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あと2日!英一蝶展! -見たかったあの作品を見てきたら感じた、江戸時代と現代の芸術観の違い-

行って来ましたよ~
「没後300年記念 英一蝶 ー風流才子、浮き世を写すー」
会期ややギリギリで!
というわけで、展覧会を見たことをきっかけに思ったことを、少し書かせていただきます!

※当方まだまだアート勉強中の為、その点踏まえた上で読んで頂けると有りがたいです。
※サムネの画像は私が撮影した『舞楽図屏風』です(今回撮影OK)。

今回の展覧会、なにがすごいかというと、
展示の絵画作品が、ほとんど全部英一蝶作
ありますよね、特定のアーティストの展覧会と言いつつ、そのアーティストのはちょっとしかないとか。
なんなら一作品しかなくて、他は全部違うアーティストの、とか。
いやそれはそれで、大変参考になって良いことなんです。
ただ今回は、ほぼ一蝶
違うのは英一蝶の肖像画(前期展示)と、あとちょっと帰属が微妙な作品(息子で名前が同じ英一蝶の作品かもしれない)があるのくらい。
日本各地の美術館はもちろん、海外はメトロポリタン美術館、それから配流時代のものは各島の個人蔵のものが多いようで、個人の方や神社などの協力があっての開催なのですね。
一つ一つ交渉していくんだろうなぁと思うと、頭が下がります!!

さて、今回の展覧会を見た事をきっかけに、ふと思ったこと。
今回の目玉作品の一つ、『布晒舞図』。
私も本で見た時から好きで、今回見に行った目的の半分くらいはこの作品だったと言ってもいいくらいです。
一蝶の代表作の一つといえるでしょう。
作品のキャプションにも、「小品ながら一蝶の最高傑作…」とありました(記憶違いだったらすみません)。
なるほどそうだよね、と思いつつ、なんとなく心に引っ掛かりが。
いうてサイズ小さめの作品ですし。
一蝶には数は少ないですが、屏風絵の大作もいくつかあります(展示もされています)。
得意の風俗画の中でというならば、『雨宿り図屏風』もあります。
それらを差し置いて…と考えたとき、
近現代の我々の芸術観と、江戸時代のそれとの違いを、なんとなく感じたので、それについてさらっと書いてみようと思います。

英一蝶は元禄年間に活動した画家で、初め狩野派の狩野安信に師事した後、他ジャンルにも学び、主に風俗画家として活躍しました。
そのため展覧会では、一蝶の画技の幅広さに本当に驚かされます。
狩野派、菱川派、やまと絵、水墨画、狩野派由来の仏画、等々…
また得意の風俗画では、江戸の町の人々のおかしみのある様子を、生き生きとした筆遣いで“活写”しています。

『布晒舞図』も、自由闊達でありつつ、しかし粗雑でなく丁寧に選ばれた筆遣いで描かれています。
またそのような線でも筆のスピード感が失われないところに、“上手さ”が感じられます。
その“上手さ”が人物の表情や仕草をより生き生きとしたものにしていて、今にもお囃子が聞こえてきそうです。
(その他にどのようなすごさがあるのかは、図録の解説に書かれているので、興味ある方は実際に作品を見て、図録の解説も読んで頂ければと思います)

このような描写ができるのは、絵師の他に幇間もやっていた一蝶ならでは…といっていいかもしれません。

一蝶の作品の中で、大がかりな屏風絵や彩色の仏画などは、基本的な部分を狩野派や古典的なやまと絵を典拠にしたものが少なくないようです(もちろんその中にも一蝶の独自性があるのは、各作品のキャプションでも説明されているので、ぜひそれも見てもらいたいです)。

どんなに力が入っていても古典寄りである作品よりも、作家の個性が際立つ作品の方に目線がいくところが、まさに近現代人である私たちらしいな、と思ったのでした。
それは明治以降、近代西洋画の新しい思潮や、個人主義的な考え方が流入した事がかなり影響していると思われます。

それ以前は恐らくそのような考え方は主流ではなかったでしょう(詳しく調べた訳ではないです。ちがったらすみません)。
狩野派時代の一蝶の師匠、狩野安信も、『画道要訣』の中で

 凡質画は不如学画といへり、(中略)後世の法と成かたし、(後略)

宇佐美文理 青木孝夫 篇
芸術教養シリーズ27
芸術理論古典文献アンソロジー 東洋篇
2014年6月18日第一刷発行
P.324

…と、質画=才能で描く画よりも、学画=先達のすぐれた作品を学習して描く画の方を評価し、学画であれば後世に伝えることができるとしています。
画家の徒弟制度がすっかりなくなってしまった現代とは、考え方が真逆ですね。

もちろんこれだけを典拠とするのは心もとないですが、
まぁあくまでも展覧会の軽い感想と受け取って下さい。

ただそれとは反対に、昔も今も日本人はどことなく、『布晒舞図』のような簡潔な絵を好む傾向があるかな、ともちょっと思うのです。
老子の考えにも、大功は拙なるがごとし(この絵の場合は全然“拙”ではないですが)、とか、食べ物も美味しすぎるのは口によくない、みたいなのがあるみたいですしね。
(このへんも感想としてなんとなく、でゴカンベン!!)

とにもかくにも、とっても見ごたえあって、勉強にもなった展覧会なのでした!!
あと2日で終了なので、まだの方はぜひGo!!!


《参考文献》

サントリー美術館|没後三◯◯年記念 英一蝶 ー風流才子、浮き世を写すー|サントリー美術館|2024.9.18

宇佐美文理 青木孝夫 篇|芸術教養シリーズ27 芸術理論古典文献アンソロジー 東洋篇|藝術学舎|2014.6.18