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皆川博子の新刊読んだら異世界転生ブームの理由が分かった気がした

まずはじめに言っておくが、皆川博子大先生の新刊「インタヴュー・ヴィズ・ザ・プリズナー」は異世界転生モノでも、ファンタジーでも、SFでもない。独立戦争中のアメリカが舞台で、惨たらしい殺人事件の謎を追うミステリー長編だ。

もう私にとっては待ちわびていた新刊で、どうっっっっっしてもサイン本が欲しくて欲しくてたまらず、発売日には御上りして大型書店をハシゴした。手に入れたはいいが、今度は読み終えるのが怖くて、なかなか本を開けなかった。

本作は2012年に本格ミステリー大賞を受賞した「開かせていただき光栄です」、その続編「アルモニカ・ディアボリカ」に続く、エドワード・ターナーシリーズの完結作。容姿端麗、頭脳明晰、そしてどこまでも自己犠牲的なエドをめぐる、筆舌に尽くしがたい物語だ。

じっさい読み終えた時、一切の言葉が奪われた。この気持ちを何と言えばいいのか。衝撃で体の力が抜けた。思い当たる感情がひとつだけあるが、それを言うとネタバレになるのでここには書かない。

しかし読み終わったすべてのひとが、近しい気持ちで佇んでいると思う。私はにじみ出る涙をそのままにした。よし泣こう。

「誰が」「なぜ」殺したのかというミステリーの一方で、本作は戦争でいともたやすく個がひねり潰される時代の話でもある。不勉強なもので正直、歴史が絡む小説は大の苦手だ。正しく理解できているか怪しいが、イギリスの植民地であるアメリカが独立しようとする争いのなかに、兵士としてエドと、親友のクレランスはいる。

その時代の、環境の、いかに過酷なことか。無力感。自分ではどうにもできない、変えようがない現実。

そのなかで「誰が」「なぜ」なんてじつに些末なことだ。誰が死のうが、奪おうが、あげた悲鳴も、流した涙も、血も、すべて最初からなかったみたいに消されてしまう。

そのリアルに打ちひしがれて、戸惑って、ようやく私のなかに浮かんできた言葉が、異世界転生したい。だった。平凡だった主人公が最強のスキルや地位を手にいれて、転生先の異世界で幸せを掴むという、最近流行りのストーリー群。

本当に、心から、気持ちの整理をつけるには、もうそれしかねぇ。と思ったのだ。

世間が好景気だとハード系、不景気だとお姉さまに甘やかしてもらう系の官能小説の売り上げが上がると聞いたことがある。今、異世界転生が乱立しているのは、どうしようもない現実に閉塞感を抱いている人が増えたからだ、とも。

作中、一人で何でも抱え込んでしまうエドに、クレランスは繰り返し心のなかで思いを溢す。「エドはもっとずぼらに生きるべきだ」。

まわりが放っておけないくらい、自分自身に厳しいエド。しかし仮にずぼらに生きられるようになったとして、彼らの現実は過酷なまま、何も変わりはしない。

そうだ君も、世界も変わらないなら、私が変わればいい。最強のスキルを手にいれて、エドたちのいる世界に転生できたら、有無を言わさずに安全な場所へみんなを連れていく。

そんなおこがましいことを考えて、私は自分の心を慰めているところだ。




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