キリング・ミー・ソフトリー【小説】41_drama queeeen
恐怖を微塵も感じなくなったダイブを繰り返し、好き勝手に動き回ってMCで笑い、メッセージ性の強いバラードが琴線に触れ、存分にフェスを楽しんではいるが、どこにいても目立つ筈の莉里さんとは会えず。
当たり前だ。約束でもしない限り、このような人混みで見つけるのは無謀。
それもそうか、同じ空間にいられるだけで満足だから追い求めるのは控えよう。
束の間の休憩、ステージの境目にあたる硬くて冷えた地面にへたり込むと、周辺の会話が耳に入ってくる。
そんな時、
「あっ、もしかしてLRさん?だよね?」
すぐさま振り向くと、そこには筋骨隆々の男と、オーバーサイズの真っ黒いパーカーに膝が擦り切れたスキニージーンズを合わせ、前髪を無造作にかき分け、殆ど素っぴんに近い面影にエメラルドグリーンのカラーコンタクトが光る……莉里さんがいた。
道理で気付かない訳である。
背の高さを活かした中性的なスタイルで、パッと見、ハーフのイケメンかと思う程だった。
いつもとは雰囲気がだいぶ異なる。
「え、あの、や、私は、」
「その派手なスニーカー。写真載っけてたよね。あれ、違ったっけ?」
「えっと、」
誰かフォロワーらしき者に声をかけられ困惑している様子なので、徐に立ち上がり2人の間へ割って入った。
「俺の彼女になんか用ですか。」
「ごめん!ナンパじゃないから!」
偽の恋人が現れた途端に男はそそくさと退散する。莉里さんは尋常でなく驚いた顔でやり取りを眺め、飛び付いてきた。
「アキくん!?」
「ああ、うーんと、困ってた?っぽいし。」
俺の彼女、という小っ恥ずかしいフレーズで地団駄を踏む。咄嗟の対応とはいえ、突拍子もないことを口走った。
「うっそ、今日来てたの知らなかった!」
照れ臭さに負け、黙って再び座る。
ホントに助かったよと莉里さんが隣へ寄り添う。さながら本物のカップル。
やめろ、そういった行為を軽はずみにはせず、悪戯にドキドキさせないで欲しい。
「さあ、次のバンド観に行こ!」
〈気にしてないです〉風を精一杯装い、切り替えて立つ。
「アキくんちょっと待ってよ、急に屈んだせいでクラクラしちゃった。」
「えっ。」
「引っ張って?」
苦しげな表情を浮かべ、そっと呟き片手を差し出し見上げた。普段あまり目線が変わらないので新鮮。こいつ、策士か。
もう降参、一生敵いません。
支えて起こす際、うっかり背中にも触れてしまったが不可抗力。
「ありがと!続き、楽しもうね!」
こんな出来事があれど彼女にとっては何の意味も持たない。