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Annaの日記 ハイリスク妊婦の末路⑦
4日目(42週0日)
また同じ朝が来た。もうすっかり朝の順番にも慣れてしまい、看護師さんに言われる前に
シャワーとお産バッグの準備を整え病室で待っていた。
毎朝、夫が犬を連れて病室の外から手を振るのが日課になっていた。
夫は毎日お見舞いに来てくれていたが、もちろん犬は病院に入れない。
もちろん犬は私には気が付いていないが、5階から見える元気な姿が見れた事はかなり心が救われた。
離れて4日。ご飯のストックも底をついてきたと笑いながら話す夫にも、理由がわからず寂しい思いをしている犬にも申し訳ないと、診察に呼ばれるまでもまた涙が出てきた。
今日は、いよいよ明日の帝王切開に向けての説明と同意書のサインのために
15時に夫が先生と話をすることになっていた。
「今日一日耐えたら・・・明日で終わる」
全然前向きになれず、どうせ今日も無理だろうという気持ちのまま点滴が始まった。
また何も出来ない一日がくるのかと思っていたら、看護師さんが若い看護師を2人連れてやってきた。
研修生でお産立ち合いの研修をさせたいという旨だった。
少子化の影響か、とっくに研修期間が終わっているのに、出産研修の件数が到達していないとの事で居残りをしていた。
同意書にサインをして、「おかかい看護師」のようにいつも近くにいてくれた。久々に若い子と話をするというか、人と話をした。
昨日の発狂お産の話や、病院の研修の事、若い子の将来の夢の話を聞くとかなり気分もまぎれた。
昼を過ぎたくらいに、点滴の量もマックス近くになり、いよいよ痛みが強くなってきた。
と、いってもまだこれが「陣痛か?」と言われると我慢が出来るレベルだったが、機械で測る限り陣痛が数分間隔にまでなっていた。
いよいよか!!
ベテランの看護師さんが何人か来て、内診を始めた。ここで子宮口が7㎝くらいになっていたらいよいよ分娩準備が始まる。
「あれれれ・・・?まだ指1本くらいしか入らないなぁ・・・。
このまま・・・耐えるしかないなぁ」
と、そそくさとパンツをあげ服を整えた。
愕然とした・・・
ここまで来てまだ子宮口が開かない・・・
痛いのに出てこれない・・・
ドキドキのプラスの感情から、また急に「死産」のキーワードで頭いっぱいになり、もう苦笑いするしかなかった。
ベテランが去ったあと、明らかに気分が落ち込んでしまった私をねぎらって、研修生が妊婦さんに出来るマッサージをしましょうかと提案してくれた。
気分も落ち込み、だんだんと陣痛も強くなり
話すことをやめて静かに横になっていた。
マッサージをお願いし、研修生が準備をしている時に、何か表情が変わり
「ちょっと待っててくださいね」と言い残し、病室を去った。
?
数分後、ベテラン看護師軍団と、のんき先生ではない女医の先生がドタバタと病室に入ってきた。
「赤ちゃんの心拍が下がり、今は戻ってはいるが、42週という事もあってもう待てないので、
今から手術で取り出したいのですがいいですか?」
「え!は・・はい!!お願いします!!」
即答だった。
もう何も迷う事なんてない。
やっと終われる・・・
こ、これがコウノトリの
「緊急カイザー」か・・・
まさか、まさか・・・
この言葉を自分が使うとは・・・
・・・と、感情を確認する前に、ドタドタとまた数人看護師が入ってきて、一人は採血、一人は着替え、一人は私のシモの毛を剃り、一人は尿管に管を通し、一人は加圧靴下をはかし、レントゲン技師が大きな機械を持ってきて・・・とものの数分で手術の準備が進んだ。
さっきまで、耐えろと言われて、マッサージしてもらう気満々だった私は、麻酔なしで尿道に管を通された痛さでもう何がなんだかわからなくなり、急に大量の汗をかいていた。
取り急ぎ、許可が出たので夫と、母親に今から手術になる連絡をした。
夫は、明日の手術の説明のために、病院にいた。
昼にも経過を話していて、まさか、今から手術とは夢にも思っていない夫は、私がちゃんと到着しているかの確認連絡かと思い、私が何もいう前に
「もう5階の待合室ついて先生をまってるで!」と言ってきた。
今から緊急手術になり先生が同意書もっていくから待っててと伝えるとかなり動揺しているのが電話越しでもわかった。
数分のしないうちに、私はベットごと1階下の手術室に行くことになった。女医さんの計らいで、エレベーターに乗る前に夫に会えますからねと励ましてくれた。
数十秒だったが、エレベーターの前で夫に会えた。
たった一日手術が早くなっただけの話なのに、二人とも急な緊張感になんと声をかけていいかもわからず、ただ手をぎゅっと握った。
その手は暖かくて、大きくて、すごく安心できた。
次会えた時はその手で「あんな」を抱くんだな
そう思って、私はゴトゴトとエレベーターに乗った。
研修生の二人は、手術となると立ち合いが出来ず、最後に
「頑張ってください!」と声をかけてくれた。
「お産見せられなくてごめんね。
またポイント稼げなくて居残りやねぇ」
と、今思えばそんな気の利いた事をあの状況でよく言えたなと思うが、あの子らがいなかったら、心拍が下がった事もすぐに言いにいってもらえなかったかもしれなく、感謝しかなかった。
ドラマで見るアングル。
廊下の天井だけが動いていく。ベッドにのったままの移動なんて人生初めてだ。
手術室ももちろん人生初めて。少し見にくかったが、ドラマと同じだった。
数人で私は手術台に乗せられて、麻酔を打つ準備が始まった。
横に向いた瞬間、緊張と不安でどっと涙が出た。
やっと・・・やっと・・・「あんな」に会える。
ようやく抱きしめて名前を呼べる日がきた。
そう思っていた・・・
~続く~