『DOG MAN』トリマー的疑問点と考察。
「レオン」(1994)のリュック・ベッソン監督が、実際の事件に着想を得て監督・脚本を務めたバイオレンスアクション映画「DOGMAN ドッグマン」。
社会に絶望した破滅的な主人公のダークな世界観が見どころなのはもちろんですが、あふれる"犬愛"こそが今作の魅力です。トリマー兼映画ライターの筆者がその内容を解説していきます。
闘犬ビジネスで生計を立てていた横暴な父によって犬小屋で育ったダグラス。彼に愛情を与えてくれたのは犬だけ。ダグラスはしだいに犯罪に手を染め、ギャングに目をつけられてしまいます。犬に愛され、犬を愛した孤独な男の生きざまを鮮烈に描いた映画です。
可愛いけど怖い犬たち
今作は、犬が人間に襲い掛かるシーンが度々登場します。しかし、牙をむいて威嚇したり、肉を噛みついて引き裂くなど直接的なショットはありません。
獰猛な犬という印象を与えるには、血を浴びた顔面や鼻にシワを寄せてうなる姿を映せば簡単です。過去の作品では、そういった演出はよく見られました。本作がそうしないのは、現代の動物愛護の観点やキャストの犬たちへの配慮があるからでしょう。
そういった演出なしでも、暗闇の中からゆったりと現れる大きな犬の群れや、筋肉質な体で敵に飛びつく様子は迫力があります。
また、ダグラスが犬を使って人殺しを楽しんでいるのではないのが暗に伝わる演出でもあります。
なによりこの映画が"犬愛"を軸にしていることが、犬たちをあくまで愛らしく映していることからも伝わります。
まるでモップのような被毛の犬のコモンドールが、保険会社の男を見て舌なめずりするシーンは、恐ろしいというよりも無邪気で可愛らしい……。
犬と一緒にケーキ作りできる?
本作には約10種以上の犬たちが登場します。撮影にはドッグトレーナー15人が参加し、ダグラスを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは3日間犬とトレーナーと一緒に過ごしたのだとか。
犬たちに小麦粉などの材料を持ってくるように命じてケーキ作りをするシーンがありますが、あれは実現可能だと思います。
犬の平均的な頭脳は、2歳児と同じくらいだといわれており、研究の結果約165の単語を覚えることができます。訓練された知能の高い犬は1000語以上の言葉を覚えたという記録もあるからです。
犬たちの子綺麗さが気になる
本作に登場する犬種の一部を紹介します。少年ダグラスを救うためにパトカーを呼んだボーダー・テリアのモビー。最近だと「スラムドッグス」(2023)でも登場していた犬種です。
ダグラスの兄を迎えに行ったベルジアン・シェパードドッグ・マリノアのポリー。毛足の長いジャーマン・シェパードドッグと比べて毛が短いのが特徴です。「ジョン・ウィック
パラベラム」(2019)や「ジョン・ウィック コンセクエンス」(2023)で活躍したのがこの犬種です。
電話を運ぶ重要ミッションをこなしたジャック・ラッセル・テリアのミッキー。「マスク」(1994)や「アーティスト」(2012)など、映画作品ではお馴染みの犬種。
中でもドアマンとして登場するドーベルマンの高貴な姿にはひときわ目を奪われます。この犬種は「バイオハザード」(2002)での凶悪な姿がトラウマの人も多いはず。
ただ、映画で登場するドーベルマンのほとんどが断耳されているのは残念。(生後間もなく行うので映画のためではないはずですが)最近ではヨーロッパ諸国では断耳しないのが主流になってきています。
本作の犬たちを見ていて気になったのは、毛並みがものすごく綺麗に整えられていたことです。現実的に考えると、この犬たち全員をダグラスがどうやって手入れしているのか疑問です。
打ちっぱなしコンクリートの廃墟のような場所で暮らし、廊下には瓦礫や土埃が溜まっていました。犬の体にはすす汚れがついていたり、目ヤニが出ていたり、毛もつれができていてもおかしくありません。
毎日どの犬かのシャンプーやブラッシングなど行っていれば、綺麗に保てるかもしれません。車いすで、その日暮らしのダグラスに可能なのか…?
とはいえ、これだけの種類の犬たちの勇姿と可愛い姿を見ることができるなら、多少の現実味のなさはご愛敬…。
孤独なダグラスの生きざま
ダグラスは、絶対的な信頼関係を結んだ犬たちと協力して、富豪の家から窃盗をくり返します。そんななか、週に1度のショーステージで、偽りの自分になれるささやかな喜びを抱えて生きていたのです。
自分で手に入れられるだけの幸せをどうにか守ろうとするダグラスの生きざまには、悲しくも惹きつけられるものがありました。
刑事から、犬の美点は?と聞かれたダグラスは「美しいけど虚栄心がなく、強くて勇敢だけど驕らない。人間の美徳はすべて持っている。」そして、唯一の欠点は「人への忠誠心」だと語ります。
母に捨てられ、唯一愛した女性にも想いが届かなかったダグラスは、人間に失望していました。
それでも、ある青年の頼みを聞いたことによってギャングに目をつけられてしまうのです。まぎれもなく悲劇なうえ、ダグラスの人間味にも引き込まれます。
犬を愛し、犬に愛され、しかし神に見放された男の行く末にはなにが待っているのか。
U-NEXTで独占配信が始まったようなので、ぜひ観てみてほしいです。