マルホランド・ドライブ4Kリバイバル上映 個人的新解釈の悦び
こんにちは。
福岡でテレビショッピングを中心に映像ディレクターをしている別府です。3児の母、共働きのフリーランスです。
今日は、私の人生で1番好きな映画「マルホランド・ドライブ」4Kリバイバル上映を観に行ったので新解釈を記したいと思います。
ネタバレも含みますが観られた方やリンチファンと共に楽しめたら幸いです。
初の日本全国4Kレストア版上映
リンチ監督自身の監修により製作された4Kリマスター版。
同時に音響も5.1chで制作され音と映像にこだわるアーティストのリンチ監督の「感覚」を追体験できるような贅沢な時間。
冒頭ダンスのシーンはあえてビデオっぽい編集加工がされているので「?」と一瞬4Kを感じにくかったですが、独特な煙のシーン、途中泣き女の歌うシーンの音楽と相まった美しさ、妖艶なシーンなどやはり綺麗さが際立っていました。
摩訶不思議な世界
この難解なカルト映画。
すでにネットでたくさんの解説が出回っています。
大きな模範解答としては前半がダイアンの夢や理想、クラブシレンシオを訪れて鍵を開けてからの後半がダイアンの現実というのが定説です。
しかしリンチ監督は解釈は一つではないと公言していて、その解釈は観客に委ねられていて正解はない。
でも私たちは解説を観たがる、答えを知りたがる。
そんなステレオタイプの観客たちへ向けて、完成作品で既に「死後も永遠のアンチテーゼを唱えることができる脚本と映画を作り上げた」
それが鬼才リンチ監督の凄さを改めて感じました。
デビッド・リンチによる10個のヒント
じゃあ、リンチ監督による10個のヒントについて
出回っている推察と今回私が観て感じたことを列記してみたいと思います。
1.映画の冒頭に注意せよ。クレジットの前に少なくとも2つの手がかりが映し出されている
冒頭タイトル前に登場するのは謎のダンスシーンと空港に降り立ちベティを優しく応援する老夫婦。
これは言わずと知れた、ダイアンが故郷カナダで優勝したジルバダンス大会イメージシーン。その後ダイアンに寄り添う不気味なほどに笑顔の老夫婦は希望のモチーフというのが定説です。
しかし今回の新解釈は「老夫婦は、ハリウッドの世界に送り出した元女優の叔母ではないか?最後自殺するダイアンが錯乱状態で幻覚を見る老夫婦は「あなたも女優になれる」と囃し立てた叔母夫婦だとしたら」…周囲の期待と乖離する現実に落胆した末の自殺とも考えられます。
2.赤いランプに注目せよ
この赤いランプは、前半に裏のドンみたいな人がリレーで繋いで電話が来るシーンに描かれていて、ショービズ世界の裏を描いているという定説です。
しかし新解釈は、赤いランプはあの世とこの世を繋ぐもの。
後半の闇や撹乱、怒りの象徴が「赤」。
逆に純潔や理想、静寂の象徴が「青」。
特にこの2色や電話のモチーフはリンチ監督の映像にたびたび現れます。
3.アダムがオーディションを行っている映画のタイトルは? そのタイトルを再び誰かが口にしているか?
後半にダイアンは『シルビア物語』がきっかけでカミーラ・ローズと知り合った、と発言しています。再び口にするのは後半のダイアン自身。
この「シルビア物語」での映画監督のボブという名前が後半登場。
このボブ監督は前半でプレオーディションでベティが魅了した監督として登場します。
これがわかりやすく、あんまりイケテナイ部類の監督として描かれ、キャスティングの女性たちからこき下ろされます。
新解釈としては「この映画に出なければカミーラと出会わなかったという後悔や、私の方が演技が上手いのにという恨みの現れ」だと感じました。
前半の夢の方のオーディション練習風景のベティのウキウキ感が後半を知っているとなんとも痛々しくて泣けてきます。
4.恐ろしい事故ーそれが起きた場所に注目せよ
マルホランド・ドライブという事故現場はカミーラとアダム監督の結婚披露パーティが開かれた忌々しい場所を描いています。
アダムの自宅という設定は夢の前後も共通ですが、どちらも車と夜道のシーンが描かれています。これはリンチ監督がこの映画を思いついた場所がこのマルホランド・ドライブ通りだと公言されているようです。
そこで新解釈は「この場所が全ての物語のスタート地点。映画の前半夢の始まりであり後半ダイアンの絶望の始まりでもあります。道の分岐点という意味」ではないかと思いました。
5.誰が鍵をくれた? なぜ?
後半に殺し屋が、カミーラ殺しが成功したら渡すといっていた鍵が後半部屋に置かれていたことでカミーラ殺しが成功したというのが定説です。
ここで新解釈では、前半の叔母さんが出発する時に机の上にあった鍵が消えていたんですよね。ココがその鍵を渡してくれた。
ココは後半アダムの母親として描かれダイアンを煙たい存在として冷ややかな視線を送ります。カミーラを奪ったアダム監督を産んだ母親が全ての悪の根源。最も恨む存在のアダム監督のモチーフとして鍵をくれる、諸悪の根源と描いていたとも捉えられます。
6.バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ
前半リタの豪華なバスローブとのコントラストで後半みすぼらしく描かれるダイアンの古ぼけたバスローブ。
灰皿は時間の経過、コーヒーカップのシーンは前後の編集点と見て取れます。
新解釈では、前半バスローブについていた手紙が叔母からの滞在をエンジョイしてと書かれていてそこに注目すると見えてくるのは前半の夢の世界にリタとしてカミーラを召喚したダイアンからリタへの贈り物。
実際に心理学では赤はポジティブには力、情熱、自信の象徴、ネガティブには攻撃性、怒り、警戒、危険の象徴。
複雑な感情でカミーラを自分だけのものとして独占したいダイアンの欲の現れではないかなと思いました。
灰皿については「大量の吸い殻」に注目。
ピアノの灰皿は色々な方が書かれていますが、後半カミーラの誘いの電話がダイアンにかかってくるシーンに登場するタバコの吸い殻たち。これはダイアンの苛立ちとともに、カミーラと関係が悪くなってからダイアンがタバコを吸い始めたとも受け取れます。
7.クラブ・シレンシオで、彼女たちは何を感じ、何を理解し、何を手に入れた?
音が幻という劇場。ここで2人は二人の関係に終わりが近づいていることを悟り涙します。ダイアンの夢の中で2人は悲しみの涙を流します。
ここは2人の人生の終わりの訪れ=ダイアンの死を理解したことを表し、現実へ戻る小箱を手に入れることが描かれます。
このシーンがとにかくこの映画最大に音が美しいので是非劇場で鑑賞してほしいポイントです。5.1サラウンドのクリアな歌声のような音はまさに映画館ならでは。
この劇場自体が音は聞こえるけどスクリーンの向こうは幻。幻想の世界だとリンチ監督が映画そのものを自虐的に捉え表現しているという解釈もできます。彼女たちが私たち一人一人の観客だとしたら、現実と映画の世界が違うことを悟り悲観するとも捉えられます。
どこか違う場所に行きたいリタを連れ出した場所がクラブ・シレンシオ。
現実逃避して逃げ込む映画の世界のようにも感じ、その複層的な入れ子構造な仕組みにも唸りました。
8.カミーラは才能のみで成功を勝ち得たのか?
ここは2つ、枕営業と裏のコネを使って成功を勝ち得たことが示唆されています。カミーラは才能のみで成功を勝ち得てはいないというわけですが、一方でダイアンも真っ当な道だけで生きていないことも少し考察したいと思います。
新解釈ではダイアンのもう一つの顔について想像しました。
それはお金のこと。
後半、現実のダイアンが殺し屋にカミーラ殺害を依頼する時に大金を渡します。ここは後半に叔母の遺産が少し入ったのというダイアンのセリフがあり、それが答えというのが定説です。
しかし前半に、チンピラみたいな男2人に挟まれたダイアンに似たブロンドショートヘアの女性が「他にいい子がいたら紹介するわ」みたいなシーンが気になりました。
これはもしかしたら、ダイアンと殺し屋の関係性として、ダイアンは誰か殺したい人がいる人もしくは売春などを悪い奴にに斡旋する裏の仕事をしていることが前半のダイアンの夢の中にも顔を出したのかなと。
今までたくさんの人を殺し屋に斡旋して自分が働くダイナーで悪事をして金を集めていたダイアン。その金はカミーラ殺害にも使われ、刑事らしき男性(前半ではダイナー裏で黒い男に出会い卒倒する役)に目をつけられてそろそろヤバいと思っていた。色々と悲観した末に行き詰まっての自殺とも考えられます。
9.ウィンキーズの裏にいる男の周囲で起こる出来事に注目せよ
浮浪者のような黒焦げのような男がウィンキーズの裏に顔を出します。
この男は死神ではないかというのが定説です。
新解釈では、劇中で異様に闇を感じる浮浪者の男と清廉を感じるクラブ・シレンシオの青い女。
これは人間の心のダークサイドと清い面、つまり天使と悪魔の考えのことを表現しているとも言えるなと思いました。
ダイアンは自分を裏切ったカミーラが憎い。憎いけど愛おしくもある。
殺したい、でも殺してはいけない。どちらを選ぶか?
結局赤い恨みのライトの奥で顔を出した黒い男。
つまり殺すことや自殺という悪い方の考えが顔を出し思考を支配した現れではないか。
それを最後、天使の考えである青い女が悲しそうに「シレンシオ、沈黙を。」と言います。「悪魔の考えが沈黙していればこんなことにはならなかったのに」という、能のような表現とも受け取れるのです。
10.ルース叔母さんはどこにいる?
前半はカナダに旅立つルース叔母さんが描かれます。
カナダで演技するという言葉が死を意味するハリウッドの世界のジョークらしいのですが、すでに死んでいるというのがおおむねの定説のようです。
新解釈としては、前半でルースさんについてアパートのココや隣の謎の占いオバサンは信頼した口振りをしています。
ルース叔母さんは、カナダに暮らしていたダイアンの中でなんだかハリウッドにコネがある元女優で信頼できる人物として思っていたんだろうなと推測されます。
映画の最後に、前半に登場した偽?ルース叔母さんが部屋に戻ってくるシーンも謎。ルース叔母さんは何事もなかったように部屋を出ていきます。
ダイアン中心の世界で映画を見ていくとおおごとのようですが、ダイアンという姪の存在はルース叔母さんに取って取るにたらない存在。ひいてはこのようなオーディションを受けて夢破れて闇落ちしていく女の子たちがハリウッドの世界から見たら取るにたらない存在だという暗喩とも取れるなと解釈しました。
その他気になったシーン
前半殺し屋のダメダメシーンは、後半現実でカミーラを殺害について殺し屋がヘマして失敗していればよかったことを暗に示す。
という定説です。
私が気になったのが、なぜ殺された長髪男の髪がピーんと跳ねていたのか?
この髪がひっかかっているカットがワザワザご丁寧に2カットは出てきます。この推察はまだ謎のままです。
そして改めてリタ(カミーラ)役のローラ・ハリングさんのお胸の美しさは必見。女性から見てもなんという豊満ボディ!見る価値ありです。
まとめ
とにかく何回見ても面白いし新しい発見がある今作。
以前リンチ監督のドキュメンタリー映画の感想もnoteに書きましたが、天才は突き詰める没頭加減がずば抜けているなと感じました。
スキが少ないけど今読んでも良い記事じゃないか!?(自画自賛w)
多分この映画も相当に脚本や美術小道具に作り込みまくってスタッフ大変やったろうな…と思わせる傑作です。
込み入った推理作品が好きな方には本当にオススメなので是非ご覧ください。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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