入するためにラマッラーに向かう。そのために、カランディヤ検問所を通ってイスラエルからヨルダン川西岸に渡る。

首都ラマッラーでKFCを購入した後、彼らはミニバスまたは共有タクシーでエレズチェックポイントに向かう。

エレズでイスラエル側を出た後、パレスチナ自治政府が運営する3番目のチェックポイントへ。そこから、黄色いタクシーでハマスが運営する4番目のチェックポイントに向かう。

検問所の治安部隊はKFCのコンテナを手作業でチェック。

この最終チェックポイントを通過するとガザ市内の店へタクシーで向かい、デリバリーが完了となる。

このデリバリーを注文した顧客はKFCを待ちわびながら配達員にしばしDMを送る。

「注文した商品は温かいままですか?」と。その商品は当たり前に、新鮮ではなく冷たくなっている。

しかし、モハメドのように分断された世界に住む彼らにとって、アメリカのファーストフード店の有名メニューを、その場所に居ながら得ることは何よりの価値となる。

日本に住んでいれば、特に東京にいれば、スマホで注文すればどこへでも、そしてどんな商品でも得ることができる。

人間は「食」の価値を、ただの空腹を満たすものではなく、その大部分の意味はストレスを減らすもの、つまり幸せになるために食べていると言われている。

この”世界で最も提供スピードが遅いデリバリー”は、今日も誰かを幸せにしている。


Microsoftの店舗戦略とAppleとの違い


長年のテック界の巨人として君臨するMicrosoftも新型コロナウイルスの影響を大きく受けることとなった。

約1ヶ月前の6月26日。2009年にオープンし現在は全世界で展開する店舗のうち、83店を閉めると発表。

2009年に彼らが直営店をオープンしたのは、ライバルであるApple Storeへの対抗措置であった。

閉鎖に掛かる費用は約482億円にのぼると言われている。

全ての店舗を閉鎖するわけではなく、4つの旗艦店は残す方針だ。その4つとは、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、そして本社があるワシントン州レッドモンドの4つ。

この4つ店舗は「エクスペリエンスセンター」として維持していく予定だ。

コロナウイルスの影響で、全ての直営店は休業となっているとともこの判断を早めた一因ではあるものの、同社が抱えるブランディング問題を改めて浮き彫りにしたのも事実だ。

Appleの直営店であるApple Storeは、実は店舗の単位面積当たりの売り上げが世界中の全ブランドの中でナンバー1である。

グッチやプラダ、ルイヴィトンなどの高級ブランドを抑え、それどころか2位のティファニーの倍以上の売り上げを誇る。

一方で、Microsoftは元々小売販売が弱い。それが彼らの弱みでもあり、この直営店たちがそのビジネスモデルを変える道として進められた。

Microsoftは小売ではなく卸売を生業としている。彼らの顧客はエンドコンシューマーではなく、toBだ。

売上の多くは Officeなどのソフトウェア(システム)であり、エンドコンシューマーはこのサービスを特に選ぶつもりもなく、”既にマシンに入っているインフラ”として触れ合っている。

Microsoftの直営店はミニマリスト的なインテリアデザインとゲーミングラウンジで興味を引き寄せた。

同社が直営店で目指したのは、商品を自由に試してもらうハブとしての機能であった。

1990年代から2000年代にかけて、Windows Phoneに代表されるように同社は数々の目新しい機器に大量の資金を投じた。しかし依然として、ソフトウェア製品の売上が収益の大半を占めている状態だ。

事業の中核は昔もいまも企業向けのアプリケーションソフトウェア。Ofiiceを筆頭に、最近のリモートワークで利用者数が急激に増えているTeamsなどが代表だ。LinkedInの買収もその戦略の1つと言える。

タブレット型端末Surfaceやxboxのようにハードウェアの成功事例も幾つかはあるものの、Appleの成功には全く及ばす、直営店の結果としてはDellやIntelのような企業たちと同じ道を辿ることになった。

今後も残す4店舗を「リイマジンド(reimagined:再想像)」を具現化する場として残すとしている。

世界中のどのApple Storeを訪れても感じるもの。

置かれている商品や内装、商品説明のグラフィック、そして接客の全てから彼らの思想・世界観を感じることができ、この体験がさらに顧客をファンにさせる。

Apple Storeに似た体験を得られるお店はAesopなどだろう。AesopはAppleとは異なり、店舗ごとに内装・外観が異なっているが根底に強く流れるビジョンを感じることができる。

訪れる度にワクワクがあり、楽しみがある。

このような時代だからこそ、飲食店も含め、リアルな場所・店舗に求められる価値はさらに重要となり、限られた店舗のみが残っていくだろう。


オーガニックよりも安全なWilloという選択


カリフォルニア・サンホゼにHQを構えるWillo。彼らが提供するのは野菜のサブスクリプションサービス。

その内容と”栽培方法”はとてもユニーク。

工場内で、機械により完全にコントールされ、垂直型に栽培された野菜たちは従来に比べ、99%の土地と水分を節約する。


近未来のようなこの風景。少し前に話題となり、いくつかのスタートアップが始めているVertical(垂直)型の栽培方法だ。

Samural BertramとJohn Bertramという兄弟が立ち上げたこのサービス。

顧客は最初に150ドルを支払い、好きな野菜を選び自分の”畑”を得る。野菜たちが育つと自分の畑から定期的に自宅に届くシステムだ。

面白いのは、”自分の畑を買う”という点。

自分の農場を建設し作物を選び、そして最も安全で美味しく、最も栄養価の高い農産物を栽培することができると謳う。

100%制御されたインドア環境で野菜たちは育つ。その環境下ではオーガニックよりも安全で栄養価の高い製品を作ることができるとしている。


すでに初回分は即完売し、いまは2021年夏以降に届く分を受付中。

この兄弟はオーストラリア・メルボルンの出身。2人とも大学生の時にテニス選手の奨学金を得てアメリカにやってきた。

2015年にビーガンになってから食に関する様々な問題について考えるようになったという。

貧困による飢餓の問題、正しい食生活を取らないことによる肥満などの問題、サスティナブルでない農業による環境問題などだ。

彼らは次第に世界中にインパクトを与えるのは、「農業による革命」が一番であると考えるようになった。

農業テックの会社を立ち上げ、様々な事業に取り組んだ後に今年頭に設立されたのがこのWillo。このサービスは、人々と農場をダイレクトに繋ぐことを可能にする。

農業や生産物のサービスはいくつもあるが、「自分の畑」を購入し、より深く生産に関わることで新しい関係性を構築することができる。

今日食べる食べ物がどのように育てられ、誰が作るのか、どのような環境で育ったのかを100%知ることができる。

昔は当たり前であった食と人との関係性を作り、食に関係する病気を世界から無くすことをミッションとしている。

土地や水の利用を極限まで少なくした環境にも優しいこのモデル。

彼らはこの農場が世界中に作られることで、彼らのミッションを達成できると話す。


今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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edited by Ayumu Kurashima

IG : @micronheads

twitter: @micronheads_new

illustration : @mihirayuta


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