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「ポンチャカ星人の君が星に帰るまで」第7回笹井宏之賞応募作
入荷して返品してを繰り返す文庫売り場は呼吸する森
児童書の回転塔がぐるぐると知らない昔話を乗せて
新人の%■くん(ヴォロ星出身)が叫ぶ「ラッピング、garden、来たよ」
夕礼の引継ぎ事項 佐賀県の老舗ササダ書店倒産
抱きしめる「天文ガイド」簡単に変わることないあれらが見たい
もちものに「ぼうえんきょう」があるはずだBUMPがゲームの主人公なら
鉄製の外階段を踏み外さないようのぼるタルト・タタン・タタン
六等星散らばる、しろく 皿の上のチーズケーキのかけらみたいに
ブレーキランプ五回点滅させている自家用UFOの赤色
「ハロー」ってヒグマみたいな手を挙げる君を撫でてく風はやさしい
マシュマロが溶けて焚火がぱちん、という 室外機らの寝息はかすか
木星で君が覚えてきたココアしょわしょわ弾けて「サイダー?違う?」
ホロスコープ型の書店を開きたい「それってかなり十角館だ」
スタートボタンさえないクソゲーだ正規雇用が熱風に散る
「『月見バーガー』の『つき』って運の尽きのこと?」冗談でなくキミは尋ねた
教科書のボブもナンシー先生も眠るアトランティスのお城で
「△してRu」「もっと前歯に舌当てて。【θ】って感じの『△■×/』だよ」
君の目は星の色だねこの星の平和な時代(ルビ:とき)の海の色だね
ウシガエルの声がやたらと大きくていまの言葉はごめん、忘れて
ホロロロ!と君は足踏むいい肉を捕った直後の部族みたいに
シャンプーがちゃんと香ってくる とろり 両手に君の粘液
ラジオからポンチャカトコチン流れ出すタイコのようなポンチャカトコチン
目が回るちらりと見えたキャンピングチェアーの傷がひどく目立った
《非常口こちら》の文字は掠れててトタンとキミとステップ、ステップ、ステップ!
白い海を白馬で渡る夢をみた ブランケットがあたたかかった
風船は急に弾けた馬頭(ルビ:ウマヅラ)のアナウンサーがなぎ倒される
日雇いの人間たちが土を踏む蚯蚓を踏む 青い血、のちに暗転
玄関にたてかけられた鶴嘴の泥は一体どこから来たか
唇を噛み切った午後料理本の床にダイタランシー零れる
ヘイト本を売りたくなくて平積みはやらないでおく でも売れていく
凍てついたチキン並んで食むうちに終末時計はふたつ進んだ
タンポポを君はつまんだふるさとに花はないのと言い訳をして
「リンゴ約三那由他ぶんくらいかな」ハローキティのプロフィールかよ
君からの連絡が来る時にはもう森のかけらになってるだろう
マンションの隙間から来る夕焼けが屋上のライトを冷やしていく
真夜中のブラウン管がきゅぴきゅぴと誰かの何かになりたいと泣く
リュックにはブラジャーだけを入れていく無重力だと垂れちゃうでしょう
出口まであともうすこし国道をポカリ片手にぐんぐん歩け
(ナプキンはしばらく替えられないけれど、いいの?)(いいんだ)セブンを曲がる
天国からの光より青だった君をさらってゆくための船
すこしだけふたりでいようこの星に氷河期が来るまででいいから
さらわれる準備はとうにできていた君がさわってくれたら、それで
牛くらい勝手に持って行っていい 君にやさしくない星だから
手をつなぎ回ってみせるエンジンはトランペットのようにたからか
スカートの裾をあなたに濡らされてうれしくって ビビディ・ヴァヴィデ・ブーワ
忘れてた景色があった スパンコールをまぶしたメリーゴーランド
それぞれの星に光があるのだろう別れてしまった人の数だけ
ああこれが満月なんだ君が手を挙げた窓辺のつよいひかりが
【hərt】じゃないハートの痛みなんだって君の言葉をひとつ覚えた
永遠に踊る ガストの猫よりもずっとぎこちなかったとしても