何かあったら教⑦
テントに寝袋、チェア、キッチン用具、クッション、薬箱、冬布団、図鑑、パソコン、辞書、銀行の振込カード、印鑑…
何かあった時のことを考えているうちに、車のなかは息子と私が座るスペース以外すべて荷物で埋め尽くされた。
本音を言えば、家丸ごと持って行きたいくらいだったが、テトリスのように車に荷物を隙間なく詰め込む私を夫が呆れ顔で見ていたので、夫の視線に気付かないふりをしながら、パンパンに積めるだけ積んで、なんとかかんとか時間通りに出発したのだった。
サービスエリアで、こまめな休憩を挟みながら法定速度で車を進める。何台もの車が私を追い抜かしていった。その度に、あんなに飛ばして何かあったらどうするんだろう、と心の中で憤った。何十回目かの息子の「あと何分?」をやり過ごす頃、ようやくキャンプ場に到着した。
何度か会ったことがあるニコちゃんママは、私に気がつくと笑顔で大きく手を振ってくれた。
「おつかれさまー! 道路、思ってたより空いてたね。あのね、このキャンプ場の近くにすっごく綺麗な川が流れてるんだけど後で一緒に行こうよ! で、夜はカレーを作って、キャンプファイアーをしようかなと思ってるんだけど、どうかな?」
川、カレー、キャンプファイアー。
水、包丁、火。
どれも危険が伴う。またも体にひんやりとした不安が走りそうになったが、ジャイコさんの左右に揺れる長い髪のことを思うとそれも止んだ。
「うんうん、いいねいいね! 全部やろー!」
笑顔で返事すると、ニコちゃんママも大きな笑顔で応えてくれた。
(つづく)