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お肉好きだった私の考え方が変わったわけ

この文章は、panasonicとnoteで開催する「#思い込みが変わったこと」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

初めて”ベジタリアン”という言葉を知ったのは10年くらい前のことだった。



私は当時、働いていたカフェで次シーズンのメニューの開発を任されていた。ちょうど、“ベジタリアン”という言葉が、社内で話題になり始めた頃。「アンテナを張っておけ」と育てられた私は、「ベジタリアンってキャッチー!取り入れなくちゃ!」と流行を追うように飛びついた。

でも結局、お店のメニューのうち9割はお肉を使っていたし、この時点では、自分もベジタリアンになる気はなかった。ヴィーガン料理を出すレストランに食べに行ったりもしたけど、目に付くのは珍しい野菜やおしゃれな盛り付け。週一回ランチで食べるにはちょうどいいかも、っていう印象。あくまでファッション感覚。

でも、それから10年経って、私はベジタリアン(ペスカタリアン)になった。

今さらかもしれないけど、ベジタリアンというのは、主に野菜しか食べない菜食主義者のこと。主に、と書いたのはベジタリアンの中にもさまざまなタイプがあるからだ。

乳製品やタマゴ、ハチミツも口にしないヴィーガンや、肉は食べないけど乳製品は食べるラクトベジタリアンもいる。

その中でも私の食生活は、お肉は食べないけど、時々お魚は食べる“ペスカタリアン”だ。

私はもともとお肉が大好きだ。地元の新潟県の高校を卒業した後、19歳で上京し、調理の専門学校に入学した。専攻したのはフランス料理。牛、豚、鶏はもちろん、羊・鴨・ウサギ・シカなどあらゆる動物を調理した。

お肉の種類によって、最適な調理法は違う。肉質の違いを生かして調理するのはとても楽しかった。言うまでもなくフランス料理は、「肉をいかに美味しくするか」を追求した料理。野菜はあくまで“付け合わせ”。前菜で野菜が主役になることはあるけれど、コース料理でのメインはやっぱり、お肉。

そんな私は、卒業後、フレンチ、イタリアン、鶏肉専門店など、あらゆるジャンルのお店で働いた。そして、都内で展開するカフェチェーンの料理長になった。朝から日付が変わる直前まで、ほぼ毎日、料理を作り続ける日々。もちろんメインはお肉料理。

その後、結婚して自分でケータリングやお弁当を作るようになった。撮影現場用のお弁当の依頼が多かったこともあり、ボリューム感を求められることも多かった。お肉が入っていないと満足感がかけてしまう。当時の得意メニューは、ハーブたっぷりのソースを添えた「雲南ハーブステーキ」や、タイハーブでマリネした「ローストチキン」。また食べたいと言ってくれるお客様も多く、作りがいがあった。

私にとってお肉は仕事に欠かせない相棒みたいなもの、だった。それでもたまに、『ベジタリアンのお弁当は作れますか?』と聞かれることもあった。お肉を使わずにメニューを考えるのは楽しかったけど、自分がお肉を食べないことは考えられなかったし、絶対大変だよ、私にはできないよ、と他人事のように思っていた。

でも、1年前。私は仕事でお弁当にお肉料理を出すのを、一切やめた。

なんてことない、普通の日。リビングでインスタを見ていたら、ある動画が目に入った。狭いゲージに入れられ、身動きも取れずにいる動物たち。生まれたばかりの子牛は親から離され、ケースに投げ込まれていた。子をもつ親としての感情と重なったのかもしれない。涙が止まらなかった。その映像の中で、動物たちは”生き物”としてではなく、”人間の商売の道具”として扱われているように、私には見えた。衝撃だった。

その映像をみてから、私はお肉を食べることをやめよう、と思った。

ベジタリアンやヴィーガンは“お肉を食べない人”だと思っていたが、それは違った。
“動物の命を選択しない人”なんじゃないかと感じた。
些細な違いのようで、私にはとても大きな気づきだった。


もちろん全ての人が、利益最優先の環境で飼育しているわけではないし、動物たちに配慮して大切に育てている方はたくさんいる。もしかしたらそっちの方が多いかもしれない。いろいろな考えがあるし、お肉を食べる選択をする人だっているだろう。

それでも、私はベジタリアンになることを選んだ。


まずはベジタリアンや、ヴィーガンについて調べた。一番気になったのは、栄養面だ。お肉を食べない代わりに、何をどのくらい食べればいいのか。すると野菜について、すごく興味が湧いてきた。スーパーに並んでいる野菜はどうやって作られているのか。肥料、農薬、有機栽培、自然栽培とはなんだろう?

多すぎる化学肥料が、海に与える影響のこと。野菜の栄養価のこと。食品添加物や人工甘味料が、体にもたらす影響。
牛肉を生産するのに使用する、水と穀物の量の膨大さ。
今買おうとしているチョコレートはどこで誰が作ったものか、ちゃんと正当な支払いがされているものなのか?
手袋が欲しいが、どうせ買うならフェアトレードで、作り手にちゃんと支払われるものを選ぼう。



色々調べているうちに、ベジタリアンには関係ないことまで、ひたすら考えていた。ベジタリアンはただの食事の問題ではなく、自分が何を選択して生きていくかに直結していた。

代替え肉やヴィーガン向けの食材が、思いの外沢山スーパーに並んでいることにも気がついた。大豆ミート、豆乳チーズ、豆乳ヨーグルト、ライスミルク、アーモンドミルクなど様々なものがあり、好みや気分で選ぶこともできる。私のお気に入りは牛乳代わりの有機豆乳で、無調整なのにすごく飲みやすくて美味しい。家族も気に入ってくれている。

例えば、うちでよく登場する麻婆豆腐の材料は、こう変わった。



【従来の肉あり麻婆豆腐】    →   【肉なし麻婆豆腐】

ひき肉 100g       →  大豆ミート(そぼろ)か
                   きのこのみじん切り100g
中華だし(チキン)小さじ1 →     なし か 野菜だし
           ※以下は全部一緒
にんにく 1かけ
生姜 1かけ

豆板醤 小さじ1

甜麺醤 大さじ1
醤油 大さじ1

豆腐 1丁

ネギ 半分

片栗粉 適量

レシピを見てみると、そこまで大きく変わらない。お肉は代替え肉で代用できるし、ダシは入れなくても問題ない場合も多い。“野菜だし”というものも、色んなメーカーが出してるし、無添加のものも多いので、代用するのもいいと思う。

他にもお肉の代わりになるのは、タンパク質がたくさん含まれている大豆などの豆類。豆腐や納豆はもちろん、ひよこ豆やミックスビーンズ、加熱済みのものも、お手頃価格で売っているので手に入れやすい。サラダやスープに入れるのも手軽で、簡単にタンパク質を摂取できる。

お肉を代替えする以外にも、野菜を主役にする料理をたくさん考えた。

厚揚げ豆腐に豆豉とスパイスで作った醬を合わせたヴィーガンバインミーサンド。
野菜たっぷり手作りがんもどきと青梗菜のあんかけ
とろとろ新玉ねぎ丸ごとスープ
明石焼き風 しみしみ豆腐たこ焼き
春キャベツと大葉の春巻き 赤味噌だれ
燻製栗の中華ちまき
くるみの佃煮と三つ葉の玄米おにぎり
焼きなす、あぼかど、フムスのサンド
厚揚げと発芽ニンニクのサンバルソース

野菜だけで料理を考えるのは、すごく楽しい。野菜だけという制限が、逆に創造力を高める。野菜でいかに食べ応えとパンチを出せるか。食べる人に、お肉使ってないなんて信じられない!と言わせたい。

野菜には旬があって、私はそれをとても大切にしている。旬の野菜を使うのは理にかなっていて、味・栄養面・値段共にこれを使うのに越したことはない。旬の野菜は何より美味しい。そして栄養がぐんと増えるので体にもいい、出荷量が増えるので値段も下がる。今では季節問わずほとんどの野菜が食べられるけど、やはり旬のもののパワーにはかなわないと思う。

野菜の魅力の一つに、その色や形がある。彩が美しい。姿形が面白い。どうカットするかだけでも味や、印象が変わる。
野菜を主役にするためには、野菜の色や形をいかすことが大切だと思う。大きくきる、もしくは切らずに丸ごと使うこともよくある。

例えば、カリフラワーはオリーブオイルをかけて丸ごとオーブンでローストする。ほろほろと崩れるくらい柔らかくなったカリフラワーは、水分が抜けて旨味が凝縮する、驚くほど甘みがあって美味しい。塩だけでも十分だが、ハーブソルトやミックススパイスを掛けるとまたグッと印象が変わる。

友人宅の食事会にて

レタスはサラダにするとき一枚ずつバラしてちぎることが多いけど、必ずしもそうしないといけないわけではない。半分に切って、断面をさっとフライパンで焼く。お皿に断面を上にして盛り付け、好きな野菜をのせたりナッツを振りかけたりして食感を出す。焼いたレタスはシャキシャキした食感と香ばしさが加わっていつものサラダと一味違う。

アスパラは皮をむいて食べやすい大きさにカットするのが一般的だけど、生のままピーラーで縦に薄くスライスするという手もある。シャキシャキッとした食感の麺状のものができるので、生のままサラダに入れたり、ごま油で和えてナムルにしたり、さっと茹がいてお浸しにしたり、スープに入れるのもいい。いつもと違うアスパラの食べ方ができて、それだけで料理の幅が広がる。

そしてもう一つ、野菜料理を物足りなくさせないために欠かせないと思っているのがスパイスやハーブたち。もともとスパイス&ハーブが大好きだが、ベジタリアンになってから更に欠かせないものになった。
スパイスたちはいつもの料理を一味違うものへと変身させてくれる。例えば大学芋に、ゴマと一緒にクミンやコリアンダーシードを混ぜてみる。すると一気にオリエンタルな香りが広がり大学芋とは全く違う主役級の一皿が出来上がる。単品のスパイス使いが難しいなら、カレー粉やスパイスソルトなどのミックススパイスからはじめるのがお勧めである。何種類か違うテイストのものを用意しておけば、食材の組み合わせや調理法で沢山のレシピができる。


今、私はできるだけ無農薬野菜や有機栽培の野菜を選ぶようにしている。安心して家族に出せるもの、心から美味しいと思えるものを購入しようと思うから。でも、健康のためだけじゃない。作っている人たちを応援するために、そういう野菜を買っている。誰がどこで作ったかとか意識して食材を選ぶと、いつもよりおいしく感じるし、環境や健康のことを考えて、苦労して野菜を作っている人の頑張りを、少しでも後押ししたい。


産直野菜を使ったお弁当

何が正しいなんてない。
ただ自分が、どう生きたいか。それを考えるきっかけになったのが”ベジタリアン”という選択だった。
日々生きることに精一杯だけど、ちょっとしたきっかけを見逃さずにいたい。
そして自分の、ほんの少しの意思表示が、また誰かのきっかけになってくれたら嬉しい。


#sponsored  #思い込みが変わったこと #ヴィーガン #ベジタリアン


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