美術館、一人で行ってみる?【山内マリコの美術館は一人で行く派展】
おととし、私は初めてパリに行った。
人生初ヨーロッパだった。
私はどちらかというとこれから発展していく都市の方が好きだったから、パリに行こうと思ったことはなかった。
ちょっとパリって気取った感じがしていて。
だから「友人が「パリに行こう」と言ったから行ってみた」というのが本音である。
実際に行ってみて、歴史ある建物が多い街の雰囲気とかハイブランドショップの厳かな感じとか、あ〜これがパリね!のような感覚がたくさんあった。
凱旋門にも上ったし、モンサンミッシェルも見学した。
↑凱旋門は想像以上に大きかった!
↑ちょうど広島の厳島神社とコラボ?みたいのをしていて、鳥居があったモンサンミッシェル。
しかし自分の中で一番意外だったことは、美術館に興味を持ったこと。
滞在中、ルーブル美術館とオルセー美術館の2つに行った。
ルーブル美術館はその広さに圧倒されたのと(もちろん見切れなかった)、教科書で見たことがある作品を実際に見てなんだか感動したのだ。
↑ナイキのロゴマークのモチーフになった『勝利の女神ニケの彫像』
オルセー美術館は大好きなドラマ「ゴシップガール」でブレアがルイ王子と会うというロマンティックな場所だから、というミーハーな理由で行った。
こっちは館内の作りがおもしろく、映えスポットも多くてとても満足したことを覚えている。
私の中で「芸術」というと、美術というよりも音楽の方が興味があった。
それがパリでの美術館訪問により、美術に関してのイメージがガラッと変わったのである。
それ以後、日本でもいけるタイミングがあったら美術館も行くようになった。(ほんの少しだけれど)
さて今回私が読んだ本は、「山内マリコの美術館は一人で行く派展」。
この本、実は課題図書になってからずっと気になって探していたのだがなかなか見つからなかった。
そこで仕方なく図書館で見つけた同著者の「パリ行ったことないの」を読んだところ、それがとてもおもしろくあっという間にわたしは山内さんのファンになった。
どうやら山内さんの独特の言葉遣いと軽快さが大好きなようです。
アートの見方は自由
youtubeで見たスー・ブラックウェル本人もすごく繊細で好感しかないし、作品は本当に本当に素敵。だけどそれだけじゃないなにかを、わたしはアートに求めているようです
「アートって、美術作品って難しい」という想いが私の中にはずっと強くあった。
もちろん本書を読んでいくと山内さんがアートについて詳しいことはよくわかる。(さすが美大のご出身)
でも、世で言われているアート作品の評価みたいのってそこまで気にせずに鑑賞してもいいものなんだなと思った。
ところでわたし、「唯美主義」なんて初耳である。解説を読んだところ、「意味なんかねーよ!美しければいいんだよ!文句あっか!」というスタンスで、ただただ美を追求したムーブメントと理解しました
(…おお、詳しい専門家でも心の中でそう思うことあるんだ)と感激した。
「唯美主義」について堅苦しく解説することもなく、しかし山内さんの中で解説を噛み砕いた結果、ここまでラフな表現になるとはおもしろい。
よく考えてみたら、アートに限らず物事のとらえ方なんて人それぞれなんだもんね。
美術のいろいろ
たとえば、瓶の静物画に生涯をかけたアーティストのことは興味深かった。
その美術展のチラシだけ見たとしても、わたしは「これ行ってみよう!」とはならないと思う。
でも本書で紹介されていると、なんだか気になってGoogleで調べてみたくなる。
それくらい山内さんの一つ一つの美術展の紹介の仕方がおもしろい。
あとピカソとシャガールの展示会のチラシの写真。
ピカソもシャガールも本当に笑顔で写っていて、仲良しなんだなあと思ってしまうが全然そうではなかったと書かれている。
山内さんも知らなかったみたいで、驚いていた。
本書内では山内さんが実際に美術館に足を運んでみて知り得たことがたくさん盛り込まれている。
その説明の仕方は全然いやらしくなく(上から目線みたいなのがない)、素のままで話しているかのような表現が多くて読みやすい。
だから山内さんの表現の仕方が好きなのだと思う。
ゆるりとしながら的確、納得
前回の東京オリンピックがあった1964年に建てられた歌舞伎町新興組合ビルを丸ごと使って行われた展示会。
そこを訪れた山内さんはこんなことを書いている。
わたしたちに残されたのは、廃墟だけということ…この国はかつて、たしかに栄えていた、でももうそのピークは終わってしまった。わたしたちは残されたものを、あれこれ知恵を絞って見方を変え、楽しくやっていかなくちゃいけない…本当に求められているのは取り壊しや新築ではなくて、老朽化をポジティブに解決する画期的アイデアやセンス、テクノロジー、イデオロギーの方だったんだなぁと、改めて思ったのでした
本書内では「ホテルオークラ東京」本館の閉館についても書かれているが、引用文の通り取り壊しや新築といったことではなくて、いかに今までのものを活かしていけるかを考えることってすごく大切だと思う。
海外だと築何十年という建物は当たり前で、新築という発想はあまりないと聞く。
日本は地震が多い国だから仕方ないところもあるかもしれないが、古いものと共存していこうという感覚は薄い。
もちろん最新設備は便利だしその恩恵を自分も受けているので、偉そうなことはいえない。
しかし「歴史的なものは歴史的なものとして残す」という意識があまりに強くて、わたしたちの日常との分断が大きすぎる気がするのだ。
新年を迎えるとリセットする感覚になるのと似ているのかもしれない。
(新年でリセットって海外だとあんまりないんだと聞いたことがある)
わたしは日本が好きだ。
自然豊かで、おもてなしサービスは最高。
でも新しいものを追い続けたり、海外と比較して感じた負い目をカバーしていこうとしたりして、本当の日本の良さをどっかへ放り投げてしまうことがあるのではないかとも感じる。
これだけ素敵な環境、モノ、人にあふれているのに自国について卑下ばかりしていてはもったいない。
山内さんのいうように、「老朽化をポジティブに解決する」ってことをこれからもっと意識していけるといいのではないかと思った。
本書はそんな深い想いにもさせてくれた一冊。
実はわたしは一人で美術館に行ったことがない。
もし一人で美術館に行ったらどう思うのだろう。
ついつい解説とかを読んでしまうのかな。
わたしも一人で美術館に行って、ただありのままに作品を鑑賞してみたい。
また一つ、やりたいことが増えた。
ぜひ、読んでみてください。