ユグチスト的【2023年ベスト湯口8選】
2023年が過ぎ去り早1か月。昨年は、新型コロナウイルスの感染状況も落ち着き、温泉地もコロナ前の賑わいが戻ってきましたね。ようやく、気兼ねなく温泉へ行けるようになり、嬉しい限りです。
前置きはさておき、2023年を振り返ってみると、150か所の温泉をめぐることができました。東は青森県から西は岐阜県までと、かなり東日本に片寄った湯めぐりでしたが、狭く深く、その地域の温泉を味わえたな、と思います。もちろん、多くの素敵な湯口さんとの出会いもありました。たくさんあり過ぎて、正直絞り切れない思いですが、今回は8湯口さんに厳選してご紹介したいと思います。
そもそも「湯口」ってなに?
湯口好きな皆さんが読んでくれている前提で書き始めましたが、よく考えたらそんなこともないと思いますので、まずは「湯口」についてご説明します。一言でいうと、「湯口」とは、温泉の浴槽でお湯が出ているポイントのことです。
私は大学時代に交通事故の後遺症を癒すため、温泉療法「湯治」を体験したことから温泉が大好きになりました。温泉の持っている力で、ケガの後遺症を改善したのですが、そのような温泉の良い作用を突き詰めると、大切なのは「温泉の鮮度」でした。そこから「鮮度の良い」温泉を求めるようになり、行きついたのが、「湯口」だったのです。温泉は、地中から地表に湧き出た瞬間から酸化(エイジング)が始まります。温泉の湯船で考えると、一番お湯が空気に触れていないところが湯口。「湯口」は湯船の中で、最高のフレッシュさをもった温泉を味わえるのです。と、そんなわけで、私は「湯口」が好きになりました。
「湯口の魅力」とは?
ライオンやクマ、シカなどの動物の形をしていたり、ドバドバで気持ちのいい湯量を感じられたり、温泉の析出物が付着しモコモコになっていたり、などなど。湯口の魅力は数知れませんが、集約すると、「温泉の鮮度が良い」こと、「絶景でありアート」の2点であると思います。
詳しくは、以前「湯口の魅力」についての記事を書いておりますので、よろしければご覧ください。
魅力的な湯口4分類
2023年のベスト湯口を紹介する前に、ユグチストが考える魅力的な湯口4分類のお話をします。さまざまな個性が爆発している湯口業界の中で、大まかにその魅力の傾向を4つにカテゴライズしてみました。
〇析出物アート
温泉成分の析出物が織りなすアートな湯口たち
〇オブジェ、デザイン
湯口そのもののデザイン性が高いもの
〇湯量ドバドバ
圧倒的な湯量が爽快で気持ち良い
〇ミックス型
析出物、オブジェ、湯量の2つ以上がミックスされた湯口
いかがでしょうか。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。いよいよ本題です。
2023年にお会いした湯口さんの中から、魅力的な湯口4分類の各カテゴリから2つずつ、計8湯口さんをご紹介します。
2023年ベスト湯口8選
〇析出物アート
【国宝級モコモコモフモフ積雪湯口】会津東山温泉 向瀧(福島県)
会津東山温泉の歴史ある老舗旅館。建物は国の登録有形文化財で、格式高さを充分に感じられるお宿です。浴室は、男女別のきつね湯、おさる湯のほか、貸切風呂が3か所あり、離れのお部屋に宿泊すれば専用のお風呂もあります。どの湯船も加水・加温・循環・消毒のない「完全かけ流し」。オーガニックな温泉にこだわった「純温泉」にも認定されている極上のお湯です。
そんな最高の温泉を供給する湯口さんは、どのお風呂も花形の存在感。向瀧で一番人気の「きつね湯」には、2段の賽銭箱のような重厚な湯口さんが腰を据えています。その大きな体は、純白でモコモコモフモフな析出物でびっしりコーティング。積もりたてのフワフワな雪のような美しい絶景ですね。生クリームにもシロクマの毛皮にも見えて愛おしい。国として守っていってほしい、日本の宝だと思います。
【会津東山温泉 向瀧】
・住所:福島県会津若松市東山町大字湯本字川向200番地
・電話:0242-27-7501
・泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)
・源泉温度:56.6℃
・pH:7.7
・湧出量:24.0ℓ/分(自然湧出)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
【神秘的特大ヤングコーン析出湯口】小谷温泉 山田旅館(長野県)
こちらも登録有形文化財のお宿。木造3階建ての本館は、この旅館でもっとも古い江戸時代の建築なのだそうです。それ以外にも、明治、大正時代の建物がそのまま残り、そこに宿泊することができます。
内湯の「元湯の湯殿」も歴史が古く、100年以上前の大正時代につくられた浴室。ヨーロピアンなタイルや打たせ湯など、大正ロマンを感じられるレトロな雰囲気です。
湯口さんは、湯船から2メートルほどの高さにいらっしゃる塩ビ管で、打たせ湯機能も兼ねています。そこには、鍾乳洞のようなコテコテな析出物が盛り上がり、神々しい光景。特大ヤングコーンみたいな風情が圧巻です。湯船につかりながら、この湯口さんを見上げれば、純粋で神聖な気持ちになり、湯の有難さと尊さが身に沁みるようでした。
【小谷温泉 山田旅館】
・住所:長野県北安曇郡小谷村中土18836
・電話:0261-85-1221
・泉質:ナトリウム-炭酸水素塩泉(低張性 中性 高温泉)
・源泉温度:44.5℃など
・pH:6.8など
・湧出量:106ℓ/分(自然湧出)など
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
〇オブジェ、デザイン
【ほほ笑み分福茶釜湯口】伊東温泉 ケイズハウス伊東温泉(静岡県)
築100年以上の歴史的な建物を活用したホステルのケイズハウス伊東温泉。なんと、こちらも国の登録有形文化財。純和風建築で、外国人の方々にも大変人気なのだそうです。
男女別内湯のみの浴室は、伊東温泉の源泉を、完全かけ流しで楽しめる素晴らしい湯づかい。その源泉供給を担当する湯口さんは、ほほ笑みを浮かべる「分福茶釜」のタヌキさん。茶釜になれて嬉しいのかな? この笑顔を見ていると、こちらもなんだかほっこりしますね。キラキラのおヒゲ析出も素敵。ハッピーのお裾分けをありがとうございます。
【伊東温泉 ケイズハウス伊東温泉】
・住所:静岡県伊東市東松原町12-13
・電話:0557-35-9444
・泉質:カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)
・源泉温度:51.2℃
・pH:7.8
・湧出量:161ℓ/分(動力)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
【巨大ニジマスオブジェ湯口】丸沼温泉 環湖荘(群馬県)
日光国立公園内にある「丸沼」のすぐ横にたたずむ「丸沼温泉 環湖荘」。日本の観光地百選湖沼の部で1位を獲得したこともある、丸沼の美しい景色が魅力です。毎年11月~4月は冬期休業のため、今すぐ訪れることはできませんが、こちらには丸沼に勝るとも劣らない、素晴らしい絶景の湯口さんがいらっしゃいます。
男女別大浴場の「ニジマス」風呂。湯船のど真ん中で、直径2メートルほどの巨大なニジマスオブジェ湯口さんが、静かに源泉を注いでくれています。まさに名前の通りのシンボル的湯口はスターのオーラ。ぽっちゃりフォルム、ツヤツヤなお肌、まん丸なお目目、ぱっくり開いた大きな口、よだれのように流れる白い析出が可愛らしい美マスさんですね。
【丸沼温泉 環湖荘】
・住所:群馬県利根郡片品村東小川4658-7
・電話:0278-58-2002
・泉質:単純温泉(低張性 中性 高温泉)
・源泉温度:47.0℃
・pH:7.2
・湧出量:?ℓ/分(?)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
〇湯量ドバドバ
【スクエア石組み湯口】北浮田温泉 海のしずく(青森県)
青森県の日本海側に位置する鯵ヶ沢町。「北浮田温泉 海のしずく」は、町を横断する国道101号沿いの田園風景の中にたたずむ日帰り温泉施設です。施設は新しく、男女別の大浴場のほか、貸切風呂が3か所あります。
お湯は、ウーロン茶色のモール泉で、芳ばしいアブラとヒノキのような木材の香りが最高のアロマテラピー。ちょうど良い塩加減のウマ塩ダシ味にモールのコクが加わり、カツオ出汁たっぷりのお吸い物のような美味しさでした。
大浴場の湯口さんは、スクエア型の石組みスタイル。じっくり源泉が染み込み滲み、パリッとした析出物に覆われ、味わい深い色合いになられ、ベテランにしか出せない色気が漂っています。トトトトトトトトト、とマシンガンのようにリズミカルに源泉を放出していて、聴き心地抜群の、サウンドで楽しめる癒し系ですね。
2023年末から休業中で、2024年の春に再開予定とのこと。湯口さんは、そのままの姿で復活されることを祈っております。
【北浮田温泉 海のしずく】
・住所:青森県西津軽郡鯵ヶ沢町大字北浮田町字平野206番地23
・電話:0173-72-7222
・泉質:ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)
・源泉温度:47.6℃
・pH:8.4
・湧出量:140ℓ/分(動力)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
【源泉噴き上げ湯口】姫川温泉 ホテル国富 翠泉閣(新潟県)
山あいにそびえ立つ、巨大なリゾートホテル型の温泉宿の「姫川温泉 ホテル国富 翠泉閣」。おもてなしも設備も整った安心感のあるお宿です。男女別の大浴場は、内湯と露天風呂を完備。広々とした内湯は、高い天井に大きな窓の開放的な空間。そこにある浴槽は、20人くらいは入れそうな巨大なものですが、加水のみのかけ流しで、源泉がドバドバ投入されています。
そんな源泉共有担当の湯口さんは、大きな壺タイプ。楕円形の湯船の真ん中に立ち、噴水のようにジャバジャバと源泉を噴き上げてくれている爽快な景色です。圧倒的な湯量のおかげで、湯口さん全面が、赤茶褐色の析出物でオールコーティング。この壺の中で源泉に溺れたい、、、
【姫川温泉 ホテル国富 翠泉閣】
・住所:新潟県糸魚川市大所885-1
・電話:0255-57-2000
・泉質:ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(低張性 中性 高温泉)
・源泉温度:53.2℃
・pH:6.6
・湧出量:1,500ℓ/分(?)
・加水:あり
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:かけ流し
〇ミックス型
【ほわほわ析出アイランド湯口】湯宿温泉 湯本館(群馬県)
風情あるレトロな石畳の道沿いに広がる湯宿温泉。漫画家のつげ義春さんが、ご自身の作品の舞台にしたこともあり、「ひなびた温泉の聖地」ともいわれています。その温泉街の奥にたたずむのが湯本館。昭和の風情ただよう、素朴なお宿といった感じです。
お風呂は、大浴場、婦人風呂、貸切風呂があります。メインの大浴場は今でも混浴スタイル。10人は入れそうな大きい円形の湯船が印象的な浴室です。
湯口さんは、ヨーロッパの山脈を想わせるワイルドな岩。そのふもとには、熱々の源泉地帯があり、海に浮かぶ列島のように小岩が敷き詰められています。島々のように連なる小岩たちは、純白の析出物に覆われた絶景空間。ほわほわでモフモフでフサフサな析出アイランドの景色を楽しむことができます。
【湯宿温泉 湯本館】
・住所:群馬県利根郡みなかみ町湯宿温泉甲2381
・電話:0278-64-0011
・泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)
・源泉温度:62.7℃
・pH:8.3
・湧出量:?ℓ/分(自然湧出)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
【蛇口と壺と岩と析出の3段コラボ湯口】飯坂温泉 橋本館(福島県)
福島市の奥座敷・飯坂温泉。川沿いにたたずむ橋本館は、温泉街の玄関口である飯坂温泉駅から、徒歩1分のところに位置する老舗宿です。男女別の大浴場は内湯のみ。石とタイル張りのレトロな雰囲気で、窓からは目の前を流れる摺上川が見えます。飯坂温泉の熱い源泉をそのままかけ流していて、単純温泉ではありますが、香りや感触などで湯の個性をしっかり感じられます。
湯口さんは蛇口→壺→岩の3連コラボ。60℃近い源泉を適温にして浴槽へ供給するため、3段階で効果的に冷却するテクニカルなシステムになっています。トップの蛇口はチクチクの析出物に覆われたプードル型。それを受ける壷は、オリエンタルでエキゾチックなアートオブジェ。湯船への架け橋となるワイルドな岩もサワサワな析出物でコーティングされ、それぞれ単体で主役を張れる湯口さんの夢のコラボです。
【飯坂温泉 橋本館】
・住所:福島県福島市飯坂町湯野字湯ノ上25
・電話:024-542-4151
・泉質:単純温泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)
・源泉温度:59.1℃
・pH:8.3
・湧出量:?ℓ/分(混合泉)
・加水:なし
・加温:なし
・消毒:なし
・利用状況:完全かけ流し
湯口鑑賞はアグレッシブなマインドフルネス
以上、2023年度ユグチスト的【ベスト湯口8選】でした。素敵な湯口さんがたくさんあり、8つに絞るのは一苦労でした。
露天風呂の景色、設備、食事、旅館の雰囲気なども、温泉を選ぶ基準には大切な要素ですが、これからは「湯口の魅力」も温泉選びのポイントにしてみてはいかがでしょうか。五感をフル活用して湯口さんに向き合う湯浴みは、アグレッシブなマインドフルネスになり、温泉効果も相まって、いつも以上にディープに癒されることでしょう。
<お仕事依頼先・お問い合わせ先>
ijirsnfde@gmail.com
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