退職の練習⑩桜の思惑
さて、今年の桜には不思議な現象が起きている。
私の毎朝の散歩コースは川べりの桜の名所であるからして、毎朝、花見に行こうと思わなくても、桜を観察できるいい場所なのである。
普段は、今日から花が次第に咲いてくるのであるが、先週の月曜日には満開だった。2~3週間早い。
八戸は太平洋側で雪は少なく晴れの日が多い。津軽出身の私にとっては、冬にスニーカーで歩けるなんて、ここは東京のようなところだと思ったことがある。しかし、地球をすっぽりくるむ曇りの雲や雪雲の日の方が、暖かくいのだと気が付いた。
からりと晴れた日の風の吹きすさぶ八戸の寒さと言ったら!
氷都八戸と言われ、スケートやアイスホッケーが盛んな地域のわけである。海が近く風の町でもある八戸の桜は、可哀想だ。満開になったとたん、風に吹かれて瞬く間に散ってしまう。そんなイメージ。
ところが、今年である。
やはり、満開になった途端、天気はくずれ、雨や風が桜を容赦なく叩いていく。しかし、桜は、なかなか散らずに持ちこたえている。
散歩道を歩いていると、地面にも花びらが散っているのだが、上を見上げると、まだまだ桜は綺麗に咲いていた。
あら、いつもより、頑張っているじゃないの!
こんなに風が強いと、花の下でビールでもという気にならない。
寒いのである。
手折ったわけでもないのに、桜の花のカタマリがついた小枝が、あちこちに落ちている。風が吹き飛ばしたのであろう。
拾って歩いて、大きなガラスの皿に浮かべて飾ってみた。
花は、ナカナカ散らないのである。
暖かくてうっかり早く咲いちゃったけど、散るにはまだ早いのだ。
花が持ちこたえている期間が長いのはとても嬉しかったが、もう一つ、珍しい現象があった。
満開の桜から葉桜になる期間がある。
ある友人は、私はピンクだけの桜より、ピンクとグリーンが混じった葉桜の色が好きと言っていたが、今年はそれが、ほとんど見られなかった。
葉っぱの準備がまだできていないのであろう。
ピンクの桜は、白い花びらを全部落としても、緑色の葉を出すことなく、そのまま花のがくが残った赤紫色のままで、いるのである。
すごいな、こんなの見たことない。
川べりにはいろいろな種類の桜が植えられているが、ソメイヨシノが一気に咲いて花びらを落としてしまったため、他の種類の遅咲きの桜をゆっくり観察して楽しんでいる。
いつもは、ちょっとだけ、ずれて、一気に満開の日がやってきて、いつの間にか、桜は消え去っているイメージなのだが、今年は、満開の桜も、葉桜にならず頑張っていたし、他の桜が今は美しい。
ソメイヨシノは育てるのが易しいクローンだと聞いたことがあるが、クローンであるソメイヨシノが日本全国を一気に桜前線を駆け上っていったのだろうか?
今は、2メートルクラスの枝垂桜や、名前もわからない着物の柄のデザインのようにお洒落に立っている桜の枝の中に入って、幹の側から、外を眺めてみている。
「こんにちわ、入っていいですか?おじゃまします!」
枝は上に伸びながら傘のように幹を取り巻いていて、中にぽっかりと空間ができているのである。
桜の小部屋と呼ぼう。
川に隣接したテニスコートなどもある公園も桜の名所で、いろいろな桜が咲いている。今はカワイイ桜の小部屋にお邪魔して、素敵な花を眺める。
幹の方から眺めてみると、私ってこんなに綺麗、と桜自体が自分の美しさにうっとりしているんではないかなという気がする。
一生のうちで、一度だけ春夏秋冬がやってくる動物から見ると、毎年春夏秋冬がやってくる植物がちょっとうらやましい。
でも、動物がそんな風だったら、世界がヤバいことになりそうなので、やっぱり、神様は、うまく世界をデザインしていると思う。
今年は、いつもは見ないカタチの桜を見ています。