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東浩紀「ゲンロン戦記」を読んで/本の話
東浩紀「ゲンロン戦記」を読みました。
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面白かった!予想外に読みやすくてあっという間に読み終わった。それでいて読み応えがあって示唆に富んでいた。東さんが「ゲンロン」という会社を立ち上げてからの奮闘記。会社経営を通して、哲学を実践する戦いの日々の記録だった。
東さんと言えば、若くして成功した哲学者で、著作「動物化とポストモダン」略して「動ポス」の人と記憶していた。わたしは大学で社会学のゼミに属していたので、お名前と動ポスくらいは読んだことがある。内容はちっとも覚えていないが。
その東さんが、今は会社経営をしているらしい。戦記とは言いつつも、輝かしい遍歴が哲学的に書いてあるのかな?くらいでページをめくった。そうしたら、綴られていたのは信頼していた仲間に騙されたり裏切られたり、資金繰りに駆け回りながら模索した日々で予想外だった。
信頼して任せていた人に、資金を使い込まれるのくだりもある。折しも大谷選手の専属通訳の水原さんが話題の今。よく聞く話ではあるけど、そういうことって、現実として大なり小なりいつでも起きてることなんだなと思った。
きっと裏切った人たちも最初からそいうつもりはなかったと思う。悪魔の囁きってほんとにあるのかもしれない。
目の前に自分の手で動かせる大金がある。しかも管理しているのは自分だけ。
今、そんなこととんでもないと他人ごとして断じている人だって、果たして同じ環境で悪魔の声に惑わされないと言い切れるのだろうか。というか、そんなこと自分はするわけがなと信じきっている人こそ危ういように思う。
本のことに話を戻す。様々な事件を乗り越えながら、東さんが自分弱さと向き合い、気づきを経ていく過程、そして会社としてコミュニティや顧客を作ることを営利企業として存続させてきた十年間の試みがあり、そこには東さんの哲学と新たな知的空間を作る実践の相互作用がある。これがとても興味深い。
特に、コミュニティづくりの点は示唆に富んでいる。「誤配」と表現される予期せぬ巡り合わせが新たな可能性を生み、それは人々が物理的に空間を共有することで生まれやすくなるというところ。
確かに、コロナ禍でオンラインコミュニケーションは一気に普及したけれど、実際に会って話すのと同じかって言ったら全然違う。
そしてこれは、この本に関連したネットの記事で読んだのだけど、人間力を発揮するための話すことの重要性とか。
これまでも人はコンテンツではなく、人間にお金を払ってきたんだと思うんです。ライター、言論人、なんでもいいんですが、みんな自分たちを「もの書き」だと思ってきた。なぜならば、いままでは文章を書くしか方法がなかったから。でも、人がお金を払いたかったのは「文章に」ではなく「人に」なんですよ。その意味で、しゃべるとか、動画っていうのはすごく向いてるんですよね。
じつはアーティストもそうだと思いますよ。アートでもそうだし、ぼくのような哲学でもそうなんだけど、「こいつがやってること最初はよくわからなかったけど、だんだんわかるようになってきたぞ」っていうプロセスがけっこう大事なんですよ。アートって最初に出てきたときはよくわからないわけですよ、「これなんだ?」と。でも、だんだん魅力がわかっていって、いつの間にか世の中の価値が変動するということが起こる。
それは哲学も同じなんですけど、その価値の変動を起こすためには時間がかかるじゃないですか。その時間を引っ張るのに使えるのが人間力みたいなもので。こいつのやってることはよくわからないけど、なんかすごいことやりそう、みたいな感じで時間を稼ぐ。『ゲンロン戦記』にも書いたように、そのあいだに徐々にひとの価値観を変えていくのが啓蒙というか、ホントの社会改革だと思うんですよね。
これは、外山滋比古先生の「思考の整理学」で書かれてた雑談の重要性とも通じることだ。
わたしももっと話す場を増やしていきたいと思った。
そして、東さんの他の本ももっと読んでみよう。
あぁ本は面白いな。
栫彩子(カコイアヤコ)関西が拠点のフリーのフローリスト。
店舗を持たず、受注制作でアレンジ・花束を制作し宅配便でお届けしています。書くことも仕事にしたい。。有料マガジン「たゆたうものを編みたくて」でエッセイを書いています。趣味は読書と英語と3DCG