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人と、意思と、幸福と。それらを綴る、お伽噺――『Unnamed Memory』


 魔法が当たり前にある世界での、王と魔女による運命のお伽噺――。
 壮大で、重厚で、軽妙で、悲痛で、愉快で、鮮明で――しかし、儚い。そんな叙情詩のような物語に、貴方はきっと引き込まれるでしょう。


初めに


 藤村由紀さん、あるいは古宮九時先生の書いた、永く壮大な物語。

 『Unnamed Memory -名前を持たない追憶-』

 公開から十と余年の時を経てようやく本になったこの小説は、私にとって忘れがたい特別なものであり、誰しも手にとって欲しいと願わずにはいられない物語です。

 楽しんで、心揺さぶられて。そうやって読んで欲しい本です。


 この『Unnamed Memory』は私がTwitter上にて常々お勧めしている作品です。私のTwitterをいつも見ている方は、きっと知っていることでしょう。

 物語の在り方。
 そして物語の語り方。
 それらが個人的に、しかしたまらなく好きな作家さんがこの本の著者である古宮 九時 (Web名義:藤村由紀)先生なのです。

 そういう作者単位で推しであることや複数冊に渡るシリーズを巻単位で記事立てすること、また『ジルコニア』という同著者の小説の紹介記事冒頭(参照リンク)で綴った事由のため、溢れ出る感想をたっぷり書くべくこのUnnamed Memoryの記事は複数の記事に渡るものになります。


 なおこの記事は未読者向けの紹介記事です。よろしくお願いします。


あらすじ


 魔法が当たり前にある世界。
 戦乱と混乱の続いた暗黒時代が終わり、一抹の不穏さは孕みつつも平穏が訪れた「魔女の時代」。強大な力を持ち、数百年もの永きを生きる五人の魔法士の女たちの君臨する時代。

 強国ファルサスの王太子・オスカーは幼い頃に魔女の一人・「沈黙の魔女」によって掛けられた「子を成せない」という呪いを解く術を求めて、《青き月の魔女》と呼ばれる魔女を訪ねます。

『踏破者の望みを叶える』と言われる、魔女の棲む塔。

 武力は勿論、知恵や精神力も試される塔を乗り越えたオスカーは、頂上で試練の主である少女――《青き月の魔女》ティナーシャと出会い、解呪を求めます。

 しかしそれに対する答えは芳しいものではなく。
 紆余曲折あって、オスカーはティナーシャを己の守護者として城に連れ帰ります。

 ――ただし、求婚しながら。

 


魅力


  個人的にはなんと言っても文章、つまり表現が大好きです。
 むしろだからこそ盲目に推すというもの。
 作品の土台が合うからこそ、ここまで好きなのです。

 景色の描写。人物の描写。心理と情景。伏線の張り方。そして台詞回し。

 どれをとっても私にとって心地よく、「好きだなぁ」と感慨深く深呼吸をしたくなるような、そんなものです。


 個人的でない話をするなら、硬軟入り交じる構成、というものがあります。あらすじ、そして前振りで触れたように、壮大で王道なお話が始まるのかな? ――なんて思ったらこれが間違いではないのですが大間違い。


 早々に始まるのは王子と魔女の夫婦漫才(付き合ってない)です。

 紆余曲折、とあらすじでは書きましたが、そこの内容を描くシーンも
・伏線
・暗喩/暗示
・世界観の空気作り
・物語の目的設定
・キャラクターの骨子の印象付け
 などいうたくさんの情報を一気に、これでもかと言うくらい示し、しかし描写や情報表現の過剰さは感じさせない凄まじいものとなっています。ある程度読み進めてから読み返すと鳥肌が立つ濃密さです。到底ささっと書くのを躊躇するくらいには濃いものです。

 だというのに主人公二人、オスカーとティナーシャのコミカルなやりとりが続くんだから凄いのです。
 冒頭は硬さと作家性を感じさせつつも完全にラブコメ。
 はっぴーえんどだよ。はぴえん。沼。穴。おいでおいで。

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 だいたいこういう感じ。……どゆこと?
(ちなみにこの画像は白猫ねねこさんという方のツイートからお借りしたものです。実に端的にこの作品と作家さんと読者について表現してます)


終わりに


「魅力」の項では妙な終わり方をしましたが、この『Unnamed Memory』という物語は本当に心揺らされる、圧倒的な重厚さと緻密さを誇るファンタジーです。

 硬軟重軽を自在に操りきった壮大な一大叙情詩、ぜひぜひお読み下さい。

 きっと気に入るでしょう。

 感想記事、私の(2019年上半期で)気に入った他の本の紹介記事がこのマガジンにて書いてありますので、この物語が面白いか気になる方、私と趣味があうか気になる方、万が一興味をいだいてくださった方は、私の他のnoteも見てくださる嬉しいです。よろしくお願いします。



 お付き合い頂き、ありがとうございました。


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